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2018年02月19日14時53分掲載
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文化
【核を詠う】(258)朝日歌壇(2017年1〜12月)から原子力詠を読む(2)「九条は死文となりてこの国は核に呪はれ核に死すかも」 山崎芳彦
前回に続いて「朝日歌壇」の原子力詠を読むが、今回は2017年5月〜9月第一週(9月4日)の入選歌からの原子力詠の抄出・記録になる。2017年7月7日に国連総会は「核兵器禁止条約」を加盟国122カ国の賛成で採択し、同条約の発効に向けて大きな歩みを前進させた。だが、日本政府はこの画期的な、人類全体の生存と安全を守るための、「核兵器は違法であり、悪である」とする国際社会の価値の共有に背を向けた。核保有大国とその「核の傘」に依存する国々と共にこの条約に反対し、成立を妨害したのである。「核兵器禁止条約回避してどの面下げて原爆忌の客」(中原千絵子)、「HIBAKUSHAと初めて記されし条約の批准果たせぬこの国の夏」(井上孝行)、「〈核兵器禁止条約〉に一言も触れぬ首相の六日、九日」(鬼形輝雄)その他、日本政府の姿勢に怒る作品が入選歌として選ばれている。多くの人々が、詠わなくても強い怒りと、悲しみ、このような政府を持ってしまっていることへの危機感を痛感した。その中から歌が生まれたのであろう。
その安倍政府は、今年2月2日にトランプ米政権が発表した「核戦略見直し」(NPR)―「核兵器の近代化、使える核兵器の開発と増強」、「先制核攻撃のための小型核弾頭開発」などの核戦略について、「高く評価する」立場を明らかにした。国連の「核兵器禁止条約」に対して「「まったく非現実的で、実効性がない」と敵視するトランプ政権と「100%一致する」と公言している安倍政権だから、極めて危険で歴史に逆行するトランプの核戦略に対する「高い評価」になるのだろうが、、「唯一の核被爆国として核廃絶の実現に努力する」と唱える日本政府の「嘘」を世界に喧伝する愚行だ。やはり日本も核保有国の仲間入りをするのだろうと見られることを百も承知の上での、「本音」の表れと言われても仕方があるまい。それこそ、どの面下げて北朝鮮の核開発の脅威を言えるのか、「核なき世界」を主張する根拠を投げ捨てる日本政府の実態であるとしか言えない。トランプはロシアや中国、北朝鮮の脅威を強調するだけでなく、小型核兵器の開発によって局地的な紛争や「テロとの戦い」にまで核使用のハードルを引き下げ、「同盟国」を巻き込むことになりかねないことを思えば、「トランプと安倍のランデブー」の危うさは計り知れない。
核の恐怖が支配する世界への逆行を食い止める力について、国連の核兵器禁止条約の採択に向けて取り組み、ノーベル平和賞を受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長が授賞式で行った演説を想起する。彼女は、全ての核保有国は世界を危機にさらしており、日本など核の傘のもとにある国も破壊行為に加担することになると批判し、全ての国が核兵器禁止条約に参加すべきだと訴えた。
彼女は語った。その一部をNHKニュースウエブの2018年2月14日「ノーベル平和賞授賞式ICAN事務局長演説全文」から、断片的にだが抜粋させていただく。(筆者の抜粋方法に不備があればお詫びする。)
「私たちの陸地の中に埋設されたミサイル発射台や、私たちの海のなかを潜航する潜水艦や、私たちの空を高く飛ぶ航空機など、世界中の数十カ所に、人類を破壊する1万5000個もの物体が置かれています。…私たちは、核兵器をこの世界の定着物として受け入れることを拒否し、自分たちの運命が数行の発射コードによって束縛されていることを拒否する人々を代表しています。私たちの(核兵器禁止条約の実現という)選択こそが、唯一、可能な現実です。他の選択は、考慮に値するものではありません。核兵器の物語には終わりがあります。どのような終わりを迎えるかは私たち次第です。核兵器の終りか、それとも、私たちの終りか。そのどちらかが起こります。」
「核兵器を保有する者たち自身が認めているように、核兵器の真の効用とは恐怖を引き起こす力を持つことです。核兵器を支持する者たちが『抑止』効果について語るとき、彼らは恐怖を戦争の兵器として称えています。彼らは、無数の人間を一瞬で皆殺しすることの準備ができていると宣言し、威張る仕草をしています。」
「核兵器が使われるリスクは、今日、冷戦が終わった時よりも大きくなっています。今日、世界にはより多くの核武装国があり、テロリストもいれば、サイバー戦争もあります。これらすべてが私たちの安全を脅かしています。目をつむってこのような兵器との共存を受け入れることは、私たちの次なる大きな過ちとなります。」
「今日世界中に存在する核兵器のごく一部が使われただけでも、火災旋風の爆炎が大気圏高くに届き、地球の表面は十年以上にわたり冷却、暗黒と乾燥をもたらします。それは食料作物を消し去り、何十億もの人々を飢饉の危機にさらします。それにもかかわらず、私たちは、このような私たちの存在そのものに対する脅威を否認しながら生きているのです。(ノーベル文学賞を1950年に受賞した)ウィリアム・フォークナーは、人類の声によってのみ、私たちは恐怖に打ち勝ち、人類が持続することを可能にすると語りました。ICANのつとめは、そのような声となることです。人類及び人道法の声となること。一般市民を代表として声をあげること。その声を人道的観点から上げることによって、私たちは、恐怖を終わらせ、否認を終わらせることができます。そして最終的に、核兵器を終わらせることを。」
「私は本日、核戦争の恐ろしさを証言することを自らの人生の目的としてきたサーロー節子さんと共にこの壇上に立っていることを光栄に感じています。彼女、そして被爆者たちは、この核兵器の物語の始まりを経験しました。私たち皆に課せられた課題は、彼らがこの物語の終りをもその目で見ることができるようにすることです。彼らは、自らの悲痛な過去を何度もくり返し再現して来ました。それによって私たちがよりよい未来をつくりだすことができるようにするためにです。」
「核兵器禁止条約は、この世界的な危機の時にあって、未来への道筋を示しています。それは、暗い時代における一筋の光です。そしてさらに、それは私たちに選択を与えています。二つの終りのどちらを取るかという選択です。核兵器の終わりか、それとも、私たちの終わりか。前者の選択を信じることは、愚かなことではありません。核を持つ国が武装解除できると考えることは、非理性的なことではありません。恐怖や破壊よりも生命を信じることは、理想主義的なことではありません。それは必要なことにほかなりません。私たち全員が、この選択に迫られています。そして私は、すべての国に、核兵器禁止条約に参加することを求めます。」
「米国よ、恐怖よりも自由を選びなさい。ロシアよ、破壊よりも軍備撤廃を選びなさい。イギリスよ、圧制よりも法の支配を選びなさい。フランスよ、テロよりも人権を選びなさい。中國よ、非理性よりも理性を選びなさい。インドよ、無分別よりも分別を選びなさい。パキスタンよ、ハルマゲドンよりも論理を選びなさい。イスラエルよ、抹殺よりも良識を選びなさい。核兵器の傘の下に守られていると信じている国々に問います。あなたたちは、自国の破壊と、自らの名の下で他国を破壊することの共犯者となるのですか。」
「私たち市民は、偽りの核の傘の下に生きています。核兵器は私たちを安全になどしていません。核兵器は私たちの土地や水を汚染し、私たちの体に毒を与え、私たちの生きる権利を人質に取っているのです。世界の市民に呼びかけます。私たちと共に、あなたの政府に対して、人類の側に立ち核兵器禁止条約に署名するよう要求してください。私たちは、すべての国の政府が理性の側に立ちこの条約に参加するまで活動し続けます。」
ICANと広島・長崎の被爆者の協同作業が生み出した核兵器禁止条約署名式で、グテーレス国連事務総長は「広島と長崎の勇敢な被曝者は、核兵器の壊滅的な影響を思いださせる。彼らの証言は感動と、条約交渉に道徳的な力を与えた」と賛辞を送った。しかし、日本政府は核兵器禁止条約に敵対的な姿勢をとりつづけている。ICANのベアトリス・フィン事務局長が1月12日に来日し18日まで滞在した際に、安倍首相との面会を政府に求めたのに対し、日本政府は日程を理由(安倍首相が東欧歴訪中で17日帰国予定)にそれを断った。フィン氏から、唯一の核被爆国として核兵器禁止条約への協力を求められることをおそれて「逃げた」のだ。そして、2月2日発表の米国の「核戦略見直し」による核の脅威拡大には同意したのである。核廃絶に反する安倍政府の「首尾一貫」は、日本の国民の意思に反するものだが、安倍政権の原子力・核政策の本質を露わにしたというべきだろう。
朝日歌壇の作品を読む前に、多くのことを記したが、筆者としては記しておかなければという思いの故である。朝日歌壇の原子力詠を読んでいく。
*2017年5月 インフラも人も失せにし六年の富岡の家冷蔵庫の中 (郡山市・渡辺良子 佐佐木幸綱選)
原発を抱える柏崎に来て知らなさすぎる自分に気づく (町田市・山田道子 佐佐木選)
東北の人にとっては東北は「あっち」ではなく「こっち」なんです (横浜市・道蔦静枝 馬場あき子選)
東北のこっちの方から兵士らと米と娘と電気送りし (南相馬市・斎藤 杏 高野公彦・馬場共選)
黙(もだ)深し学園祭に黒ぐろと実物大の原爆模型 (茅ヶ崎市・若林禎子 永田和宏選)
原発のゴミに埋もれる日本を次の世代に引き継ぐ稼働 (八代市・白濱 馨 馬場選)
慎ましく暮らしおれども六年の借り上げ二間(ふたま)に足の踏み場なし (いわき市・守岡和之 高野選)
*2017年6月 「日本はかならず日本人がほろぼす」の歌沁む塚本邦雄忌近し (水戸市・中原千絵子 馬場選)
避難地に移転六年閉校とふ母校のニュース訃報のごとし (水戸市・紺野告天子 佐佐木選)
標的の基地からおよそ五十キロホトトギス鳴く原発予定地 (光市・田中 径 佐佐木選)
弾道ミサイル落下時の行動Q&Aいわくに市報に挟まれ届く (岩国市・木村桂子 高野選)
過ちは繰返します反省も平気でします日本人です (いわき市・馬目弘平 馬場選)
九条は死文となりてこの国は核に呪はれ核に死すかも (銚子市・網中章夫 馬場選)
キャラバンのごとく汚染土運搬車小雨にけぶる常磐道ゆく (茂原市・植田辰年 佐佐木選)
*2017年7月 たまあには原発の歌があってもいい我ら避難して六年半近し (いわき市・守岡和之 佐佐木選)
紫陽花(あじさい)に切々と雨フクシマはフレコンバッグにむっつりと雨 (下野市・若島安子 馬場選)
マンハッタン計画「原子爆弾」の新語を生んで「ヒバクシャ」を生んだ (西条市・丹 佳子 高野選)
テレビから線量数値の流れくる南相馬のビジネスホテル (茂原市・植田辰年 佐佐木選)
合歓(ねむ)の木に合歓の花咲く夕小道いつしか空き家になっていた家 (福島市・美原凍子 高野選)
*2017年8月 十三にてヒバクシャとなり七十余年廃絶を問へど国応(こた)へざり (浜松市・松井 惠 馬場選)
砂吐いても吐いても貝のかなしみは消ゆることなしわだつみの底 (福島市・美原凍子 馬場選)
若和尚吾から引き継ぎ原爆の投下時刻に寺の鐘つく (三原市・岡田独甫 馬場選)
パレットに赤色多く絞り出し「8月6日」を描く人の在り (広島県府中市・内海恒子 佐佐木選)
大空襲・特攻・沖縄・原爆死 罪なき人の命し無惨 (アメリカ・大竹幾久子 高野選)
蚊帳(かや)吊りて眠りしとおき夏の夜のあの頃風がやわらかかった (福島市・美原凍子 高野選)
半筒のカバー載せんと鳶職(とびしょく)は原子炉建屋に立ちて指示せり (福島市・青木崇郎 馬場選)
核のゴミの処分場適地公表さる「科学」の向こうの過疎、交付金 (橿原市・福田示知恵 佐佐木選)
核兵器禁止条約回避してどの面下げて原爆忌の客 (水戸市・中原千絵子 高野選)
HIBAKUSHAと初めて記されし条約の批准果たせぬこの国の夏 (長野県・井上孝行 高野選)
*2017年9月3日 負の日本に学びし数多(あまた)なる国が核兵器を禁止せよと言うのに (近江八幡市・寺下吉則 佐佐木選)
広島は広島の鐘長崎は長崎の鐘鳴る原爆忌 (広島市・岡山礼子 佐佐木選)
「ヒバクシャの条約になぜ参加せぬ」忖度(そんたく)をせず長崎市長 (町田市・冨山俊朗 佐佐木・馬場共選)
市長の役務めるうちに本物の市長になりし長崎市長 (神奈川県・神保和子 佐佐木選)
今こそは田上市長が立ち上る政府に迫る核兵器禁止条約 (たつの市・藤原明朗 佐佐木選)
草むらにきりぎりす鳴く平和あり原爆の図の地獄の外に (熊谷市・内野 修 高野選)
八月九日、三七度でたへがたし原爆投下の地上は一〇〇〇度超 (三鷹市・増田テルヨ 高野選)
しんじつを言えばこんなに悲しくて長崎市長の平和宣言 (水戸市・中原千絵子 永田選)
原爆忌どこの総理かと問いただす日本の総理黙して語らず (小金井市・チャオ菰田 永田選)
〈核兵器禁止条約〉に一言も触れぬ首相の六日、九日 (安中市・鬼形輝雄 永田選)
黙祷(もくとう)のひとりのしじま原爆忌五人兄弟われのみ残る (国分寺市・越前春生 馬場選)
「どこの国の総理ですか」と総理に問うナガサキのヒバクシャ核禁止への意志 (埼玉県・島村久夫 馬場選)
被爆の日過ぎて一日一日と報道の減ることへの不安 (長崎市・田中正和 馬場選)
(お詫び訂正) 前回の表題の作品に文字の誤りがありました。「長女去り長男去れど老二人春の畑打つ再稼働の町」に訂正し、お詫びします。(「長男されど」は「長男去れど」の誤りでした。)
次回も朝日歌壇から原子力詠を読む。 (つづく)
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