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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2018年04月17日18時14分掲載
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文化
【核を詠う】(263)福島の歌人グループの歌誌『翔』の原子力詠を読む(4)「メルトダウン天の岩戸を揺るがして神を恐れぬ民にあらむか」 山崎芳彦
福島の歌人グループ「翔の会」の季刊歌誌である『翔』の第58号から61号までを読んできて今回が最後になる。もちろん『翔』は主宰の波汐國芳さんをはじめ会員各氏のさらなる作歌活動によって今後も続けられていくに違いないし、筆者もさらに『翔』の作品を読ませていただきたいと願っている。福島の地にあって、東京電力福島第一原発の過酷事故によって苦難を強いられながら、その実を写し、生を写し、詠い(訴え)残していく短歌人の一層のご健詠を願うものである。原発事故から7年を経て、現在進行中の原発事故による人々の苦難と、行先の見えない事故原発の処理の現実にも関わらず、この国の政官財を中心とする勢力の原発回帰路線が推進されている。今月10日に経済産業省の有識者会合「エネルギー情勢懇談会」は原子力発電を維持する方向を位置づけた提言をまとめた。再生可能エネルギーを「主力電源」と位置付けてはいるが、原発依存をやめようとせず、大手電力が送電線の空き容量その他を理由に再エネの買い取り制限を強めている不当な再エネ妨害を許しているエネルギー行政の下では空文だ。
また、まことに凄まじいことだが、福島原発に重大な責任を持つ東京電力が、東海第二原発(茨城県東海村)の再稼働を目指している日本原電に対する経営支援・資金支援をする方針を決めるという暴挙を行っている。原発事故を引き起こし、多くの人々に大きな被害を与え国からの資金援助、電力消費者からの電気料、つまり巨額の国民負担によって破綻を免れ実質国有化されている東電が、これも破綻状態にある原発専業会社の日本原電による東海第二原発再稼働のために資金援助をするなどという事が許されるはずもない。この11日の国会の衆院予算委員会で立憲民主党の枝野代表が 「まだ多くの人が東電の賠償方針に不満を持ち争っている状況の中で、他の会社の原発に資金支援する金があったら、賠償に回せ、廃炉に回せ、電気料を下げろ。国民の理解は得られない。」と、東電の小早川社長を厳しく追及した。これに対して東電社長は「当社としての適切な判断」として支援が適切だと強弁し、それをバックアップして世耕経産相は「東電経営陣が経営上のメリット等を総合的に勘案し、判断したもの」と答えた。まさに、政府・電力企業一体での原発再稼働、原発回帰への共同作業をあからさまにしている。
福島原発の事故が起きた時、東海第二原発も外部電源が遮断されて停電し、非常用ディーゼル発電機三台で海水ポンプを動かし辛うじて原子炉を冷却し続けたが、津波によって海水ポンプ一台が水没し非常用ディーゼル発電機一台が停止、さらに残り二台の海水ポンプも水に浸かって、あわや大事故突入寸前となった。極めて危険な状態に直面したのであった。
この東海第二原発の再稼働に反対する声は茨城県民のみならず、この12日に全国の地方議員309人が参加する「東海第二原発再稼働に反対する全国自治体議員の会」(結柴誠一代表・東京都杉並区議)が東海村と周辺自治体5市(日立、ひたちなか、那珂、常陸太田、水戸)市議会に再稼働に反対すること、同原発の20年の運転延長(今秋運転40年になる)に反対を表明することを求める要望を行った。東海第二原発再稼働をめぐり、立地自治体と同様にリスクを負う原発周辺市町村の事前了解を必要とする安全協定が、全国に先駆けて原電との間で結ばれたことの意義が、今後ひろく全国的に展開されることが望まれる。
福島原発事故は今なお進行中であることを、自ら福島・浪江の除染作業さらに福島第一原発での廃炉・収束作業に従事した体験(2014〜2015年)を踏まえて池田実さんの『福島原発作業員の記』(2016年2月、八月書館発行)は、次のように記している。 「福島での一年余りの除染・廃炉作業を振り返ると、実に様々な矛盾がゴロゴロ転がっていた。3・11から四年余り経ち、フクシマでは避難した人びとの帰還が促され『復興』が着々と進んでいるように言われている。しかし、私から見れば、福島の『復興』は全くの絵空事、気の遠くなるような話でしかない。/私がかかわったイチエフの廃炉にしても、工程表によると四〇年後とされているが、誰もそれを信じないだろう。すでに今年に入って一〜三号機の使用済み燃料プールからの核燃料取り出し開始時期は最大で三年延長され、私が入所してからも汚染水漏れや死亡事故などで休工が相次いでいるのが現実。大雨が降れば、タンクの堰から雨水が漏れ、汚染水が海に流失するのは日常茶飯事。もう『事故』とは呼べない。(略)膨大なタンク群にたまっていた汚染水の処理は東電が五月に『完了』と宣言したが、今の処理装置では除去しきれないトリチウム(三重水素と呼ばれる)に汚染されたまま今後もタンクにたまっていく現実がある。毎日見上げていた一号機の白いカバーも、外されては戻される、の繰り返し、一向に中のガレキ撤去に着手できない。燃料デブリ(炉心溶融物)に至っては、格納容器がどこにあるかさえ、いまだはっきりしないのだ。」
「確かに、人類史上初めての収束作業で前例のない作業ばかりで、手探り状態での試行錯誤の連続ということは理解するが、それにしてもムダやムリが多すぎる。イチエフでは、ゼネコン、原子炉メーカー、プラントメーカー、管理・検査請負など多業種の企業が混在し、またその下に二次、三次の下請け会社が入り込み(約八〇〇社)、収束、廃炉作業を展開している。業種間の競争も激しく縄張り意識も強い。(略)結局、東電は大手元受けメーカーに現場を丸投げしてしまう。」
「さらに言えば、東電は事故について不十分ではあれ謝罪を表明しているが、実際に原子炉を作り、運転、管理していた原子炉メーカー、プラントメーカー、ゼネコン各社は自己責任について一切言及を避けている。指示したのが東電ならば、いわば実行犯ともいうべき責任が元請け各社にはあると思うのだ。しかし、イチエフの現場に入れば、事故前と全く変わらない各社の縄張りとヒエラルキーが堅牢に存在し、そのすそ野はさらに深く広がっている。それどころか、『廃炉ビジネス』と称して、近郊に大型焼却施設や廃炉研究施設などの建設を新たな事業として展開しようとしているのである。」
「イチエフの未来。…私たち作業員の暮らし、雇用はどうなるだろう。いまは七千人が働くイチエフ、二万人以上が働いている除染現場は、はたとて四〇年後、一〇〇年後はどう変化しているだろうか。おそらく除染作業については周辺自治体での作業も終了し、見切り発車ではあれ数年後には収束へと向かうだろう。しかしイチエフの廃炉作業は今後一〇〇年は続くと見て間違いないと思う。そのころ、日本は『原発に依存しない社会』を創りあげているだろうか。(略)イチエフの周辺に建設される中間貯蔵施設は、三〇年の期限を過ぎたら他の場所に移設されるであろうか。いまだ端緒にも立っていない溶融した燃料棒などの取り出し作業が成功したとしても、それをどう処理するのか、前人未到の挑戦はずっとつづく。」
池田さんは東京生まれで、東京で郵便局に勤務し、3・11の時は東京で郵便局の配達業務していたが、福島の原発事故を知り、強い関心を持ったという。「恥ずかしい話だが、私はそれまで福島原発で作った電気が東京にまで送られていることを知らなかったのだ。…悲しいことではあるが、3・11によって福島は東京にとってグッと身近な存在になったのだ。そう、私にとってもあの時から福島は頭の隅からずっと離れない存在になっていた。」 そして、郵便局関係の「仲間」の現地の状況などを知り、より関心を強くして、深い思いを持った。福島のために何かできないか、池田さんは定年退職(2013年)してから、福島に原発に関する仕事を求め、除染作業、さらに福島第一原発の廃炉作業の仕事につき、その体験をもとに、『福島原発作業員の記』を一冊にしたのだが、その体験記は具体的かつ詳細であり、ポイントをしっかりととらえた内容の好著となっている。
この体験の中で池田さんは短歌を作りはじめたという。除染作業をしていた時「ふと、言葉が降ってきた。」著書の中に、朝日歌壇に登校し入選作になった数首が記されている。 〇除染する熊手の上に降る花弁愛でられず散る浪江の桜 〇どれくらい除染すれば人は帰るだろう自問を胸に刈る浪江の草花 〇また一人ましな現場を求め去る浪江の空の渡り鳥のごと 〇除染から廃炉作業に身を投じやがて福島がふるさとになる
『翔』の作品を読む前にまとまりのない文を記してしまった。
◇歌誌『翔』第61号(平成29年12月発行)抄 連なりし仮設住宅ひつそりとその傍に白躑躅咲く
被災者が帰り来し町大堀の相馬焼茶碗ふたつ購ふ
原発の避難区域の家々ぞ常磐道ゆがらんどうに見ゆ
原発の事故より六年経ちたるをいまだに人の住めぬ町々
若者は相馬野馬追ひ受け継ぎて復興の道ひた駆くるなり
震災の三・一一境とし歌詠まむかと迫るものあり (6首 渡辺浩子)
恋々とどこまで続く荊みち昇華ねがひつつさ迷ふこころ
過ぎしこと裡なる箱に仕舞ひ込む全てを抱き明日へ向はむ
きみとわれ己が道ゆかむ心には互ひの幸を深く念じて
散る日まで華を持ちたし山の端に映ゆる残照あすも待ちたり (4首 畑中和子)
猪の罠の竪穴掘りたりき縄文時代が登りて来るを
この街に猪ら群れ遠き世の縄文時代が戻り来るかも
ダムのため追はれし猿らと出逢ひしを今福島に連ぬるは何
揺り上げよ揺すぶり上げよ朱のカンナ被曝福島の鬱の中より
奮ひ立て奮ひ立てとぞふくしまにカンナの朱が極まりさうな
福島にしがらみを脱ぐ温もりの残れる脱ぎて起てるわれはや
原発爆ぜ噫すかすかの大熊町そこから何が見えるといふの
水林とふ橅林ありて福島に水起つを聴く ありありと聴く
文明よ何で急ぐの道沿ひの夕顔の花 嗤ったやうな (9首 波汐國芳)
津波にて失せたるもののそのひとつ生家に近き信号機の灯
津波後を嵩上げの土濛濛と海が遠退く産土の町
閖上の菩提寺流され母の死を決めたるごとく墓を求めき
閖上の実家の跡に黙すのみあたたかき母の骨壺抱きて
閖上に墓なき母よ 日和山は草青々と墳墓にも見ゆ (5首 伊藤正幸)
群れ咲けばただの雑草かりそめにその一輪を朝餉の卓に
二もとの杉の巨木ぞ夫婦杉また親子杉なにを奏ずる
杉木立きつぱり天に屹立す目が眩むほど奮ひ立たすも
眠り猫まう目を覚ませ三猿よ見て聞き語れ 国の行く末
相続くデータ改竄 商の埒外なるや『論語』を開く
凝りもせず詭弁を弄する為政者の言葉も国も滑り落ちたるや
ひかれ者の小唄にあらじこの選挙 後なる者が先になるやも (7首 三瓶弘次)
新しき数値を刻む万歩計に促されゐて朝が始まる
頼りなる支柱はいづこ勢ひつつ夕顔の蔓が宙をまさぐる
山荘の近くに航空基地ありて突如の機影は音のみ残す
ミサイルが日本の上空越えてゆく「もしも」に吾らの逃げ場のあらず
明日もまた目覚むる命と疑はず独りのベッドに手足を伸ばす (5首 橋本はつ代)
東風吹かば思ひ出づるか原発ゆ見えぬセシウム注ぎたること
児を二人抱ふる姪は自主避難止めぬと言ひて電話を切りつ
早送りせねば見ることできぬとや廃炉作業の終へたる郷土
造成に切り土盛り土があるやうに怒りの山を均す術欲し
住む人の絶えたる家の秋桜が主待つがにしづしづと咲く
検食と呼び名変えへたる毒見あり校長早めの給食をとる
山林持ちは豊かな証しと言ひし祖父いまのわれには重き荷物か (7首 児玉正敏)
北上の土産のワイン卓に置き師の受賞式夫に語るも
壇上に受賞の挨拶述ぶる師の言葉のいくつしみじみと聴く
『警鐘』を読みたる人ら想ふべし福島の苦と被曝の惨を (3首 紺野 敬)
梅雨空ゆクレーンの音が迫るごと向かひの家の工事始まる
伊藤氏の潮音賞の祝賀会いわき 福島歌友の笑顔
こぼれ種日陰に咲ける朝顔の小さき花の藍色深し (3首 古山信子)
原爆も故郷も親も語らずに逝きたる父の薄きくちびる
空襲の炎の記憶薄れざる母が恐れき美しき夕焼け
空襲の炎逃れて来し親を火葬なしたるわが罪重し
痛みにて目覚めたる夜をうつしみの証しと言はむ位置替へて寝る
肩に二枚腰に二枚の湿布薬貼りて眠らむ標本のやうに (5首 岡田 稔)
戦中も戦後も夢のごとく過ぎ思ひのほかの米寿となりぬ
あな寂し潮音誌読めぬは辛きことなれば緑内障の手術を決めぬ
「翔」の会の合同歌会に参加して師の笑顔より元気を貰ふ (3首 御代テル子)
時により伸び縮みする物差しで他人を計る我が性あはれ
和紙を引く筆の穂先に耳澄まし臨書に向かふ白露の夜を
メルトダウン天の岩戸を揺るがして神を怖れぬ民にあらむか
バリケードに囲まれてゐる被曝地に猪のみが太りてゐたり (4首 桑原三代松)
人類の愚かさはかる時計あり滅亡までの時ちぢめをり
冬空に上弦の月かかりゐて戦ふべきは己と知りぬ
地球人 未開のままに終焉か科学と愛のバランス崩し
戦とふ益なきことが止められぬ人とふものを神は造りし (4首 中潟あや子)
独りなる覚悟の無きを置き去りに君を奪ひし神は何者
君が逝き片肺飛行の日々なれど心に小さき翼をひろぐ
今年また訪ね来たりぬ滝桜妻との想ひ滾らせながら
磐座の如き幹にて滝桜千手の枝に光を纏ふ
亡き妻の影を滲ませ滝桜滅入る心を癒し呉るるか (5首 三好幸治)
拒まれる理由は知らず夕空に開かんとする夕顔の花
愛される理由は知らず夕空に開かんとする夕顔の花
稲作をやめし田んぼに除染土がシートをかぶり眠りてをりぬ (3首 鈴木紀男)
寒き夏 夕顔の蔓伸びなやみ汚染土の小山覆へざるなり
夫受けし文学館賞の鬼の面夜な夜な吾は睨めつこする
文学館の土産なりとふ南部鉄瓶朝茶入れつつずつしり重し
八・一五の夫の講演聞きたしと思へど病みてゆけぬ悔しさ
文学館賞受けし夫が吾ゆゑとおだてて短歌にのめり込ますも (5首 波汐朝子)
次回も原子力詠を読む。 (つづく)
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