80年代から09年頃までに過労死・過労自殺に追い込まれた労働者50人以上の労働生活の体験をリアルに辿る2010年の拙著『働きすぎに斃れて』が、この12月、岩波現代文庫に収録される。その本の扉に私は、<私は歴史の流れるのをみていた。あれは、私の歴史だったのだ。すべては、私の身に起こっているのだ>という、ボーヴォワール『他人の血』の一文を引用している。ご存じだろうか。これは平凡なパリジェンヌが恋を発条に対ナチ・レジスタンス運動に入ってゆく契機となる、ある体験にふれたときの気づき、その美しい表現だ。私はそこに、過労死・過労自殺は特定の人の不幸ではない、それは広く日本の労働者すべてが遭遇する可能性のある受難なのだというメッセージをこめている。
残業代ゼロ制度(高プロ)やきわめて生ぬるい残業の法的規制などを内容とする「働きかた改革」法案が、29日にも衆院本会議で、おそらく強行手段を用いて成立させられようとしている。過労死家族の会の人びとはこれに抗議して首相官邸前に座り込み、委員会での強行採決に涙を流した。日本のふつうのサラリーマンは、こうした遺族の体験はまぎれもなく明日の私たちのことかもしれないと気づく感性をすっかり失ってしまったのだろうか? その気づきがこれからの労働生活を救う。まだ遅くない。それぞれの職場でみずからの労働の実態を、過労死家族の会の訴えの意味を話し合い、できれば労働組合活動として、できる限りの法案阻止行動に参加しよう。
熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
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■「毒食わば皿まで」 連合幹部が承認した残業代ゼロ法案 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201707150742396
■『わたしを離さないで』 ──限られた生の証をいとおしむ 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701131931515
■映画 『母と暮らせば』 (2015) のものたりなさ──山田洋次が見失ったもの 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611011733092
■『明日へ』の『外泊』 ─韓国の非正規女性労働者 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201609021607225
■「同一労働同一賃金」−その日本的なハードルを超えて 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201605281131016
■『家族という病』の耐えられない軽さ 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509011252472
■「かならず変わる」 熊沢誠(甲南大学名誉教授)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507210918432
■「まだ廃案に追い込める」 〜地方の動きから〜 熊沢誠(甲南大学名誉教授・労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507201103581
■『私の労働研究』−著者自身による広告 熊沢誠(甲南大学名誉教授・労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509032230294
■情勢論 熊沢誠(甲南大学名誉教授・労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201511232055521
■「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」 熊沢誠(甲南大学名誉教授・労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602122147205
■このところ私が関わった刊行について 熊沢誠(甲南大学名誉教授・労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602160930332
■「社会的労働運動」としての連帯労組・関西地区生コン支部 「社会的労働運動」とはなにか 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602201301206
■「同一価値労働同一賃金」(ペイ・エクイティ)を考慮しない「同一労働同一賃金」論など、なにも言ったことにならない 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201604151233345
■6月26日午後2時、三重県四日市の市民は、「戦争させるな、憲法壊すな!」の行動に起つ 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=20160604082700
■〈労働〉のリアルをみる憂鬱――『ティエリー・トグルドーの憂鬱』&『ナビゲーター』 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201703210200482
■【安倍政権の「労働改革」を問う−−「同一労働同一賃金」の虚妄性】 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
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■明日の投票次第で日本が戦争に巻き込まれる可能性がある 熊沢誠(甲南大学名誉教授 労使関係論)
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