東京演劇アンサンブルはこの度、ブレヒトの芝居小屋を閉じ、劇団を移転することになりました。そして新しい拠点をみつけ、演劇公演を続けるための応援基金のお願いをはじめました。今、支えてくださった皆様の存在に深く感謝し身が引きまる思いです。改めて私たちの歩みを手繰りなおしながら、次への継承と飛躍を期しております。ブレヒトの芝居小屋は、1977年にベルトルト・ブレヒト作『ガリレイの生涯』を練馬区武蔵関にあった映画スタジオで上演したことから始まりました。オープンスペースのブラックボックスの空間をブレヒトの芝居小屋と名付けました。1978年にブレヒト作『コミューンの日々』を上演した後、1979年から約1年間、劇団員が総がかりで床を張り、壁をつくり建築、それまで高円寺に持っていた稽古場を手放し引っ越し、1980年チェーホフ『かもめ』をこけら落とし公演にしました。
1954年にアーサー・ミラー作『みんなわが子』を鹿児島での公演で旗揚げした劇団三期会は俳優座養成所三期生が創立しました。演出家・広渡常敏を中心に『かもめ』を10年後にはやりたいという憧れを持った若者たちでした。1972年ころからは東京演劇アンサンブルに改名し、全国に観客組織‘労演’がひろがることと歩みをともにし、おやこ劇場、高校演劇鑑賞教室などとも芝居をつくり日本全国の旅を続けてきました。ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの‘今日の世界は演劇で変革できるか’という問いかけで、日本の社会の現実に向かう演劇をめざし、劇団名はブレヒトの劇団ベルリナー・アンサンブルに因みました。1960年、70年の安保反対闘争、1975年までのベトナム戦争、沖縄返還などの運動と連帯する演劇人であろうとしてきました。観客運動が‘演劇の大衆化’をめざし、政治から離れる流れになっていたなかで、劇団は観客組織やマスコミに頼らない自立した創造をめざす必要を感じていました。それはシステム化していくスタニスラフスキーの方法論やブレヒトへの演劇創造上の挑戦でもありました。
演出家広渡常敏の演劇論が‘いのちの空間’としてブレヒトの芝居小屋で沢山の芝居を創りました。岸田國士、久保栄、木下順二、秋元松代など日本の革新的な現代戯曲や広渡の創作戯曲に、ブレヒト、チェーホフの繰り返しの上演は新しい視点とスタイルでの既成の演劇への挑戦でした。体制から脱落した小集団の生き方に共感し、芝居を上演するだけではなく窪川、水俣、標津、三里塚などと連帯するフェスティバルを催し、現実の闘争の魂に出会いました。
若者に向けて創られた芝居『走れメロス』や『銀河鉄道の夜』に広渡常敏の演劇論は集約されたともいえます。闇にむかって走るメロスは‘演じる’のではない、役者はそこで‘生きる’しかない。銀河鉄道の傾斜は決して後には戻れない、ジョバンニはコールサックに吸い込まれていく瞬間に見える鮮やかな景色を生きる。役者は演じるのではなく‘生きる’。沢山の俳優たちのスタッフが出会いと巣立ちの空間として、日本全国を旅する芝居がつくられました。
そして世界へ発信!として、1990年の『桜の森の満開の下』のニューヨークにおけるラ・ママ劇場へ飛び込みがあります。エレン・スチュアートさんが即座に10日間の上演を決めてくれたことからはじまり、以来ブレヒトの芝居小屋で生まれた芝居6作品を9か国16都市で公演しています。『桜の森の満開の下』の世界の沢山の都市での上演、チェーホフの『かもめ』を初演したモスクワ芸術座での上演、ブレヒトの劇場であるベルリーナ・アンサンブルでの『ガリレイの生涯』の上演、これら3作品はチェーホフとブレヒトと広渡常敏の演劇論が交錯するブレヒトの芝居小屋の記念碑です。
2007年の広渡常敏の死を契機に、新しい歩みがはじまりました。ブレヒトの芝居小屋の改修では沢山の方からご援助をいただきました。ブレヒトからその流れを受け継ぐドイツ現代演劇の上演、沖縄・韓国・福島の運動に関わる芝居、イベントなどようやく新しい東京演劇アンサンブルの姿がみえてきたところです。そんな中、この度、大家さんのご都合により、2019年3月を最後の公演としてブレヒトの芝居小屋を閉じることになりました。あたらしい拠点を探すことは同時にこれからの東京演劇アンサンブルを探すことです。これからの1年は未来を決める時間になります。前の改修のお願いから間もないことになり恐縮ではございますが、どうぞ東京演劇アンサンブルに皆様のお力をお貸しくださいませ。まもなくクラウドファンディングもはじまります。現代演劇の多様の花咲く未来を、東京演劇アンサンブルに託してくださいますようお願いします。
志賀澤子 (東京演劇アンサンブル 共同代表 )
※志賀澤子氏の演劇のあゆみが以下
http://www.tee.co.jp/haiyu-shoukai/shiga.htm
※同劇団の移転応援基金のサイト
http://www.tee.co.jp/?p=555 東京演劇アンサンブルの移転応援基金の呼びかけ人(2018年7月6日現在)
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