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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2018年07月08日14時55分掲載
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働き方改革関連法成立のニュースを企業の目線で伝えるニュース7 Bark at Illusions
労働者や労働組合、過労死で亡くなった人の遺族、それに多くの市民が反対する中、働き方改革関連法が先月29日に成立した。これを伝えるNHKニュース7(18/6/29)は、「過労死を増やしかねない」、「過労死の防止と矛盾する」と懸念する野党や過労死で亡くなった人の遺族の声は伝えているものの、関連法の問題点や危険性を説明するには不十分で、むしろ新たに導入される高度プロフェッショナル制度に対する企業側の慎重な姿勢を紹介したり、制度が必要だという専門家の意見だけを紹介して、制度が適切に運用されれば、野党や遺族の懸念は杞憂に過ぎないかのような印象を与えている。
働き方改革関連法が成立した事実を参議院本会議での採決の様子とともに伝えた後、ニュース7は関連法の意義を強調する安倍晋三総理大臣と自民党・岸田文雄議員の声、そして関連法で過労死が増えると懸念する立憲民主党代表・枝野幸男議員と高橋幸美さん(電通で過労死した高橋まつりさんの母)の声を紹介している。
安倍晋三:「70年ぶりの大改革……これからも働く人々の目線に立って、改革を進めていきたい」 岸田文雄:「日本人の働き方を変える大きな一歩。……柔軟な働き方ができるような社会を実現していきたい」 枝野幸男:「過労死・過労自殺などを大きく増やしかねないという強い危機感を持っております」 高橋幸美さん:「過労死の防止と矛盾する内容であり、大変残念です。高橋まつりの母として、過労死遺族として、絶対に納得できません」
しかし、なぜ安倍晋三が「働く人々の目線に立って」行った「70年ぶりの大改革」を、野党や遺族は「過労死を増やしかねない」、「過労死の防止と矛盾する」などと批判しているのか。そのすぐ後に続く関連法の説明で、「長時間労働を是正するため」に時間外労働に罰則付きの上限規制が設けられること・高度プロフェッショナル制度が導入され、「高収入の一部専門職」が労働時間の規制から外されること・同一労働同一賃金の実現に向けて正社員と非正規労働者の不合理な待遇の差が禁止されることを紹介し、高度プロフェッショナル制度が適用されると「残業や休日出勤をしても割増賃金は支払われません。その一方で健康を確保するため、年間104日以上、4週間で4日以上の休日の確保が義務付けられます」と説明して、「ただ休日が確保できていれば、どれだけ働いても直ちに違法にはなりません」と解説しているけれども、これだけでは、野党や遺族が過労死が増えると懸念する理由がよくわからない。
野党や遺族が懸念を示すのは当然だ。今回、働き方改革関連法で安倍晋三がドリルで壊した「岩盤規制」は、働く人々の生命と健康・生活を守るための規制だ。ニュース7も紹介している通り、高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者は労働時間規制から外されることになるが、労働時間規制というのは労働法において最も重要なものだ。 現在の「1日8時間労働制」は、世界の労働者が企業側との闘いで勝ち取ってきた。産業革命の時代に労働時間が急増する中、「仕事に8時間を、休息に8時間を、やりたいことに8時間を」をスローガンに闘った英国の社会主義者ロバート・オーウェンらの19世紀初頭の運動や、シカゴのアナキストの呼びかけに応じて合衆国全土で行われた1886年5月1日の「1日8時間労働」を求めるストライキ(メーデーの起源)など、長期間にわたる世界各国の労働者や労働組合などによる直接行動のほか、ロシア革命(1917年)の影響(国家として初めて法律として8時間労働制を制定した)もあって、1919年に国際労働機関(ILO)で8時間労働制が規定され、国際的労働基準として確立した。日本でも1947年の労働基準法で8時間労働制が規定されている。それが今回の高度プロフェッショナル制度の導入で労働時間の規制が取っ払われ、企業は労働者に「4週間で4日の休日」を与えれば、24時間労働を48日間連続で働かせることも可能になる(8週間のうち、最初の4日と最後の4日を休日とした場合)。「健康を確保するため」の規定は、健康を確保するための規定になっておらず、過労死が増えることが容易に予測できる。労働時間規制によって労働者を低賃金で長時間働かせることができなかった企業にとっては、まさに「70年ぶりの大改革」かもしれないが、働く人々にとってみれば19世紀の過酷な労働環境に逆戻りするという事になる。 制度の対象については、ニュース7は「高収入の一部専門職」と説明しているが、国会審議を経ずに政令で決めることができるため、現在は年収1075万円以上となっている年収条件も「一部専門職」に限られている職種も、対象が広げられる可能性が高い。安倍晋三は国会答弁でこの制度は経団連からの要望だったと認めているが、経団連は年収条件を400万円以上にすることを要望している。 またニュース7は「長時間労働を是正するため」に時間外労働に上限規制が設けられると説明しているけれども、上限は「過労死ライン」と呼ばれる厚生労働省の過労死認定基準と同じ時間外労働時間(1か月間で100時間未満、月平均で80時間)まで残業させることを認めており、この法律によって過労死が合法化されることになる。日本労働弁護団幹事長の棗一郎弁護士は、これまで月80時間台の残業で企業に賠償を命じていた裁判所も、関連法の成立で今後「同じ基準で判断を示すことは難しいのではないか」(毎日17/3/27夕刊)と懸念している。 さらに、このような不当な上限規制は、高橋まつりさんの過労死が労災認定されて以降広がっていた残業時間短縮の流れを逆流させるとの指摘もある(川人博弁護士 赤旗17/3/9)。過労死防止全国センターの森岡孝二代表幹事らも、関連法の成立で「延長時間の引き上げを誘発する恐れが大き」く、「過労死をかえって多発させる」と指摘している(赤旗18/6/23)。実際、三井住友海上は関連法を先取りして、4月から労使間の協定の特別条項による年間の残業上限時間を350時間から540時間に引き上げている(同)。 働き方改革関連法は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指す安倍晋三が、「働く人々の目線」ではなく、「企業の目線」に立って行っている「改革」の一環であり、そのため、「過労死の防止と矛盾」している。
ニュース7は、こうした問題点を指摘する弁護士などの声は伝えていない。ニュース7が伝えた唯一の専門家の声は、導入は必要だと主張する日本総合研究所主席研究員・山田久氏の「インターバル規制……とか、厳しめの健康管理措置を入れるっていうことが必要……チェックする仕組みを行政が作っていくことが重要」という声だけだ。働く人の側に立って、このような危険な法律は廃止すべきではないかと疑問視することさえ、ニュース7にとっては論外なのだろう。 またニュース7は「(高度プロフェッショナル制度の対象となる)業種の現場では、歓迎する人がいる一方、懸念の声も上がっています」と述べて、制度に対する歓迎と懸念の双方の声を伝えているけれども、「非常にありがたい、賛成です」、「(始業時間より)もっと早くから、いっぱい、たくさん調べたい。海外市場が大きく動いた時とかは、何が起きているんだろうって、夜中のうちにやっぱり調べたい」と大歓迎の著名なマーケット・アナリストに対して、懸念の声は何故か会社側の声だ。これは高度プロフェッショナル制度が企業側の要望だったことを考えると、不自然な取り合わせだ。いわく、
会社の人事担当者:「自分が納得いくまで、成果を上げるまでやろうという事で、働き過ぎたりっていうことがあると思う……長時間労働、過労によって倒れて……人が亡くなったりもしていますので、企業側としてはそういう事のないように……慎重にきっちりと管理したうえで運用できる仕組みを作っていかないといけない」
企業は従業員が過労死することがないように慎重に制度を導入しているのだから、過労死したのは勝手に働きすぎた労働者の自己責任。これが、「労働時間規制が外されれば長時間労働が野放しになり、何かあっても自己責任にされることは明らかだ」(過労死したNHK記者・佐戸未和さんの母・恵美子さん 毎日18/5/23)、「会社は責任を認めたくないがために、夫は勝手に働いて勝手に死んだ。会社は何も命令してない。自己責任だと言ったんです」(全国過労死を考える家族の会・代表世話人の寺西笑子さん OurPlanet-TV 18/5/22)と訴えて働き方改革関連法に必死に反対してきた遺族に対するNHKの答えだろうか。
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