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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2018年07月13日14時20分掲載
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人権/反差別/司法
滋賀・日野町事件 死後再審決定 根本行雄
7月11日、大津地裁(今井輝幸裁判長)は、滋賀県日野町で1984年、酒店経営の女性(当時69歳)が殺害されて金庫が奪われた「日野町事件」で、強盗殺人罪で無期懲役が確定し、服役中の2011年に75歳で病死した阪原(さかはら)弘(ひろむ)元受刑者の遺族が求めた第2次再審請求審で、再審を開始する決定をした。有罪判決の根拠となった自白などの証拠をほぼ全面的に否定した。死刑・無期判決が確定した事件で死後に再審が認められたのは戦後初めてのケースである。 大津地検は「上級庁と協議の上、対応したい」としており、即時抗告するか検討している。検察は抗告をするな。早急に、再審を開始せよ。
「日刊ベリタ」の読者には、ネモトは、すでに、何度もくりかえし、述べているが、日本では、いまだに、再審は「開かずの門」となっているのがわが国の現状である。
憲法第37条に、「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と明記されていますが、裁判を長期化させ、再審の開始を遅延させ、被告人の基本的人権を大きく侵害しているのは、検察のもつ上訴権であり、検察官の不服申し立て(即時抗告権)や審理手続きの非公開などであることは明らかである。
司法制度については、日本国憲法の第3章「国民の権利及び義務」のなかの、第31条から第40条に明記されている。そして、裁判所については、第76条から第82条に明記されている。
裁判については、憲法第37条に、「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と明記されており、裁判には「公平性」と、「迅速である」ことと、「公開」であることが明確に規定されている。
なぜ、「裁判」について、この3つの要素が規定されているのか。それは「基本的人権」を保障するためである。
裁判についてばかりでなく、「公平性」が確立されていない司法制度とは、制度をその根底から腐食させてしまうものである。だから、「公平性」については、ことあたらしく論じるまでもないだろう。
では、なぜ、裁判には「迅速である」ことが要請されているのか。被告人の苦痛をできるだけ軽減することにある。なぜ、被告人にとって裁判は苦痛なのか。それは、国家権力によって基本的人権が大きく制限されるからである。まず、身体が拘束されており、基本的人権の根幹である「自由および幸福を追求する権利」が大幅に制限されているからである。
一般の国民にとって、警察によって被疑者として逮捕され、取り調べを受けることはそれだけ十二分に懲罰効果のある事態なのだ。家族や友人、知人、近隣の人びととのコミュニケーションが取れなくされ、精神的に孤立させられる。小さな部屋に閉じ込められ、自由に行動することができなくなる。そして、家族は近隣の人びとから「犯人扱い」の眼で見られるようになる。取り調べが72時間以内で終わり、早期に釈放されるのならば、まだ、その懲罰の被害は少ないかもしれない。しかし、勾留がさらに延長されるならば、その被害はさらに大きくなる。職場を無断欠勤したことになり、収入もなくなる。場合によっては、取り調べのために逮捕されたというだけで会社を解雇されたり、辞職をせざるをえなくなる場合もある。
取り調べの結果、起訴をされ、被告人になったならば、小さな部屋に閉じ込められ、自由に行動することができない状態がさらに継続され、もちろん、家族や友人、知人、近隣の人びととのコミュニケーションが十分には取れないまま、さらに精神的に孤立していくことになる。だからこそ、憲法第32条には、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」と規定されているのだ。一般の国民にとって、警察によって被疑者として逮捕され、取り調べを受けることはそれだけ十二分に懲罰効果のある事態なのである。ゆえに、刑事被告人となり、裁判が長期化すれば、刑事裁判の鉄則である「疑わしきは被告人の利益に」という、「無罪推定」の原則にもとづく取り扱いを受けたとしても、被疑者段階から継続して、被告人は依然として身柄は拘束されたままであり、懲罰効果のある状態が継続されている状態であり、それは有罪判決を待つことなく刑罰を執行することに等しいものである。それゆえに、憲法第37条は裁判は迅速でなければならないとしているのである。
□ 日野町事件 とは
1984年12月、滋賀県日野町で酒店経営の女性(当時69歳)が失踪し、85年1月に同町内の草むらで遺体で発見された。同4月に山林で被害者宅から盗まれた金庫が見つかった。88年、県警は酒店の常連客で同町の阪原弘さんを強盗殺人容疑で逮捕した。
1審・大津地裁判決(95年)では、阪原さんは公判で無罪を主張した。1審は、阪原さんの自白について「不自然な点が多いほか、秘密の暴露は何一つなく、信用できない」と判断したが、女性宅にあった鏡に付着した指紋や、遺体と金庫の場所を知っていたことなどを重視し、「犯人性を推認できる」と無期懲役とした。
控訴審の大阪高裁判決(97年)では一転、「自白は基本的根幹部分が十分信用できる」と指摘し、阪原さんのアリバイ主張に虚偽性があるほか、間接証拠から「犯人性が認められる」として1審を支持した。2000年に最高裁が上告を棄却し、刑が確定した。 阪原は、服役中の2011年に75歳で病死した。
再審請求も2006年に大津地裁で棄却され、即時抗告したが、阪原さんの病死で審理は11年に終了した。2012年に遺族が再び再審請求をしていた。
□ 大津地裁の再審開始の判断
大津地裁は、有罪判決の根拠となった自白などの証拠をほぼ全面的に否定した。死刑・無期判決が確定した事件で死後に再審が認められたのは戦後初めてのケースである。
毎日新聞(2018年7月12日)によれば、「日野町事件」の再審開始を認めた大津地裁決定の要旨は次の通りである。
【金庫】
新証拠として提出されたネガの分析報告書は、金庫発見現場まで元受刑者に案内させた捜査で警察が、復路で撮影した写真を往路で撮影した写真として調書を作成したことを示している。警察官による直接的な誘導はなかったものの、元受刑者が現場にたどり着くことを強く期待していた警察官が、意図的に断片情報を提供することで、元受刑者との間で正解到達に向かう無意識的な相互作用を生じさせた結果、発見現場を案内できた可能性がある。元受刑者が誰からも教えられずに発見現場を正しく知っていたとする1、2審判決の判断は大きく動揺した。
【死体遺棄】
ネガの分析報告書などの新証拠を踏まえると、死体発見場所を元受刑者が案内できたのは、事前に報道でおおまかな情報を得ていた可能性や、断片情報を提供した警察官との間で無意識的な正解到達に向かう相互作用が生じた結果の可能性がある。元受刑者が誰からも教えられずに発見場所を正しく知っていたとする1、2審判決の判断は大きく動揺した。
【殺害態様】
医師の鑑定書などの新証拠を踏まえると、左手を被害者の首の後ろに当てたとする自白は死体の損傷状況と整合しない。
【アリバイ】
「事件当夜は知人宅で酒を飲み、眠り込んで泊まった」というアリバイ主張は、知人らの証言の信用性が揺らぎ、虚偽ではない疑いが生じた。
【自白】
新旧証拠を総合すると、殺害態様や金庫発見場所を知っていたという点など、重要な部分で自白の信用性が大きく動揺した。自白に事実認定の基礎とできるほどの信用性は認められない。
元受刑者は、多くの重要な点で客観的状況と矛盾する自白をしていることに加え、警察官から暴行や脅迫的言動を受けて自白したと述べていた。この供述を裏付ける弁護人の申し入れ書や妻子の供述があり、長時間の任意取り調べを受ける中で、警察官から顔を殴られるなどの暴行を受け、さらに「娘の嫁ぎ先や親戚の所に行ってガタガタにする」という趣旨の脅迫的文言を言われた結果、自白をした合理的疑いが生じた。自白は任意ではない合理的疑いがある。
【まとめ】
新旧証拠を総合すれば、間接事実の認定が動揺するか、元受刑者が犯人であると推認する力が減殺された。新旧全証拠で認められる間接事実を総合考慮しても、元受刑者を犯人と推認できないし、犯人でないとすれば合理的に説明できない事実は含まれていない。
間接事実から犯人性を推認した1審の判断も、間接事実と自白などを合わせて犯人性を認定した控訴審の判断も大いに疑わしい。新証拠が確定審の審理中に提出されていれば、有罪認定に合理的疑いが生じていたと認められる。有罪の言い渡しを受けた者に、無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見した時に該当する。
□ 検察は抗告をするな
毎日新聞(2018年7月12日)の記事で、伊藤直孝記者は次のように伝えている。
再審請求は、元被告本人が死亡した場合でも遺族が引き継ぐことができ、死後も期限なく請求できる。だが、「死後再審」が認められるのは極めてまれだ。
日本弁護士連合会によると、日弁連が支援した事件で、死後再審が認められて無罪が確定したのは1件のみ。1953年に徳島市でラジオ商(現在の電器店)店主を殺害したとして懲役13年が確定した内縁の妻が79年に死去した後の80年、徳島地裁が再審開始決定を出し、その後の再審で無罪が確定した。
審理が続いている例もある。鹿児島県大崎町で男性の遺体が見つかった「大崎事件」では、鹿児島地裁が2017年、義姉(91)=懲役10年確定=とともに、93年に死去した元夫=同8年確定=の再審開始を認めた(検察側が特別抗告中)。
徳島ラジオ商事件に関連して、「日刊ベリタ」の読者におすすめしたいのは、稲木哲郎著『裁判官の論理を問う』(朝日文庫)である。「徳島ラジオ商事件」を題材にして、裁判官が有罪という先入観をもっていると、科学的な検証データを歪曲化し、非論理的、非科学的な判断をしているかをとてもわかりやすく説明している本である。
「大崎事件」の原口アヤ子さん、「松橋(まつばせ)事件」の宮田浩喜さん、「狭山事件」の石川一雄さん、「袴田事件」の袴田巌さん、これらの人びとは、いずれも、高齢化し、健康に不安をかかえながらも、無実を訴え続け、再審の開始を求めている。このような人々に対して、「再審の門」を固く閉ざしていることは、はたして、このような冷酷な対応は日本国憲法の3大原則の一つである「基本的人権の保障」を遵守していると言えるだろうか。このような高齢の再審請求人に対して、検察が抗告したり、特別抗告したりするという判断の背景にはどのような「公益」があると言えるのか。大いに疑問である。
再審についても、基本的人権を保障するために、「迅速さ」が必要不可欠である。裁判を長期化させ、再審の開始を遅延させ、被告人の基本的人権を大きく侵害しているのは、検察のもつ上訴権であり、検察官の不服申し立て(即時抗告権)や審理手続きの非公開などであることは明らかである。
日野町事件 について、検察は抗告をするな。速やかに、再審を開始せよ。
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