8月6日の広島市、9日の長崎市のそれぞれの平和式典では、挨拶した大半の人が、昨年7月に国連で採択された核兵器禁止条約に触れ、核兵器廃絶をめざす重要な動きとして評価した。田上富久・長崎市長は、ストレートに日本政府に対して条約加盟を求め、条約に背を向け続ける安倍晋三首相との対照が際立った。 条約の発効に向けた動きとそれへの障害を、どう考えるか。大手メディアではあまり注目されなかった2つの言葉を紹介する。
一つは昨年ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のティム・ライト条約コーディネーターの発言。7月22日に広島で開かれた国際シンポジウムで、条約の批准国は増えていくと自信を見せた。 「(条約の)1周年を報じた日本のメディアの大半が『批准のペースが遅い』という論調だった。これは間違った印象を与える。化学兵器禁止条約や生物兵器禁止条約の批准も同程度のペースだったからだ。『遅い』という主張は核兵器保有国の論調と同じだ。条約が支持を得ていることを過小評価し、発効に向けたペースを鈍らせる」 なるほど、過去の軍縮条約との対比でよく分かる指摘だ。 8月10日現在で14の国が批准しているが、9月から12月まで行われる今年の国連総会の期間中に、さらに増えることは間違いないだろう。 アメリカが禁止条約に賛成した国々の一部に対し、批准しないよう圧力をかけていることは事実だ。一方で、日米安保条約と並ぶアメリカの核軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)の加盟国の中でも、国会議員の多くが、条約署名や批准に向けて行動することを支持している状況もある。 ライト氏は、自分の母国オーストラリアでも、最大野党・労働党の賛同を正式に取り付けたと述べている。 「私は確信している。近い将来、大半の国々が条約に署名し、批准する」
ライト氏の発言やシンポ全体の議論は以下を。http://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=84988
もう一つ紹介したい発言は、広島県の湯崎英彦知事が6日の式典で挨拶した中にある「核抑止力」論への批判だ。 彼は、核兵器の非人道性に軸足を置いた核兵器禁止条約が国際的に合意されたことを「一筋の光明」と評価する一方、核兵器国が競って核兵器の更新や能力向上、「使える核兵器」の開発にまで進もうとしていることに警鐘を鳴らし、「これは、未だに核兵器国を中心とする国々が、核抑止力による力の均衡を信じているからです」と指摘した湯崎知事は、次のように式典参加者に語り掛けた。
「核抑止力の本質は何か。簡単に子供に説明するとすれば、このようなものではないでしょうか。『いいかい。うちとお隣さんは仲が悪いけど、もし何かあれば,お隣のご一家全員を家ごと吹き飛ばす爆弾が仕掛けてあって、そのボタンはいつでも押せるようになってるし、お隣さんもうちを吹き飛ばす爆弾を仕掛けてある。一家全滅はお互い嫌だろ。だから、お隣さんはうちに手を出すことはしないし、うちもお隣に失礼はしない。決して大喧嘩にはならないんだ。爆弾は多分誤作動しないし、誤ってボタンを押すこともないと思う。だからお前は安心して暮らしていればいいんだよ』。一体どれだけの大人が本気で子供たちにこのような説明をできるというのでしょうか?」
「良き大人がするべきは、お隣が確実に吹き飛ぶよう爆弾に工夫をこらすことではなく、爆弾はなくてもお隣と大喧嘩しないようにするにはどうすればよいか考え、それを実行することではないでしょうか」
そう問うた知事の数メートル先には安倍首相が座っていた。(西条節夫)
あいさつ全文は、以下のサイトに。https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/chijibulog/300806.html
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