この春の米新聞を読んでいると、トランプ大統領のもとで、金融業界が2008年のリーマンショック後に導入された金融規制を緩和するように要望していることがわかる。しかも、金融当局にも緩和に賛同する声すら出ているそうだ。当時の緊迫した日々を思い返せば嘘のようである。
アメリカの前政権は民主党のオバマ大統領で、その出発点は2大恐慌以来最大の金融恐慌にあった。発端は2008年秋のリーマン・ブラザーズの破綻にあったが、その前年に一度予兆となる市場の混乱(パリバショック、2007年8月)があり、金融に携わる多くの人が不動産=金融バブルが遠からずはじけることを予感していたと言って過言ではない。不動産価格の値上がりをてこに、ローンの返済能力がないような、融資額に比べると収入額の低い人びとにまで住宅ローンを大量に貸し出しをしていたからである。これを「サブプライムローン」と呼んだ。返済にリスクがある融資案件である。ところが米金融機関は不良債権になりそうなサブプライムの債権と、貸し倒れリスクの低い健全な住宅ローン債権とをたくさん混ぜ合わせ、簡単に貸し倒れのリスクが外部の人には評価できないような証券にまとめて売り出していた。その証券を格付け会社が高い格付けにしていたのだった。
以下はウィキペディアの記載である。
「サブプライムローン(米: subprime lending)とは、主にアメリカ合衆国において貸し付けられるローンのうち、サブプライム層(優良客=プライム層=よりも下位の層)向けとして位置付けられるローン商品をいう。サブプライムローンは証券化され、世界各国の投資家へ販売されたが、米国において2001 - 2006年ごろまで続いた住宅価格の上昇を背景に、格付け企業がこれらの証券に高い評価を与えていた。また、この証券は他の金融商品などと組み合わされ世界中に販売されていた。しかし2007年夏ごろから住宅価格が下落し始め、サブプライムローンが不良債権化した。これと共にサブプライムローンに関わる債権が組み込まれた金融商品の信用保証までも信用を失い、市場では投げ売りが相次いだ。この波紋から2008年終盤にはリーマン・ブラザーズ倒産によるリーマン・ショックなどが引き起こされ、高い信用力を持っていたAIG、ファニーメイやフレディマックが国有化される事態にまで至った。」
しかも、この金融危機はアメリカだけでなく、欧州にも飛び火し、さらに日本を含めて世界を不況に引きづ入り込んで行った。その最大の原因は証券界が自己資金をはるかに上回る借入をして、融資ができたことにあった。だから、リーマンショック後に生まれたオバマ政権は金融業界が投機的な融資があまりできないように自己資金と借入額とのバランスを算定して、他人から金を借りて行える投機が一定の金額以上はできないように規制を行った。ニューヨークタイムズ(4月26日付)ではこれを”the supplementary leverage ratio "と記している。どのくらいまでレバレッジをきかせられるかの割合である。ところが、今、金融業界からこれではビジネスがやりづらい、という声が高まり、規制を緩和してほしいと要望が出ているのである。リーマンショック直後に導入された様々な規制を見直す時期にある点では共通認識になってはいるそうだが、どこまで規制を緩和するかでせめぎあいが続いているようだ。とくにニューヨークタイムズでも報じられているが、オバマ政権時代に任命されたポストの人々が今も残っていて、トランプ政権下での規制緩和に対して抵抗しているようである。これを見れば2016年の大統領選でトランプ候補を勝利させた真の勢力も見えてくるだろう。
※ パリバショック
https://www.ifinance.ne.jp/glossary/world/wor035.html (i Financeのサイトより) 「パリバショックは、2007年8月にマーケットを大きく揺るがした、フランスのパリに本拠を置く世界有数の金融グループの一つであるBNPパリバ(BNP Paribas)を発端とするサブプライム問題の出来事をいいます。これは、2007年8月9日に、米国の信用力の低い個人向け住宅融資であるサブプライムローン関連の証券化商品の市場混乱をきっかけに、BNPパリバ傘下のミューチュアルファンドが投資家からの解約を凍結すると発表したことにより、世界のマーケットが一時的にパニックに陥ったもので、その後の世界的な金融危機が起こる発端になった出来事と言われています。(特に為替相場は短期間に大きく変動し、ドル/円は約10円、ユーロ/円は約15円、ポンド/円は約20円、それぞれ1週間で下落した)」
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