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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2018年09月06日15時41分掲載
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公聴会で発言者曰く トリチウム汚染水の海洋放出は、「責任を水に流すことになる」 Bark at Illusions
福島第一原発事故の処理で溜まり続けるトリチウム汚染水の処分方法を巡って、経済産業省の有識者小委員会による公聴会が開かれた。NHKや全国紙などの主流マスメディアは、トリチウムの人体や環境への影響を過小評価し、トリチウム汚染水の海洋放出自体は問題ないが漁業者などが風評被害を懸念して反対していることが問題だとして、政府が住民の「理解」を得られるかどうかが焦点だ、といった伝え方をしている。しかし地方紙やしんぶん赤旗、あるいは環境問題に真剣に取り組むNGOなどの情報に目を通すと、随分と事情は違うようだ。
主流マスメディアはトリチウムについて、「自然界にも存在する」「国の基準以下に薄めれば海に放出しても環境への影響はない」「全国の原発では希釈された水が海に放出されている」などと説明し、人体や環境への影響はほとんど無視できるかのような伝え方をしている。 また原子力規制委員会も、トリチウムは「濃度を薄めることができれば、安全上問題ない」と評価しており、更田豊志委員長は「濃度を考慮して希釈して、告示濃度制限を下回る形での放出が、現実的な唯一の選択肢」だと述べて、海洋放出を推奨している。
しかし、こうした見解は時代遅れの誤った「仮説」をもとにしている。海洋の放射性物質調査などに携わる英国のティム・ディアジョーンズ氏は、福島第一原発の事故処理で出るトリチウム汚染水の海洋放出についての報告資料(『Tritiated water and the proposed discharges of tritiated water stored at the Fukushima accident site(トリチウム水と提案されている福島事故サイトからのトリチウム水海洋放出について)』18/7、松久保肇訳 原子力資料情報室18/8/3)で、
「原子力産業と原子力規制当局はトリチウムの放射線の生物学的影響は小さいと主張してきた。その多くは、トリチウム水としてトリチウムが海洋環境中に放出された場合、無限に希釈されることや、トリチウムの放射線が皮膚を貫通できないこと、放射線生物学的危険がない、もしくはほとんど示されていないことなどを根拠としていた。この仮説は、1950年代、原子力産業の歴史の初期――あらゆる分野で基礎研究が不足していたために、海洋環境中の放射性物質の振る舞いや成り行きへの理解が極めて限定的だった――に現れた。しかしながら、1990年代以降の研究(殆どは独立の研究者による)により、この仮説はあらゆる面で誤っていることが示された」
と述べた上で、海洋放出されたトリチウムは「容易に環境中の有機物と結合」して有機結合型トリチウムとなり、
「有機結合型トリチウムが……海洋植物に取り込まれる結果、動物および人間は植物や畜産物を経由して、かなりの量の有機結合型トリチウムを摂取することになる……最近の研究では、有機結合型トリチウムは魚類・鳥類・哺乳類が水産物を摂取することで容易に吸収されること、非常に高い生物濃縮率で有機結合型トリチウムの生体内濃度を高めることが、決定的に示されている」
と指摘して、
「提案されている大量に保管されているトリチウム水を放出(それが少量ずつであろうと一度にであろうと)することは、そのような被ばくの影響を大きくし、長期化させて、問題をより深刻にする」
と警告している。
今回開催された公聴会でも、北海道がんセンターの西尾正道名誉院長が、トリチウムの健康被害について「(放射線の影響だけでなく)水素としてDNAに取り込まれ、遺伝子情報が変化する」と指摘し、トリチウム汚染水の海洋放出は「人類に対する緩慢な殺人行為だ」と非難している(河北新報18/9/1)。
マスメディアはトリチウム汚染水の海洋放出に反対する声として「風評被害」を懸念する漁業者や地元住民の切実な声を伝えてはいるけれども、これでは単なる「風評被害」では済まされない。
また今回の公聴会で最も重大な問題は、委員会が提示したトリチウム汚染水の処分方法についての5つの案(海洋放出・水素に変化させての大気放出・蒸発・地層注入・地下埋設)の中に、放射能が減衰するまで保管し続けるという、最も安全で現実的な選択肢がないことだった。
「公聴会では国の作業部会が『海洋放出』など五つの処分方法しか示していないことに異論が続出。タンクによる地上保管を求める意見が多く、性質が十分に周知されていないトリチウムへの不安と、風評被害に対する懸念の大きさを示した」(同)
研究者やNGOなどが参加する「原子力市民委員会」は、国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを建設して、その中に100年以上備蓄する案を提案している(半減期が12.3年のトリチウムは減衰により、100年で約1000分の1の量に減少する)。 公聴会で意見を述べた原子力市民委員会の細川弘明事務局長は、この方法は「技術的、経済的に可能。長期保管は放射能を減衰させる積極的効果がある」と強調している(同)。
他にも、公聴会の発言者からは次のような的を射た発言があった。
「たった120年保管ができなくて、今後、核廃棄物の安全な保管などできるのか。そんなこともできず“海に流す”という人たちに、私たちの安全は任せられない」(赤旗18/9/1)
「問われているのは東電と政府が責任をどう取るかの姿勢だ。(海洋放出は)責任を水に流すことになる」(同)
世耕弘成経済産業大臣は、トリチウム汚染水の海洋放出を「地元との対話を特に徹底して、ご理解を得ながら進めていく」などと述べているけれども(朝日18/9/4)、上記のような公聴会の意見・要望を取り入れ、政策に生かしていくのが政府の仕事だ。環境や健康への影響を第一に考え、政府としての責任をしっかり果たせ。
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