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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2018年09月15日23時01分掲載
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コラム
翻訳書のタイトルはこれでいいの?
時に翻訳書を読んでいて本の邦題が原題とかなり異なることがある。それは日本で本を売る時に、読者=消費者により訴求するようにと翻訳者や編集者が考えて決めるのだろう。しかし、時にそのタイトルが中身とずれている気がする場合があるのだ。
一例をあげると、中公文庫から出ているフェルナン・ブローデル著「歴史入門」である。原題は”La Dynamique du capitalisme”である。「著者まえがき」、という形でページを開くとすぐに原題が「資本主義の活力」であることが記載されている。そうなのである、読めばわかるが、これは「歴史入門」などではなく、資本主義の歴史を語った本なのである。Dynamique には「活力」以外にも、「力学」とか、「ダイナミックス」とか「推進力」という意味もある。しかも、資本主義と市場経済の関係(その相違点)にとくに力を入れている。そして、資本主義というものが私たちが想像するよりもはるかに古くから行われていることが示されているのだ。しかし、この邦題を読むと、「歴史入門」という何か、歴史全般をアナール学派の泰斗が解説する入門書あるいは概説か、と思って手に取る人もいたであろう。生意気な言い方に聞こえるだろうが、翻訳者の金塚貞文氏の中身の翻訳自体は決して悪くない訳だと思う。ただ邦題が僕の思うところ、中身とずれている気がするのだ。あまりにも広く網をかけすぎているため、何について書かれた本か今一つ明瞭ではなくなってしまった。
もう一例をあげると、ニュージャーナリズムの旗手、トム・ウルフの「現代美術コテンパン」である。翻訳者は高島平吾氏である。これの原題は”The Painted Word"である。直訳すれば「描かれた言葉」あるいは「ペイントされた言葉」となる。この本のテーマは美術理論が肝心の個々の作品より先行する言葉の過剰になった時代を風刺していると思われる。思われるというのは本書を筆者が読んだのは四半世紀も前のことなので中身はほとんど覚えていないのだ。とはいえ、今年亡くなったウルフを追悼するアメリカの番組を見ていると、ウルフの文学にかけるまじめな情熱をアピールしているように感じられた。どうもアメリカの読者がウルフに抱いている思いと、日本で僕がウルフの翻訳書から受けた印象に大きなずれがあるような気がしたのだ。もちろん、このずれが本当かどうかはわからない。ただ直観的に、この邦題がどこかウルフの真摯な部分を正しく反映していないのではないか、という気がしてきた、ということである。というのは、このような邦題を見たら、作家が美術をコテンパンに筆で批判して筆誅を加えるかのような印象がある、ということである。ウルフの真意はそこにあったのだろうか。僕のこうした直観が正しいかどうか、もう一度、読み返してみたいと思い始めている。
村上良太
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