ヨーロッパで一番、農薬を使っているのはフランス。
世界で3番目に農薬を使っているのもフランス。
でもだからと言って、フランスに住む人々が皆「農薬使っててもいいや」と思っているわけではありません。その証拠に、2週間前に始まった農薬の不必要を訴えるキャンペーンの署名がとてつもない勢いで伸びているのです。
https://nousvoulonsdescoquelicots.org/ 題して「Nous voulons des coquelicots(ヒナゲシの花を取り戻そう)」。
中心が黒く、燃えるような赤い花びらが特徴のヒナゲシの花は、数世紀前に中東からヨーロッパに伝来して以来、ヨーロッパの長閑な風景を象徴する花として親しまれてきました。野に咲くヒナゲシの花を題材にしたクロード・モネの絵画のように、一昔前までは野原や道端に当たり前に咲いている花だったのです。ところが、農薬が世の中に蔓延するようになってから、ヒナゲシの花は農薬の使用量に反比例するように姿を消しつつあります。つまりは、ヒナゲシの花の咲かない農地は農薬が使われていることを意味し、逆に、ヒナゲシの花が咲いている農地は農薬に汚染されていないことを意味します。
「我が国は変わり果ててしまった。自然は破壊され、ここ15年で鳥の三分の一が姿を消し、蝶は半分に減少した。何十億という蜂が死に、蛙やバッタも見かけなくなり、野生の花も希少になった。この消えゆく世界は私たちのもので、色が一つ光が一つ消える度に終わりが近づく。ヒナゲシの花を返してほしい!美しい自然を返してほしい!」
と、主催者は訴えます。
発起人は、ファブリス・ニコリノ氏。2010年からシャルリー・エブドの環境ページを担当しているジャーナリストで、1993年から環境関連の著書を20冊近く出している筋金入りのエコロジストです。
シャルリー・エブドは今回のキャンペーン開始と同時に農薬特集を組みました。その中でメンバー15人の毛髪を検査に出したところ、全員から34〜50種類の農薬が検出されたと報告しています。
2016年5月には、48名の欧州議会議員、全員の尿から農薬が検出されたことを各メディアが報道したことがありました。
農薬は使われているところが限られていても、空気中に拡散され、雨水に交じり、海に流れ、農薬と無縁のはずの人々まで汚染します。そうでなくても、防虫剤や殺虫剤、殺菌成分の入った化粧品などにも農薬と同じ成分が含まれている場合があり、日常的に体内に取り込んでいる人は少なくありません。
キャンペーンそのものは二コリノ氏個人のものでもシャルリー・エブドのものでもなく、人から人への呼びかけだと二コリノ氏が主張する通り、ここまで農薬が蔓延する以上、少なくともフランスにおいては無関係の人はいないに等しいのではないでしょうか。
目標は高く、2年で500万署名。
その間、毎月一回、市町村規模での集会も呼びかけています。
開始から2週間で、すでに20万人近い署名が集まっていて、500万人どころか1000万人も夢ではありません。
ただここにきて、農薬ロビーに携わる人たちが「ヒナゲシの花は有害だ。」「農産物の生産量を落とし、家畜が口にすると毒になる。」などと攻撃をしかけてきました。
確かに、生産量だけに拘ればヒナゲシの花はないほうがいいようです。でも、農薬が残留した農産物が人体に悪いことも、農薬まみれの農地が環境に悪いこともわかっています。また、ヒナゲシの花は、蜂に蜜を提供して農作物の受粉に貢献したり、種子が鳥のエサになるなど生態系を正常に保つ需要な役割を担っているとも言われています。
https://www.consoglobe.com/coquelicot-biodiversite-cg?utm_source=tweeter&utm_medium=social 蜂もいない、鳥もいない、ヒナゲシの花もない農地に未来はあるでしょうか?
周囲のフランス人たちにキャンペーンの話をすると、「そういえば、ヒナゲシの花最近見ないね。子供の頃はどこにでも咲いてたのに。」と皆口を揃えます。
本当にこのまま農薬を使い続けていいのだろうか?
この署名活動が、変わり果てた自国の姿を自覚するきっかけになるだけでも意味のあることかもしれません。
Ryoka ( 在仏 )
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