2018年10月5日、9月に発足した農薬全廃キャンペーン「Nous voulons des coquelicots(ヒナゲシの花を取り戻そう)」による呼びかけで、フランス各地で集会が行われた。その数はなんと、海外県やコルシカ島も含めた約500の市町村。日本では考えられない数だが、政治色がなく有名な団体名が前面にでていないこと、そしてやはり人々が集会慣れしているフランスで行われたということが大きい。
参加人数は市町村によってマチマチで、大都市でも人口10万人のカン(Caen)市に300人が集まったのに、それより一回り大きいリール(Lille)市で50人に留まるなど、呼びかけが行き渡ったところとそうでないところの差が大きく出ている。それでも、一カ所平均20人としても、少なくとも1万人、平均40人なら2万人が参加したことになり、発足から1か月に満たないキャンペーンに全国規模でこれだけの数が集まるフランスという国に改めて脱帽する。
かく言う筆者は、フランスは東のフランシュコンテ地方の一県庁所在地の集会に参加した。集まったのは、小学生二人を含めた12人。かなり小規模だが、それでも我が家だけかもしれないと思いながら挑んだだけに、個人的には満足している。実をいうと、その二日前、「ヒナゲシ〜」のホームページで集会開催の登録をしたのは、ほかならぬ私たち夫婦だった。一回目の集会の日時はキャンペーン発足と同時に通達されていたので、誰かが開催するだろう、と他力本願な気持ちでいたのだが、二日前になっても半径30キロ圏内で行われる様子がなかったので、思い切って登録してしまったのだ。
数日前には300ちょっとだった市町村の登録数が、開催直前の18時には490カ所に増えていたので、私たち同様、ひと思いにクリックした人が多かったのではないかと思う。私たちが登録しなくても他の誰かがしたかもしれないし、誰も登録しなくても出向く人はいたかもしれない。とはいえ、一カ所で誰かが呼びかけるのに終始するのではなく、それぞれの集会場所の“主催者”を募って責任感を持たせたのは悪いことではない。
事実上、初めて“主催”した集会で何をしたかというと、まずはポツリポツリと現れる参加者に一喜一憂した。そのほとんどが胸にシンボルのヒナゲシをかたどったピンバッジをつけ、「私(たち)だけだと思った」と口を揃え、お互いに安堵した。そして、尽きない雑談をしながら事前に用意しておいた60枚のビラを配った。集会場所は県庁所在地の市役所前だったが、時間は夜の7時。日本の繁華街なら一番人出のある時間帯かもしれないが、フランスでは多くが自宅で夕食をとり始める時間だ。店もほとんど閉まり、人通りはどんどん少なくなっていく。それでも、「農薬反対キャンペーンです!」と声をかけると、そのほとんどが振り向いてビラを受け取ってくれた。中には「あっ!もう署名したよ。」と足早に去っていく人がいたり(なぜ足を止めない!?)、足を止めて話をしているうちに集会に加わっているも同然になったカップルもいた。一方で、趣旨を知った時点で「賛同できない」とはっきり断る人もチラホラいた。農薬関連の企業に勤めているのか、農薬は人体にも環境にも悪影響がないと思い込んでいるのか、悪影響があったところでどうでもいいと思っているのか、反対してもどうにもならないと諦めているのか、詳しい理由はわからないが、このままフランスで農薬が使われ続けることに賛成している人がいることを、思い知らされた瞬間だった。
ビラを配りきって、20時頃解散。たったの12人が約1時間半を一緒に過ごしただけだったとはいえ、想像以上に有意義な時間だった。表現の自由にしても原発にしても、同志で集まるとそれだけで希望が湧いてくる。普段は、立ち向かえるはずのない相手に対して一人悶々としているだけ。それが同じ志を持った人に実際に会うと不可能が可能になる気がしてくる。そもそもがここは市民が王様を倒した国だ。市民が巨大なロビーを倒す日が来てもおかしくない。
翌日、キャンペーンのホームページに歓喜に満ちたメッセージが掲載された。
https://nousvoulonsdescoquelicots.org/2018/10/06/un-message-apres-les-rassemblements-du-5-octobre/ 「なんて素晴らしい始まりなんだ! この喜びをどう表現したらいいのだろう?本当に見事で夢のようだ。まだ始めて3週間の、私たち、そしてあなたたちの運動は、すでに27万人の賛同を得た。そのうち、26万人はインターネット、一万人は紙上で署名した。
昨日10月5日18時30分、私たちの推計によれば、フランスの約500カ所、その多くは市町村の役所の前に人々が集まった。Bagneres-de-Bigorreのように6人だったところもあれば、300人が集まったCaen市、250人が集まったVannes市のように数百人規模の集会になったところもあった。
私たちに宛てられた300件に及ぶメッセージから伝わってきたのは、熱狂だ。ヘラクレスのように巨大な力に対して集う喜び。読んでいて涙が出てくるような報告メッセージをここですべて紹介することはできない。ただ確かなのは、私たちは最初の賭けに勝ったということ。私たちは頑丈な土台を作り、2020年5月まで私たちを結びつける根をフランス中に張り巡らせた。
2020年?そう、私たちはこれから毎月、第一金曜日に顔を合わせる。例え雨が降ろうと、寒波がこようと、猛暑になろうと。パラソルやヒーターを持参したり、マフラーや水着をつけるのは自由だ。とにかく大事なのは、集まる毎に更なる意欲を持ち続けられるかどうかだ。
気が早くて申し訳ないが、本当に大変なのはこれからだ。そして、最高に美しいもの、興奮するものが見られるのもこれからだ。私たちはこれまで甘んじていた“ゲットー”を抜け出し、社会に飛び出す。そこではどんな奥まったところも見落とさずに回らなければならない。皆がヒナゲシの花を必要としていることを証明する集まりやイベントを想像し、考案しなければならない。あなたたちは間違いなく素晴らしかった。11月2日は少なくとも今回の倍の参加者があることを願う。私たちはきっと勝つ。」
https://nousvoulonsdescoquelicots.org/l-appel/
Ryoka ( 在仏 )
■目標500万署名! 農薬大国フランスで化学農薬の全廃を求めるキャンペーン開始! Ryoka ( 在仏 )
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201809242210321 ■我が町にマクドはいらない Ryoka ( 在仏 )
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201805130000340
■ブルキニ騒動で私たちが聞き逃したこと シャードルト・ジャヴァンによる「共和国にかかったベール」 Chahdortt Djavann (翻訳・紹介 Ryoka 在仏 )
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611232110453
■フランスで命を狙われるタイ人たち Ryoka (在仏ブロガー)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611042136275
■イタリア人の映画監督がイタリア中部アマトリーチェ地震の被災者らをパスタにたとえた風刺画を読み解く 〜母に捧げる風刺画の読み方〜 Francesco Mazza(翻訳 Ryoka)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610200811454
■シャルリー・エブドはなぜイタリア人被災者をラザニアに例えたのか 〜 風刺漫画について〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610161954160
■シャルリー・エブドのシリア難民を扱った風刺画について 〜批判に対する作者RISSの反論〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201510021439525
■不可解な風刺画掲載本
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201503112107253
■シャルリー・エブドは難民を馬鹿にしているのではない
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509161922143
■拝啓 宮崎駿 様 〜風刺画について〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201503102218542
■「日本 川内原発が3・11のトラウマを呼び覚ます」 社会学者 セシル・浅沼=ブリス Cecile Asanuma-Brice (翻訳・紹介Ryoka)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201604221513295
■フランスの原子炉相次いで停止、電力不足の懸念も Ryoka (在仏ブロガー)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610200750554
■「またしても投票できず」 Ryoka ( 在仏 ) 〜海外在住の日本人の投票事情に関する日刊ベリタ編集部への緊急寄稿〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201710260123104
|