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2018年10月31日15時35分掲載
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国際的な核廃絶の流れに逆らうトランプ政権を擁護するNHK Bark at Illusions
合衆国のトランプ政権は10月20日、旧ソ連との間で1987年に締結した中距離核戦力(INF)全廃条約(射程500キロ〜5500キロの弾道ミサイルなどの保有・生産・実験などを禁止)から離脱する意向を表明した。それに先立つ10月10日には、合衆国が昨年12月に臨界前核実験を行っていたことが明らかになっている。昨年の国連での核兵器禁止条約採択や、今年に入ってからの朝鮮半島の非核化に向けた動きといった核廃絶を目指す世界的な流れに逆らう危険な動きだが、NHKはトランプ政権の核政策をロシアや中国のせいにして擁護している。
トランプ政権が臨界前核実験を行っていたことを伝えたニュースウォッチ9(18/10/10)は、朝鮮政府には核の放棄を要求しておきながら自分たちは核開発を行う合衆国政府を非難する広島の被爆者らの声を伝えてはいるものの、背景には「ロシアや中国で進む核戦力の増強」があると説明して、合衆国の核実験はロシアや中国の脅威に対応するためにやむを得ないものであるかのような印象を与えている。 合衆国がINF全廃条約から離脱する意向を示したことを伝えるニュースでも、NHKは同じようにロシアと中国の脅威を強調して合衆国政府を擁護している。ニュース7(18/10/21)は、「ロシアが条約を守っていない」というトランプ政権の主張を冒頭から再三伝え、
「2014年、アメリカ政府はロシアが射程500キロ以上の巡航ミサイルを開発していると認定。その後もロシアが新たなミサイルの開発や配備を進めていると非難してきました」
と、合衆国側の見解が事実であるかのように断定的に伝えている。ロシア側の反論については、「アメリカの対応は一方的で核軍縮の流れに逆行する危険な行為だ……アメリカこそが条約に違反している」と短く伝えてはいるものの、NHKワシントン支局長・油井秀樹が
「(合衆国がINF全廃条約離脱を表明した)最大の理由はロシアの対応だと思います。といいますのも、トランプ政権はこの1年、[ロシアが]条約を遵守しなければ破棄することもあり得ると繰り返し警告してきたんですが、進展が見られなかったからです」
と解説しており、NHKとしては合衆国側の主張を支持している。さらに油井秀樹は「もうひとつの大きな理由は中国です。中国は空母キーラとも呼ばれる中距離弾道ミサイルを実戦配備し、アメリカ軍にとって大きな脅威となっています」と述べて、
「トランプ政権としては条約破棄という強硬姿勢を取ることで、ロシアだけでなく中国も牽制し、両国を軍縮の交渉の席に着かせたい思惑もあるものと見られます」
とトランプ政権の核政策を擁護している。ニュースウォッチ9(18/10/22)は、今年3月にロシアのウラジミール・プーチン大統領の年次教書演説の際に放映された映像(発射されたロシアのミサイルがミサイル防衛網をかいくぐって「アメリカ大陸全体を射程に収めるかのように飛行」する)とプーチンの「ロシアはこれまでも、これからも、世界最大の核大国だ」という演説を紹介した後で、ドナルド・トランプ大統領の
「我々は条約を守ってきたのにロシアは残念ながら守っていない。我々は条約から抜ける」
という発言を紹介して、あくまで合衆国のINF全廃条約離脱は「核戦力強化の姿勢を示してきたロシア」に「対抗」したものであると強調している。ロシア側の反論については、「ロシアはこれまでアメリカの批判に対し、一切証拠がないとして否定してきました」と伝えた後、専門家の「ロシアがINF全廃条約に違反するミサイルを作っていることは、これはおそらく事実なんだろうと思うんですね」(未来工学研究所・小泉悠特別研究員)という憶測でロシアの主張を一蹴し、その後もロシアだけがINF全廃条約に違反してきたという前提でニュースを続けている。また解説のNHK国際部デスク・石山健吉は
「アメリカ政府にはこの数年、ロシアが条約に違反しているという不満が根強くあったんです。ロシアが開発した地上発射型の巡航ミサイルは違反に当たると再三警告してきたんですけれども、ロシアはこれを無視して去年実戦配備に踏み切りました。戦力の増強を止めないロシアに、破棄の表明という形で、いわば最後通牒を突きつけたというわけなんです。……(INF全廃条約の対象ではない)中国は今大量の中距離ミサイルを保有していて、アジア・太平洋で活動するアメリカ軍は、これを極めて重大な脅威と見なしています」
とロシアの条約違反と中国の脅威を一方的に強調した後、ニュース7(18/10/21)と同じように
「アメリカとしては……INF全廃条約を破棄する一方で、実のところ、ロシアだけでなく中国を議論に巻き込んで、実効性のある新たな軍備管理の枠組み作りにつなげたいという思惑があるようにも思えます」
とトランプ政権を擁護している。 また、ニュース7(18/10/21)とニュースウォッチ9(18/10/22)は、1987年にINF全廃条約が締結された背景として冷戦時代の米ソ間の緊張があったことを説明する際に、
「1970年代以降、ロシアは核弾頭を搭載した中距離弾道ミサイルの配備を進めます。核戦争の脅威が高まりました」(ニュース7)、
「1970年代以降、ロシアはアメリカ本土を狙うICBM大陸間弾道ミサイルに加え、ヨーロッパを標的に核弾頭を搭載した中距離弾道ミサイルの配備も進めました。核戦争の脅威が高まる中……」(ニュースウォッチ9)
と、いずれも「1970年代以降」のソ連の核戦略の増強だけに言及して、核戦争の脅威が高まったのはロシア側に非があるかのような伝え方をしている。
こうしたNHKのニュースの伝え方は、合衆国側の主張に沿ってロシアの条約違反ばかりを強調しており、ロシアと中国の脅威や冷戦時代の「核戦争の脅威」の説明についても一面的で、大きく偏向していると言わなければならない。
まずINF全廃条約の違反については、合衆国側についても言えることだ。ロシア政府は合衆国が世界規模で実戦配備を進める弾道ミサイル防衛(BMD)システムが攻撃用にも転用できることから、合衆国政府がINF全廃条約に違反していると批判してきた。日本政府は昨年、地上配備型BMDシステム・イージス・アショアを配備することを決定したが、実際に配備されれば、少なくともロシア側からすれば、日本もINF全廃条約の違反に加担することになる。ロシア政府はアメリカ人がBMDシステムの運用を「他国に任せることは絶対にない」と考えている(毎日17/12/8)。
またNHKは、合衆国政府の核政策はロシアや中国の「核戦力の増強」など安全保障上の脅威に対応するものだと説明しているけれども、ロシアや中国からすれば、彼らこそが合衆国の脅威に対応して核戦力を強化している。ロシアを標的とする北大西洋条約機構(NATO)はロシアにとって脅威だが、NATOは冷戦終結以来、東欧に拡大し続けている。実は、合衆国政府は1990年、ドイツより東へは「1インチたりとも拡大しない」という条件でソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長(当時)から、統一ドイツがNATOに加盟することへの同意を得たが、すぐに約束を破って東方にNATOを拡大し、現在はロシアと国境を接するウクライナにまで迫ろうとしている。そしてそのウクライナでは2014年2月にロシア寄りの政策をとっていたヤヌコビッチ政権がクーデターにより崩壊したが、政権転覆には米国務省が関与していた。また合衆国政府は米ソ間で結ばれていた対弾道ミサイル(ABM)制限条約から2002年に一方的に離脱し、冷戦後新たにNATOに加わったポーランドやルーマニアなどにBMDシステム(前述の通り、これはINF全廃条約違反になる)を設置するなど、「弾道ミサイルの無制限な増加とBMDシステム設置」を続けてきた(核兵器・核実験モニター ピースデポ18/4/1)。ニュースウォッチ9が紹介したミサイル防衛網をかいくぐって飛行するロシアのミサイルは、合衆国側のこうした動きに対応して開発されたものだ。中国については、ミサイルや戦艦で中国を取り囲む米軍基地は、彼らにとって大きな脅威になっている。「アジア・太平洋で活動するアメリカ軍」や、現在沖縄の辺野古で住民の反対を押し切って建設されようとしている米軍の新基地も、中国にとってはまさに脅威と映っているだろう。中国は石油やその他の資源を東シナ海や南シナ海を航行する船舶に依存しているが、米軍は中国が交易を行うこうした海を封鎖する演習も実際に行っている。中国の「海洋進出」の動きも、中国にしてみれば、このような合衆国の脅威に対するために必要な措置を取っているに過ぎない。
冷戦時代の「核戦争の脅威」については、軍拡競争に至る経緯を考えると、ロシアよりも合衆国側にその責任がある。1953年にソ連の最高指導者となったニキータ・フルシチョフ書記長は、合衆国政府に対して「攻撃的軍事力の相互削減」を呼び掛けて、合衆国のドワイト・D・アイゼンハワー大統領(当時)に無視されたが、それでも「経済成長に専念するため」に自国の軍司令部の反対も押し切って「一方的に攻撃的軍事力を削減」した。「戦略兵器のバランスではアメリカの方がずっと優位に立っていた」にもかかわらず、アイゼンハワーの次のジョン・F・ケネディ大統領も「相互主義の関係を呼びかけるフルシチョフの提案を拒み、通常兵器および核兵器を大幅に増強する道を選び、『ソ連の軍事力を抑制するというフルシチョフの政策』に致命的な打撃を与えた」。やがて「アメリカの軍備増強に対するソ連軍の反応は、キューバ・ミサイル危機でソ連の弱さが明白に示されたことにも影響され、フルシチョフの改革プロジェクトを事実上終わらせた」(ノームチョムスキー『覇権か、生存か』集英社新書)。そしてNHKが説明する「1970年代以降」の「核戦争の脅威」の高まりにつながった。
NHKは合衆国の立場から一面的にニュースを伝えてロシアや中国の脅威を強調し、合衆国政府の核政策はそれに対応するものだと擁護した挙句、トランプ政権には「条約破棄という強硬姿勢を取ることで、……両国(ロシアと中国)を軍縮の交渉の席に着かせたい思惑もある」などと述べているけれども、合衆国やロシアの核政策は核拡散防止条約(NPT)に違反している。 NPTは核保有国に対して核武装解除(nuclear disarmament)に向けた誠実な交渉を義務づけている。核保有国が核武装解除に向けた行動を取らないならば、NPTは核兵器を廃絶する上で役に立たない。やはり、国際世論の力で採択された核兵器禁止条約によって核兵器廃絶を目指すべきだ。 NHKは被爆地広島・長崎からの批判の声をほんの少し伝えるだけで満足せず、被爆国の公共放送として、それくらいの提案はすべきではないか。
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