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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2018年11月04日08時50分掲載
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文化
【核を詠う】(271)『短歌研究2018短歌年鑑』の「2017綜合年刊歌集」から原子力詠を読む(1)「澱みたる核廃絶の泥沼に蜘蛛の糸一本垂らして欲しい」 山崎芳彦
前回から長い間を空けてしまったが、今回は短歌研究社の『短歌研究2018短歌年鑑』(2017年12月発行)に掲載された「年刊歌集」から原子力詠を抄出したい。この連載の中で、これまでも短歌研究社の『短歌年鑑』から「年刊歌集」を読んできたが、毎年、同社編集部が寄贈を受けた全国の短歌結社の歌誌、多くの歌集、短歌総合誌に掲載された作品から、同社編集部が選出、再録した短歌作品を読むことは、筆者にとっての喜びである。同「年刊歌集う」には約3000人の歌人による一万首を超える短歌作品が採録されていて、その中から筆者が原子力詠として読んだ作品を抄出させていただくのだが、ルーペを使用しながら1万首を読む中で筆者なりに心を打たれ、共感を覚える作品は数多い。その中から原子力詠を抄出するのだが、誤読、読み落としなど不手際があればお詫びしなければならない。
多くの原子力詠を読みながら、原子力社会、核の「力」が人間の生活、生命をさまざまな形で支配している現実を思わないではいられない。未来を考えないではいられない。福島原発事故により核発電の反人間・反自然の実態が身に沁みて明らかにされてもなお、原発回帰への政治・経済・官・学による原子力マフィアの策動はやむことがない。その原子力マフィアの不正な力が「有効」に機能している現実を良しとしない人々の声が、さまざまな世論調査等で大きくても、安倍政権とその追随勢力はたじろいでいるようには見えない。電力企業だけでなく、大企業が君臨する経済界はさまざまな態様で彼らの「儲け」の重要な手段としている原子力発電を3・11以前同様、それ以上に価値あるものに回復させようとしている。人のいのち、安全・安心より利益、経済性を求める原子力マフィアが、福島原発事故を無かったことにするかのごとく振舞っている。「人間なき復興」を謳いあげている。利益を見込める原発の再稼働、再生自然エネルギーに対する妨害を行う電力企業のやり口がより悪質になっている。行政はそれを容認している。
また、トランプ米大統領は、国連の核兵器禁止条約の発効を目指す多くの国々の取り組みが進んでいるなかにあって、今年2月には核政策の指針「核戦略見直し(NPR)」で新たな小型核兵器や各巡航ミサイルの開発を目指すことを表明、さらに10月20日には米国と旧ソ連間で結ばれた中距離核戦力(INF)全廃条約からの破棄・離脱の意向を表明し、中距離ミサイルの開発を明言し、核軍拡への意志を示し、核大国米国による「核なき世界」否定宣言を行った。米国が昨年12月に臨界前核実験を行ったことも明らかになっている。北朝鮮に「核放棄」を迫る一方で、核兵器のさらなる強化戦略を打ち出す米国の理不尽は言うまでもないが、トランプの「親友」を看板にする日本の安倍晋三首相はその米国追随政策を、核戦略についても変えないであろうことは目に見えている。
このような核をめぐる情勢、そしてこの国の安倍政府による原子力政策の実態を考える時、広岩近広著『核を葬れ!』(藤原書店、2017年8月6日刊)に紹介されている福島県南相馬市在住の詩人・若松丈太郎さんが『広島ジャーナリスト』2015年3月号に寄稿した「福島事故4年 壊滅に瀕する地域」の文章を思い起し、読み直した。若松さんの原文を読んでいないので、広岩さんの引用ををお借りするが、次の通りである。
「広島・長崎が核被爆し、東京などが空襲を受けて七〇年、沖縄に米軍基地が置かれてから七〇年、核災が発生して四年。私はことしの年賀状の文面を『沖縄県民の思いに応えないのであれば、日本国に民主主義は存在しない。福島県民の秘めた怒りに気づかないのであれば、日本は国民のいのちを尊重しない国である』とした。ことしは、日本という国の将来像を決める節目になる年、さらには、エネルギー政策の方向をさだめる分岐点にもなる重要な年であろう。(中略)国民が苦しみながら生きることの意味を問い続けている現実があるなかで、目先の経済性と利益だけを追って再稼働と輸出を進めようとしている国家とはなにか。極めて長い将来に影響が及ぶ放射性廃棄物の問題を考えると、現代の文明のあり方について根本から問い直すことを、私たちは求められているはずである。」
核兵器と原子力発電、いま日本の、事もあろうに政・官も加わっている原子力マフィアグループは、米国の核政策にもつながって行こうとしている、いやすでに深くつながっているいることを思わなければならないことに強い怒りを持ちながら、全国の歌人が詠った原子力短歌を読んでいく。
ミサイルの避難訓練はじまりぬ児童の姿は戦時のわれら (秋元千恵子)
弑されしいのちあまたの八月の炎は水を気体となすに
包まれし炎のなかのひとびとの行方も知らに八月の過ぐ
攻撃力のより強ければ勝者とふ歴史は語る何処の国も (3首 綾部光芳)
辺境の原発事故を啄木は如何に詠ひしや生きてしあらば
東海の小島の磯の砂の城原発襲はれ六年となる
放射能に追はれし人らさらさらと指の間より落つる砂かも (3首 伊藤正幸)
報道は日々に緊張ふくらませ核の恐怖の迫るこのごろ
指導者の威厳のごとく近隣の国に世界に核を誇示する (2首 入谷幸子)
戦争や原子力発電をおしすすめた歓迎屋はだれだったのか (宇都宮勝洋)
穏やかな自然と生きゐる島人の背後に並立つミサイルの幻影 (上原嘉善)
常磐線坂元駅の発車音ホーホケキョと吹雪く日も鳴く
五年半ぶりに降り立つ新駅舎もとの駅もう思ひ出せない (2首 遠藤たか子)
子が不意に原子爆弾の大きさを問ひたる夜の侘助の白 (大口玲子)
世界一厳しい原発規制だと思ふと言ひしが断定はせず (大河原マス美)
込み上ぐる感情おさえ原爆詩を噛みしめて読む「吉永小百合」
「子をかえせ親をかえせ」の原爆の詩の朗読の抑揚しむる
惨状を知る語り部の声かすみ威勢のよさの危うさにいる (3首 荻原善次)
何も出来ぬ老女が憂ふるモヤモヤは沖縄・原発・福島・テロなど (柿本喜代子)
震災を六年経ても動かざる歴史と呼びたし仮設の暮し
十年は偉大なりとうことわざも霞むか震災七年目の春
丸六年は蕗の薹をも追いやりぬ笹竹ひとり太く高くと (3首 金田光世)
広島の演説原稿を推敲す捨てし言葉は空へ昇れり (木村友紀)
核のごみの処分地もたず稼働していぜん課題は投げ出し置かる
防護装置講じてすらも無事に済む原発あるや〈地震列島〉に
責任を問はれず救済おとづれず〈国策被害〉の原発事故は (3首 剣持輝雄)
溶け落ちしデブリの中を這ひ進むサソリぞ砂漠にはあらずして
六〇〇〇といふ数のみに名は知らず廃炉作業に身を挺する人 (2首 小泉史昭)
広島の上空を曳くヘリコプターに甦る日なりB29の残影
瞑目し慰霊碑に対う長身の背に圧しかかるプラハ演説
澱みたる核廃絶の泥沼に蜘蛛の糸一本垂らして欲しい (3首 河野きよみ)
訊きたきは冷却材のことならで燃料プールに潜む冥王
軍用のものではないがトンといふ単位で確とそこにあるもの (2首 紺野万里)
環境省の内部において汚染土の再利用化が検討さるる (紺野裕子)
こびりつく燃料デブリの映像を世界ははじめて見せられにけり
スーパーに作業服着し中東の青年たちを見ることのあり (2首 佐々木喜代子)
オバマ氏の森さん抱きたる大き手に折られたる鶴平和を呼ばむ (佐藤愛子)
昭和町平和アパート三号棟四階に拠る峠三吉
廣島がヒロシマなりて広島に移ろふ歳月を映すパノラマ
油照る名残りに熱く祖の墓に紋白蝶拠りて水を欲りたる (3首 佐藤伊佐雄)
復旧のゼッケンつけるダンプカー後ろに従え浜通りゆく
広大な更地の向こう新しき堤防着々と海かくしゆく (2首 佐藤紘子)
千年に一度の震災ならばこそ語り継ぎ行け千年までも
あるじなき庭に群れ咲く勿忘草この花まさに心あるらし
古里を支へに六年たれの言ふ仮設の長屋も住めば都と (3首 三瓶弘次)
オバマ氏とトランプ氏との核戦力対立のまま年明けんとす (志田敏彦)
雲の間の鉄の相生橋めがけジャップ野郎に落とした兵器
センソウを早く終らせるためにゲン バクを落した戦勝の国
放射能ゆえに蕨のように萌えねじれて長い被爆者の爪 (3首 清水 篤)
やはらかに語る原爆の語り部の胸に渦巻く辛き記憶は
怨讐を超えん心の置きどころ苦しくみ仏にすがりたりけん (2首 下江光惠)
樹齢など及ばぬ万の単位にて事故後も消えぬ放射能あり (下村すみよ)
原発を抱うる街の美術館ゆ花が見頃と便りの届く (新谷洋子)
次回も『短歌研究2018短歌年鑑』の「2017綜合年刊歌集」の原子力詠を読んでいきたい。 (つづく)
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