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2019年01月06日22時25分掲載
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人権/反差別/司法
ゴーン事件にみる密室の取り調べ、異常に長い拘束時間の異常 根本行雄
日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者が2018年12月10日に再逮捕されたことについて、ゴーン前会長が国籍を持つフランスのメディアは速報したという毎日新聞の記事を読んだ。勾留期間が更に延びることになり、有罪が確定していない容疑者の処遇など、日本の司法制度への批判が再燃する可能性があると指摘している。 この事件については、いろいろな角度から論評が可能だろうが、日本の勾留制度の背景にあるのは密室の取り調べであり、拘束時間が異常に長い、「日本の常識、世界の非常識」の一つである。
◆経過
ゴーン事件の流れを、毎日新聞の記事を経時的に並べ直してみました。だいたいの流れはわかっているという方は、以下の新聞記事を読まないで、次の章に進んでください。
● 毎日新聞2018年12月10日
「拘置所でXmas」再逮捕ゴーン前会長の勾留状況に仏メディア批判的
フィガロ紙(電子版)は「(前会長は)拘置所でクリスマスを過ごすことになる」との見出しで、勾留が長期化することを伝えた。またAFP通信は、面会した関係国の在日本大使館関係者の話を引用し、前会長は拘置所でひどい処遇は受けていないものの、米を主食とした食事や、部屋ごとに暖房がないことから寒さに不満を抱いていると報じた。
仏メディアは11月の前会長逮捕を当初はセンセーショナルに報じていた。やがて弁護士の同席なしに捜査当局の尋問が行われていることや、日本の司法制度が国連の拷問禁止委員会や人権団体によって批判されてきたことなど、批判的な論調が目立つようになった。
● 毎日新聞2018年12月10日
元駐日仏大使「国際社会で日本が信頼失う事態に」 ゴーン前会長逮捕に強い不快感
フィリップ・フォール元駐日フランス大使(68)がパリ市内で毎日新聞の取材に応じ、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者の逮捕に強い不快感を示した。日本政府は逮捕容疑に関する詳細な情報を提供すべきだとし、国際社会で日本が信頼を失う事態に発展しかねないと警告した。
「日本のことを友人だと思っていたのに……」。フォール氏は険しい表情でこう語り始め、逮捕について「とにかく驚いている」と繰り返した。
ゴーン前会長の逮捕容疑は役員報酬の虚偽記載。通常、有価証券報告書の記載内容は企業や監査法人が責任を負うため、フォール氏は「なぜ逮捕されなければならなかったのか、今も謎だ。仏政府は日本に対しもっと情報提供を求めるべきだ」と指摘。「もし、同じようにトヨタ自動車の会長がフランスで逮捕されたら日本は怒るだろう」と述べた。
フォール氏が駐日大使を務めた時期は2008年2月〜11年9月。ゴーン前会長とは定期的に食事をした間柄だったといい、「彼は日本を信頼し、常に日産を第一に考えていた。まさかその日産に裏切られるとは思わなかっただろう」と述べ、逮捕は日産による「陰謀」の可能性があるとの見方を示した。
ゴーン前会長の勾留が長期間に及ぶ中、「民主主義の国はこういうやり方をしない。今、日本で起きていることはサウジアラビアで起きていることのようだ」と批判。そのうえで「もし罪が比較的に軽かった場合、日本は将来、信頼を失うことになるだろう」と強調した。
● 毎日新聞2018年12月11日
ゴーン容疑者、ベッド部屋に移動 待遇改善 逮捕や起訴に納得せず
「うその自白をして自分の評判が下がるのは耐えられない」。関係者によると、ゴーン前会長は周囲にこう語り、逮捕や起訴に納得していないという。
再逮捕で、東京・小菅の東京拘置所での勾留は少なくとも年末まで続く可能性が強まった。関係者によると、勾留途中で3畳の畳部屋から、やや広いベッドのある部屋に移された。風呂は週2回で、日々の運動時間も確保されているという。
先月19日の逮捕以降、フランスやレバノンの大使らと相次いで面会。東京地検特捜部の検事による録音・録画付きの取り調べや接見以外の時間は、自身の事件を報じる英字新聞や、差し入れられた本を読んで過ごしている。逮捕直後は「(室内が)寒い」と不満を漏らしたが、体調は良好とされる。
前代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者(62)も連日、数時間の取り調べを受けている。接見した関係者が、米国にいる妻と連絡を取っていることを伝えると、安心した表情を見せたという。前代表取締役は首に持病があり、勾留後しびれが出始めたとして、弁護人は専門医の治療を受けられるよう地検に要望書を出した。
日産関係者はどう受け止めているのか。ある関係者によると、前会長は「退任後報酬」の計画について、「高額報酬だと、従業員の労働意欲が下がると考えた」と特捜部に説明したとされる。日産の現役幹部は「今回の事件で社員の労働意欲がどれだけ下がったと思っているのか」と憤りを隠さない。
1999年に仏ルノーから派遣され、大ナタを振るって日産を再建させた前会長。当時を知る元幹部は「長期政権で慢心していたのか。抜け目ない経営者だと思っていたが、起訴されるほどの証拠を残していたことのほうが驚きだ」と語った。
特捜部は10日、法人としての日産も虚偽の有価証券報告書を提出した刑事責任があるとして起訴した。日産株主で、会社員の松田繁幸さん(32)=大阪府=は「役員報酬を正直に記載したとして、株主総会でゴーン氏の役員報酬を承認しない株主がいただろうか」と首をかしげる。ただ、会社資金が前会長の家族に流れたなどとする疑惑について「会社に順法体制の改善を求めたい」と注文した。
● 毎日新聞2018年12月21日
ゴーン前会長再逮捕 地検の経費不正疑惑の解明に注目
会社法違反(特別背任)容疑で21日に再逮捕された日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)を巡っては、会社資金の流用や、経費の不正使用とみられる疑惑が次々に浮上していた。東京地検特捜部の捜査で、数々の疑惑がどこまで解明されるか注目が集まっている。
ゴーン前会長については、銀行との間で結んでいたスワップ契約による私的投資で受けた約18億円の損失を、2008年に日産に付け替えた不正経理疑惑が判明していた。この疑惑が今回の再逮捕容疑となったが、証券取引等監視委員会が当時、取引に関わった銀行に実施した検査で明らかになったとされていた。
私的流用とみられる疑惑は他にもある。日産がオランダに設立した子会社「ジーア」とタックスヘイブン(租税回避地)の会社などを通じて流れた資金で、レバノンやブラジル、オランダ、フランスなどの高級住宅が購入され、前会長に無償提供されていた疑惑が浮上した。前会長はこの疑惑を否定しているとされる。
また、日産と前会長の姉が実態のない「アドバイザリー業務契約」を結び、姉に年10万ドルが供与されたことも明らかになった。前会長は「正当な理由がある」と説明しているという。
他にも、日産が所有するジェット機1機を、会社の主要拠点がないレバノンへの往来に使用した問題も指摘されていた。さらに、娘の通う大学への寄付金や、家族旅行の費用にも会社資金が充てられていた疑惑が浮上している。送金に関わっていたとされる社員らは特捜部に任意で事情聴取され、送金の詳細を説明している模様だ。
「前会長は外出してのどが渇いて、部下に水を買わせる時も会社持ちだった。何から何まで会社のお金を使っていた」。日産関係者はそう声をひそめた。
ゴーン前会長の私的流用は、ともに逮捕された前代表取締役のグレッグ・ケリー被告(62)=金融商品取引法違反で起訴=が、外国人執行役員らに具体的に指示していたとみられる。特捜部は送金記録を入手し、裏付け捜査を進めているとみられる。
● 毎日新聞2018年12月20日
ゴーン前会長勾留却下「捜査に影響ある」 異例の決定、検察に衝撃
「必要だと思った請求が認められなかったので(捜査に)影響はあると思う」
勾留延長請求が却下された後、海外メディアも詰めかけた定例記者会見に臨んだ久木元伸・東京地検次席検事は厳しい表情を浮かべた。「感想は控える。適切に対処する」と述べ、今後の追起訴予定やゴーン前会長の不正流用疑惑に関する捜査についても「捜査の内容に関わるのでお答えは差し控える」と繰り返した。20日夜には準抗告も棄却された。
特捜部が手がけた経済事件で、逮捕容疑を否認している容疑者への勾留延長が認められないのは異例だ。ある検察幹部は「捜査上、必要だから勾留延長してほしいと請求したのに、認めないということは『捜査するな』と言われたようなもの。信じられない」と驚いた。別の検察幹部は「裁判所は海外からの『長期勾留』批判を気にしたのではないか」と話した。
ケリー前代表取締役の弁護人はこの日、21日に保釈請求する意向を明らかにした。ゴーン前会長も近く保釈請求するとみられる。
ある現役裁判官は「勾留を延長するには必要性を示す具体的な理由が必要だが、検察側がそうした理由を出せなかったのではないか。裁判官は元々、単純に『重大事件だから勾留を延長する』という考え方はしていない」と説明する。別の現役裁判官は「(勾留延長は)事件記録から判断する。海外からの『長期勾留』批判を考慮することはない」と語った
● 毎日新聞2018年12月21日
ゴーン前会長を再逮捕 特別背任容疑 拘留さらに続く
自己の金融取引で発生した損失を日産自動車に付け替えるなどしたとして、東京地検特捜部は21日、日産前会長のカルロス・ゴーン被告(64)=金融商品取引法違反で起訴=を会社法違反(特別背任)容疑で新たに再逮捕した。東京地裁は20日、前会長らに対する検察側の勾留延長請求を却下し、準抗告も棄却していた。このため、前会長は保釈される可能性が高まっていたが、勾留がさらに続くことになった。
再逮捕容疑は、自身の資産管理会社が銀行と締結していた「スワップ契約」で多額の損害が生じたため、自己の利益を図る目的で2008年、約18億5000万円の損失を日産に付け替えたとしている。また、09〜12年、日産の子会社名義の口座から4回にわたり、自身が指定した口座に計1470万ドル(約16億3000万円)を入金させたとしている。損失付け替え疑惑に関し、前会長は弁護人に「検討はしたが、実行はしなかった」と否定していた。特別背任罪の公訴時効は7年だが、特捜部は、前会長の海外滞在が長く、その期間の時効は進行していなかったと判断した模様だ。
前会長と前代表取締役、グレッグ・ケリー被告(62)=同=は、10〜14年度の前会長の報酬計約50億円を有価証券報告書に記載しなかったとして先月19日に逮捕され、今月10日に起訴された。同日には、15〜17年度の計約40億円を記載しなかった疑いで再逮捕されていた。
2回目の逮捕分に関する勾留満期は20日だったが、地裁は検察側の延長請求を却下し、準抗告も即日棄却した。2人の容疑者としての勾留は期限の21日午前0時で効力を失ったが、起訴された被告として東京拘置所での勾留が続いていた。
当初、特捜部は2回目の逮捕分について年末休暇に入る前の28日に追起訴する方針を固めていた模様だ。地裁の却下決定で、追起訴を含めた捜査方針の転換を迫られたとみられる。
今回の再逮捕の対象にケリー前代表取締役は含まれず、弁護人は21日、保釈を請求した。ゴーン前会長とは別に保釈に向けた手続きが進むとみられる。
● 毎日新聞2018年12月21日
ゴーン前会長「保釈後は海外に居住したい」 接見の弁護人明かす
東京地裁の却下決定について、ゴーン前会長の弁護人は20日夜、「適切な判断だ」と述べ、再逮捕分の追起訴後に保釈請求する意向を示した。
同決定後に接見した前会長は「今後の手続きがうまくいけばいい。保釈後は海外に居住したい。公判手続きの際には必ず日本に戻る」と語ったという。
● 毎日新聞2018年12月25日
東京地裁、検察側の準抗告棄却 ケリー被告保釈決定
東京地裁は25日、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で起訴された日産自動車の前代表取締役グレッグ・ケリー被告(62)の保釈を認める決定をした。保釈保証金は7000万円で、即日納付された。東京地検は決定を不服として準抗告したが、地裁は棄却した。25日中にも保釈される見通し。
地裁などによると(1)住居は日本国内の特定の場所に制限(2)海外への渡航禁止(3)日産関係者への接触禁止(4)取締役会に出席する際は裁判所の許可を得る――との条件が付いた。
弁護人によると、ケリー被告は脊椎(せきつい)に持病があり、手足のしびれを訴えている。(共同)
● 毎日新聞2018年12月29日
ゴーン容疑者、拘置所内で「年越しそば」と「おせち料理」か
日産自動車の資金を不正流用するなどしたとして会社法違反(特別背任)容疑で逮捕された前会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)=金融商品取引法違反で起訴=は東京拘置所内で年を越す。拘置所では、大みそかや元日は特例としてそばや「おせち料理」が提供される。年末年始も東京地検特捜部の取り調べが続く前会長もこうした処遇を受ける。
法務省によると、全国の拘置所や刑務所では大みそか、通常の食事以外にカップ麺のそばとポットのお湯が各部屋に配られる。「年越しそば」をイメージした特別措置で、就寝時間までに食べられるという。
また、この日はNHKの「紅白歌合戦」のラジオ放送を各部屋で聞くこともできる。普段のラジオ放送は就寝時間の午後9時に消されるが、大みそかだけは午前0時まで流される。職員に依頼してスイッチを切ってもらうこともできるという。
元日は通常の食事とは別に、正月ならではの折り詰め弁当が配られる。エビや黒豆、だて巻き、かまぼこなどが入り、2日夜か3日朝ごろまでに食べればいいルールになっている。
ゴーン前会長は1月1日までの勾留が決まっており、こうした食事が提供されるとみられる。前会長は、通常の3畳部屋より少し広いベッドのある部屋で寝起きをしている。
年末年始の特別な処遇について、法務省幹部は「施設の管理・運営上、季節感のある食事を提供することで、拘禁に伴う収容者のストレスを軽減したいという側面もある。大みそかや正月などは限られた予算の中で特別措置の原資を工面している」と話している。
● 毎日新聞2018年12月31日
勾留延長は11日まで ゴーン前会長、特別背任容疑も全面否認
日産自動車の資金を私的に流用するなどしたとして会社法違反(特別背任)容疑で逮捕された前会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)=金融商品取引法違反で起訴=について、東京地裁は31日、検察側の勾留延長請求を認める決定を出した。延長期間は1月2〜11日。前会長は、役員報酬を過少記載したとされる金商法違反事件に続いて特別背任容疑も全面否認しており、東京地検特捜部にどう反論していくのか注目される。
ゴーン前会長らの刑事手続きの流れ
前会長の勾留を巡っては、12月21日の特別背任容疑での逮捕に伴い1月1日が期限だった。今回は元日の手続きを避けるため、検察の請求と裁判所の判断が前倒しされたとみられる。
特別背任の逮捕容疑は、ゴーン前会長は2008年10月、新生銀行との私的な金融派生商品取引で生じた多額の損失を含む契約を日産に付け替え、その後自身に戻す際、前会長のため信用保証に協力したサウジアラビアの知人の会社に09〜12年、日産の子会社から計1470万ドル(約16億3000万円)を送金したとされる。
関係者によると、知人は信用保証料として約30億円を別の銀行に支払い、前会長がこの利息を知人に支払うとする文書が交わされていたという。特捜部は、約16億3000万円にこの私的利息が含まれる可能性があるとみて追及しているが、前会長は「利息は個人の資産から払った」と反論しているという。
特捜部の捜査の次の山場は1月11日の新たな勾留満期。特別背任容疑と2回目の過少記載容疑が追起訴されるのか、ゴーン前会長の保釈がどうなるのかが焦点になる。
◆ 日本の常識 世界の非常識
まず最初に、読者に頭に入れておいてほしいことは、渡部保夫さんが『刑事裁判を見る眼』(岩波現代文庫)のなかで、次のように述べていることです。
「刑事裁判全体の仕組みについて、たとえば英米とわが国とを比較してみますと、英米においては『検察側が無実の被告人を有罪にすることはたいへん困難であり、無実の者が無罪になることはいとも簡単である』という明快な仕組みになっていますが、わが国では奇妙にもこれが転倒しており、『無実者といえども無罪の判決を得ることは非常に困難であり、検察側が有罪の判決を得ることは概して簡単である』という仕組みになっています。」(33ページ)
日本国憲法には、第31条「法廷手続きの保障」(適正手続き)、第32条「裁判を受ける権利」、第33条「逮捕の要件」(令状主義)、第34条は「抑留、拘禁に対する保障。拘禁理由の開示」、第35条「住居の侵入、捜索、押収に対する保障」、第36条「拷問および残虐刑の禁止」、第37条「刑事被告人の権利」、第38条は「不利益な供述の強要禁止、自白の証拠能力」、第39条「遡及処罰の禁止、一事不再理」、第40条「刑事補償」など、数多くの条文が規定され明記されています。なぜ、このように数多くの条文がつくられ、規定され、明確にされているのでしょうか。それは明白です。渡部さんが述べているように、『検察側が無実の被告人を有罪にすることはたいへん困難であり、無実の者が無罪になることはいとも簡単であるという明快な仕組み』にするためです。つまり、これらの数多くの条文もまた、「基本的人権」を保障するためのものなのです。
それにもかかわらず、なぜ、日本には数多くのえん罪があるのでしょうか。これまで、日本の司法の「えん罪を生む」仕組みについては、青木英五郎さん、後藤昌次郎さん、渡部保夫さんその他の人びとによって研究がされてきており、ほぼ解明されています。
「裁判員裁判」に代表される、現在進行中の司法改革は、まだまだ不十分なものです。いまだに代用監獄は廃止されていませんし、取り調べの全面的な可視化も実現されていません。そして、弁護士の接見交通権の実現はまだまだ不十分なものですし、もちろん、取り調べに弁護士が立ち会うことはほとんど保障されていません。
えん罪を生む原因は、警察ばかりではなく、もちろん、検察にも、裁判所にもあります。また、報道機関にもあります。警察のついては、別件逮捕の禁止、代用監獄の廃止、ミランダ・ルールの確立、勾留期間の欧米並み短縮、弁護士の立ち合いのない取り調べの禁止、取り調べ状況の全面的可視化、早期保釈、黙秘権の確立。検察については、証拠の全面開示の義務化、上訴権の廃止などが、早急に実現すべき喫緊の課題です。裁判所と報道機関については、詳しくは、拙著『司法殺人』(影書房)を参照していただきたいと思います。
◆ 密室での取り調べとは
入院中、テレビで、「みやねや」などのニュース番組をたくさん見ました。長い時間、ニュースの解説していることに驚きました。日中に、こんなに長時間、ニュースを見ていられる時間があるなんて、どんな人々が見ているのだろうか。
ところで、これらの番組に登場する芸能人の人びとは専門家ではありませんから、渡部さんが述べている、「英米においては『検察側が無実の被告人を有罪にすることはたいへん困難であり、無実の者が無罪になることはいとも簡単である』という明快な仕組みになっている」を知らないとしても、それは仕方のないことだと思います。しかし、「日本の常識、世界の非常識」ということには、気づいてほしいものだと思います。
ここで読者に皆さんに想像力を発揮していただきたいと思います。もっとも、それほど、むずかしくはありません。
あなたが無実でありながら逮捕されたと想像してみてみてください。日本では、どういう取り調べが待っているかということを想像してみたください。普通の暮らしをしてきた人ならば、自分が無実であるか、犯罪を犯しているかは、当然のことながら、わかっているはずです。
日本では、逮捕されたならば、当然、あなたは無実だということを知っているのですから、否認をします。そうすると、日本の警察は釈放はしません。まず、3日、勾留の延長10日、続けて延長10日、合計、23日間は釈放されません。
しかも、逮捕されて孤立無援となっているあなたを助けてくれる弁護士は取り調べに立ち会うことはできません。密室での取り調べが23日間も続くのです。この密室での取り調べによって、数多くの人びとが冤罪の被害者になっています。無実の人がやってもいないことに犯行の自白をさせられるのです。しかも、無実なのですから、目撃証人も、有罪の証拠をあるはずがありません。だから、警察や検察は、密室のなかで暴行したりして自白を強要します。騙したりもします。目撃証人や有罪の証拠をでっち上げます。そのうえ、無実の証明する目撃証人を脅迫したりします。また、無実の証拠を廃棄したりします。それが有罪率99.9%の裏側にあるものです。
つまり、現行の、日本で行われている取り調べとは、監禁状態での取り調べなのです。結婚したいと一方的に思い込んでいるストーカーをしている男が女性をホテルの部屋に監禁し、婚姻届けにサインをさせて、彼女の自発的な意思で、わたしたちは結婚するのだと主張しています。
ここで、この男の主張を正しいとあなたは思いますか。同じこと、密室を利用した取り調べと同じことを日本の警察や検察は行っているのです。それを渡部先生は、「わが国では奇妙にもこれが転倒しており、『無実者といえども無罪の判決を得ることは非常に困難であり、検察側が有罪の判決を得ることは概して簡単である』という仕組みになっている」と解説されていたのです。どうでしょうか。
◆ まとめ
日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者の事件については、いろいろな角度から論評が可能だろうが、日本の勾留制度の背景には密室の取り調べがあり、拘束時間が異常に長いという、「日本の常識、世界の非常識」の実態の一つがあるのです。
このような司法制度は、明らかな人権の侵害です。しかし、日本国憲法は「基本的人権の尊重」を三大原則の一つにしていますが、戦後ずっと、日本の警察と検察は、この人権侵害を当たり前のこととしてやり続けているのです。それが実態です。そして、周防正行監督が『それでもボクはやっていない』という映画のなかで、検察が手持ち証拠を開示しないために弁護士が苦労するエピソードがでてきます。日本の検察には、証拠の全面開示義務がないことを口実にして、証拠を隠しをしています。これもまた、えん罪を作り出している要因の一つです。欧米では、警察や検察は税金を使っている行為ですので、捜査で手に入れた証拠の類は共有財産であり、全面的な開示義務があります。
しかし、日本には全面開示義務がないので、布川事件でも、段ボール箱にして10個以上の証拠が隠されており、その中には無実の証拠も含まれていました。それが有罪率99.9%を支えているのです。
付記 朝日新聞社の「WEBRONZA」に、五十嵐二葉弁護士がゴーン事件についての文章を掲載されています。是非、読まれることをおすすめします。
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転載について
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