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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2019年01月16日15時29分掲載
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日本の植民地政策の被害者を救済するのは日本政府の責任 Bark at Illusions
韓国のムン・ジェイン大統領は年頭の記者会見で徴用工訴訟に関して発言し、日本政府に対してこの問題に謙虚な態度で臨むよう求め、問題解決に向けて日韓が共に知恵を出し合うべきだと訴えた。日本政府やマスメディアはムン・ジェインの発言に対して一斉に非難を浴びせているが、個人の請求権は日韓請求権協定(1965年)で消滅していないという日韓両政府の共通認識や、日本の植民地政策の被害者が未だに救済されていないという事実を踏まえたムン・ジェインの発言は、極めて常識的なことを言っているに過ぎない。
「本当は後ろの方を指名したのだけど」と会場の笑いを誘ったムン・ジェインは、自分が指名されたと勘違いしたNHKの記者の質問に答え、徴用工問題など日韓両国間で未解決の問題は過去の「不幸な歴史」──つまり日本の植民地政策──によってつくられた問題であると指摘し、日本政府に謙虚な姿勢を取るよう求めた。そして日本の政治家や指導者が問題を政治争点化して拡散していると批判し、日本の植民地政策による被害者が救済されるよう日韓両国が互いに知恵を絞るべきだと訴えた。さらに日本が「国際法違反」だと主張している韓国大法院(最高裁判所)の判決については、韓国政府も他の国と同じように近代国家の原則である三権分立に従って司法の判決を尊重しなければならないということを理解するよう日本に求めた。
これに対して日本政府は、ムン・ジェインの発言について
「国際法違反の状態を是正する責任は韓国側にある。具体的な適切な対応は行われていない」(自民党・岸田文雄議員) 「事実を事実として見ない発言の繰り返しだ」(外務副大臣・佐藤正久) 「韓国側の責任を日本側に転嫁しようというもので、極めて遺憾だ」(官房長官・菅義偉)
などと非難。マスメディアも日本政府に同調してこのような政府の主張を批判することなく伝え、
「いままず求められているのは、この問題に関する韓国政府の明確な態度を示すことである。……懸案を乗り切るには、世論の不興を買ってでも従来の政府見解を踏襲し、外交問題をこじらせない策を早期に出してもらいたい」(朝日 社説19/1/11)
「1965年の日韓基本条約とこれに伴う請求権協定を両国関係の基盤ととらえていないのだろうか。……(韓国政府は徴用工問題が)植民地時代の歴史問題であると強調するなら、これを清算して前進したはずの65年体制をどう考えているのか。問題解決に正面から向き合っていないと言わざるを得ない」(毎日 社説19/1/11)
などと事実誤認に基づく批判をして、問題解決の責任は韓国政府にあると主張している。 しかし冒頭でも述べた通り、日韓請求権協定で個人の請求権が消滅していないというのが日韓両政府の共通認識だ。テレビや全国紙ではほとんど伝えられることがないが、これまで日本政府もそのことを認めてきたし(例えば1991年8月27日の外務省条約局長の国会答弁)、現政権も外務大臣の河野太郎が昨年11月14日の衆議院外務委員会で日韓請求権協定によって「個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」と答弁している(赤旗18/11/15)。 また「国際社会」においても「国家間の条約で個人の請求権を一方的に消滅させることはできない」というのが「国際的潮流」だ(同志社大学太田修教授 朝日18/11/23)。国際労働機関(ILO)の専門家委員会も1998年に戦時中の日本の強制労働は強制労働に関する条約(1930年)に違反していると結論付けて以来、日本政府に対して強制労働者の請求に応えるよう度重ねて求めている。
従って日本政府やマスメディアのムン・ジェインに対する非難は、不当なものだ。日韓請求権協定で個人の請求権が消滅していないと日本政府も認めているというのに、岸田文雄は一体何を根拠に「国際法違反の状態」だと言っているのか。「事実を事実として見ない」というのは日本政府の方ではないか。また問題解決の責任を被害者側の韓国政府に押し付けたり、加害者側の日本政府が韓国政府に対して「責任を日本側に転嫁」していると非難するとはどういうつもりか。日本の植民地政策の被害者を救済するのは、加害者である日本政府や日本企業でなくて一体誰だというのか。
このような日本政府やマスメディアのあまりに身勝手な主張がまかり通るとは、日本社会は狂っていると言うほかない。洋の東西を問わず、暴力や人権侵害などの犯罪は被害者に対する加害者の謝罪と補償なしに解決しないということは、健全な社会であれば常識だろう。
ところで、日本のマスメディアの中にはムン・ジェインが日本の記者が質問するまで日韓関係に触れなかったことを問題視しているものがある。例えばNHKニュース7(19/11/10)は、アナウンサーの鈴木奈穂子が「国内外の記者180人が集結」する記者会見では「日韓関係に関する発言」が「注目」されていたにもかかわらず、
「韓国メディアから上がる質問は北朝鮮問題や国内経済に関するものばかり。日韓関係への質問がでてきません」
と述べた後、会見に出席したNHKソウル支局長の高野洋が
「かつてないほど日韓関係が悪化しているだけに、韓国メディアからも質問が出ると思いきや、北朝鮮の問題に集中。日本メディアとの温度差を感じました」
と感想を述べている。 しかし会見では韓国の記者だけでなく、ワシントン・ポスト(合衆国)やフィガロ(フランス)など外国メディアの記者も質問をしている。それでも日韓関係に関する質問が出なかったのだから、「国際社会」は日韓関係ではなく朝鮮半島情勢に注目が集まっていたというのが真相ではないだろうか。ちょうど中朝首脳会談が行われた直後であり、2回目の米朝首脳会談の開催も取り沙汰されていたことを考えれば、「北朝鮮の問題に集中」するのは当然だろう。しかも上記のような理由から、ムン大統領が「慰安婦」問題や徴用工問題に言及して恥をかくのは日本の方だ。 NHKの高野洋はそれを知ってか知らでか徴用工訴訟に関して質問したわけだが、ムン・ジェインはとても控えめに、質問されたからそれに応えるという上品なやり方で日本政府を批判して韓国政府の立場を世界に示し、さらに想定外の質問にもちゃんと答えられますよという余裕まで見せつけた。記者クラブという閉鎖的な会見に慣らされている日本の総理大臣に同じような対応ができるだろうか。
マスメディアは韓国の大統領への筋違いな批判や韓国メディアを云々する前に、自分たちの政府に対して「日韓請求権協定で個人の請求権が消滅していないというのは、日本政府も認めていることではないか」、「日本の植民地政策の被害者の救済は日本政府の責任ではないのか」と問うべきだ。
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