今日、インターネットではロイターやThe Asia-Pacific Journalのある報道が話題を呼んでいました。それはおよそ120年の伝統を持つ日本の英字新聞の老舗The Japan Timesの編集方針が右傾化したというものです。ロイターの記事の日本語版が以下です。「焦点:『慰安婦』など表記変更 ジャパンタイムズで何が起きたか」という見出しです。
https://jp.reuters.com/article/japan-times-korea-insight-editorial-idJPKCN1PJ050 「今後、ジャパンタイムズは徴用工を『forced laborers(強制された労働者)』ではなく『戦時中の労働者(wartime laborers)』と表現する。慰安婦については『日本の軍隊に性行為の提供を強制された女性たち(women who were forced to provide sex for Japanese troops)』としてきた説明を変え、『意思に反してそうした者も含め、戦時中の娼館で日本兵に性行為を提供するために働いた女性たち(women who worked in wartime brothels, including those who did so against their will, to provide sex to Japanese soldiers)』との表現にする」と書かれていました。
The Asia-Pacific JournalはDavid McNeill と Justin McCurryによる記事でタイトルは”Reinventing the Japan Times: How Japan’s oldest English-language newspaper tacked right”(ジャパンタイムズの改造 〜いかに最も古い日本の英字紙は右傾化したのか)です。
https://apjjf.org/2019/03/McNeill.html?fbclid=IwAR2yHxiYghKDO3DCfl-0C4O2GvRcAPtkJ64qRhdl8INJpCLqcPLRP-DIm0U
いずれも社主が変わって編集のトップが変わったことで編集方針が大きく変わり、それまでのニューズルームのスタッフとの間に大きな葛藤が起きていることが伝わってきます。さらに安倍政権に批判的だった2人の論者のコラム連載を打ち切ってから、政府の広告費がジャパンタイムズに入るようになったとされます。
このことで思わぬ影響を受けかねないのがニューヨークタイムズです。というのも日本国内でニューヨークタイムズを新聞販売店を通して定期購読すると、ジャパンタイムズも一緒に買わないといけないシステムに2013年に変わったからです。顧客の視点に立ったら非常に理不尽な話で、一紙を買うともう一紙も無理やり買わされてきたのです。たとえてみると、とんかつが食いたいと思ってとんかつ屋に入ったら、カレーライスも一緒に注文せよ、と店主に命じられたようなものです。そんなに食べられませんよ。
前から知りたいと思っていたこの併読システムに切り替わった事情について、いい機会なのでニューヨークタイムズ東京支局に問い合わせてみました。すると、東京支局はニュース編集に特化したオフィスであり、販売やビジネス面の決定は全く異なるセクションで行われている、ということでした。つまり、東京支局長をはじめニューズルームのスタッフたちはジャパンタイムズとニューヨークタイムズをセット販売する決定にはまったくタッチしていないと言うのです。 私は2つの新聞の販売・配達上の提携は大枠の経営合理化で、ニューヨークタイムズ東京支局は日本国内取材のスタッフを減らし、ジャパンタイムズは国際ニュースをニューヨークタイムズからもらって互いに経費削減でもしたのか、と思い込んでいました。ところが、ニューヨークタイムズ東京支局の話では販売(宅配)で提携しても、編集の面ではまったくジャパンタイムズと無関係だということです。取材体制もジャパンタイムズとの販売提携で大きく変わったというようなことは全くないそうです。それなら、ますますなぜ一緒にジャパンタイムズをセットで買わされるのでしょうか?
ジャパンタイムズの記事は日本の新聞と情報的に重なる部分が大きく、私などは英字紙についてはニューヨークタイムズだけで少なくとも私には十分と思っていました。ただ、過去にジャパンタイムズはニューヨークタイムズと権力批判という点で同じ文化を共有していたので、併読を求められても我慢してきたのです。しかし、今後、ニューヨークタイムズと価値観の異なる新聞を無理やり読まされる、ということになると話は大きく変わってきます。ジャパンタイムズが上の記事で報道されているように、歴史修正主義的な新聞に急激に転換したのだとしたら、ニューヨークタイムズと一緒に配達され、買わされるのはやめてほしいと思います。
|