私は、全国一般労働組合東京南部(以下、なんぶ)第25回定期大会で執行委員長に就任いたしました。 1984年に女性5名で“なんぶ”に加入、分会を結成して以来、なんぶ歴34年目です。この間、書記長時代も含めて、ちょうど25年間、専従として働いてきました。 折しも「出入国管理及び難民認定法」(以下、入管法)の改定が行われました。外国人労働運動は“なんぶ”の柱のひとつです。私は、この運動との関わりを振り返ることで、委員長就任のご挨拶に代えたいと思います。 ◆ 1990年前後のバブル期も、いわゆる3K(危険、汚い、きつい)仕事に従事する若年層が少なく、製造業を中心に深刻な人手不足でした。そうした業種は、観光ビザで入国した短期滞在外国人によって支えられていました。 当時は、建設現場など目に触れる場所には韓国人労働者、すぐに外国人とわかる南アジアから来た労働者は、工場や飲食店の洗い場など見えないところで働いていました。低賃金長時間労働、未払い賃金、労災の多発など、労働環境は劣悪でしたが、少なくとも技能実習制度のような、人身売買・奴隷労働ではありませんでした。 バブルが崩壊し、それらの外国人労働者が放り出されたのは、ちょうど私が労働組合の専従になった頃です。 私は外国人労働者から相談を受け、あちこちの現場で使用者と交渉しました。使用者の多くは中小企業の工場か飲食店主(有名なレストランも数件)で、労働者の相談は、解雇と未払い賃金(多くは時間外賃金)、労働災害が主でした。 解雇と同時に住まいもなくなり、入管へ出頭した労働者や、入管に収容され、入管から直接私へ連絡してきた労働者もいて、私はたびたび入管に出向き相談を受けました。 ◆ 解雇された外国人労働者が未払い賃金請求をすると、中小企業経営者たちは、「働かせてやっていたのに」と、まるで善意で雇ったかのように、労働者に向かって「貧しい国で仕事もないから日本に出稼ぎに来たんだろ、仕事があっただけでもよかったじゃないか」と言いました。 私には「飼い犬に手を噛まれるとはこういうことですよ」と開き直りました。中には、聞くに耐えない差別的暴言を吐いた経営者の家族もいましたし、日本名をつけて社会保険に加入させていた事業主もいました。 使用者も様々でした。労使双方から「どうしたら違法就労にならないか」という相談を受けたこともあります。使用者の方も働いてほしいし、労働者も働き続けたい、でもその仕事は在留資格になかったのです。 ◆ 日本政府は労働力の調整弁として、雇用流動型の非正規労働と外国人労働を思いつき、小泉政権時には“日系”という在留資格に派遣会社が結びついて、南米から多くの日系労働者を受け入れました。 それから「技能実習制度」です。2010年、技能研修・実習生が実態として労働させられているにも関わらず、労働基準関係法令が適用されない問題から、“技能実習”という在留資格ができました。 技能実習生は、労働者として扱われるようになったものの、昨今の新聞等メディアに報道されるとおり、人身売買、人権蹂躙、労働基準法違反が蔓延しています。 それは技能実習制度が、業界、監理団体、送り出し機関の利権だの癒着だのを引き起こし、経営者のモラルを破壊し、善良な事業経営者をして悪魔に変身させる設計となっているからなのです。 ◆ 私も運営委員を担う「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)は移民政策を提言し、問題多い技能実習制度の廃止を訴えています。現場の労働者の目線で考えれば当然のことです。 日本はすでに移民社会で、実際、15年前に私が関わった埼玉のクリーニング工場では10数ヶ国に渡る多国籍の労働者が働いていました。 私たちは多民族で構成する多文化共生社会を呼びかけ、労働者として市民として労働と生活の権利保障を求めています。 ◆ ところで、この入管法改定問題が報じられる中、「外国人3千人が加入の労組結成」という見出しが新聞記事に踊りました。 記事は「外国人従業員が約3千人加入する企業内労働組合が結成されたことが分かった。組合員の約3分の1を占めるといい、これだけ多くの外国人が入る労組は極めて異例だ。政府が外国人労働者の受け入れ拡大を進める中、外国人の待遇改善をめざす新たな動きとして注目を集めそうだ。」とありました。 この組合は最大の産別労働組合で、今まで外国人労働者の受け入れに否定的でした。記事は何か良いことのように思えますが、私は違和感を覚えました。 この組合は、経営者と相談して話をまとめた“ユニオンショップ協定”(ユ・シ協定)で組織する方法を採っており、つまり3千人の外国人労働者(そのほとんどは留学生です)が自由意志で労働組合に加入したわけではないのです。 もちろんユニオンショップがいけないわけではありません。流通や食品などの大手企業では、非正規労働者の増加にともない、正社員組合では従業員代表となる過半数組合になれないことから“ユ・シ協定”を改定し、組合員資格を広げて、非正規労働者の組織化を進める傾向にあります。外国人労働者の加入というのも、この一環と考えられます。 ところが、この企業の外国人労働者にどのような課題があるのか、どの新聞にも書かれていませんでした。 それにしても、この組合は、3千人の外国人労働者のほとんどが、本来働く目的で在留しているのではない、留学生の資格外活動である実態をどのように考えているのでしょうか。 ◆ 国会での入管法改正案についての参考人質疑では、政府与党側の参考人は、「外国人材の受け入れは経済、社会基盤の維持に必要」とし、法改正は「外国人の在留状況を入管が的確に把握できる」と評価しました。 「必要な外国人労働力の管理ができる法改正」は本質を突いていると思います。日本政府はこれまでも外国人労働を労働力の調整弁として使ってきましたが、その姿勢は崩さず、労働力確保に外国人労働力は欲しい、そのため管理は強化する、移民政策ではないというわけです。 いま外国人労働者の4割強が“技能実習生”、3割強が“留学生”です。労働力としての留学生の「留学生バイト」3千人加入の労組は、いったいどのような運動をするのか分かりませんが、長く関わってきた私たちの外国人労働運動とは、かなりベクトルが違っているような気がします。 ◆ 歴史的にみると、労働組合は、外国人労働者が入ってくると「仕事を奪われる」「低賃金競争」させられるとして、排外的な行動に出ることがありました。しかし、低賃金は会社経営のせいであって、外国人労働者のせいではありません。これを見誤ってはいけないと思います。 “なんぶ”は国際的に開かれた労働組合です。そして国籍だけでなく、性別も年齢も、障がいの有無も、労働者の属性に関わりなく、労働者が横につながることで、健康で働きやすい職場、安心して暮らせる社会を目指します。 これを“連帯”と呼びます。理不尽なことには抵抗します。黙っていると理不尽さはさらに大きくなります。 私はみなさんとともに、きちんと言うべきことが言える労働組合として全国一般なんぶを発展させていきたいと思います。 どうぞよろしくお願いいたします。ともにがんばりましょう! (全国一般労働組合東京南部 執行委員長 中島由美子)
<全国一般労働組合東京南部機関紙『躍動』2019年1月号より転載>
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