事件は3月25日(月)、パリの北東、セーヌ=サン=ドニ県にあるにボビニーで起きた。ロマ(ジプシー)がトラックでフランス人の子供を誘拐しているという事実無根の噂がソーシャルメディアで広まったため、怒りに駆られ興奮した地元の人々がロマたちのキャンプを襲撃したというのだ。このキャンプにはロマがおよそ150人暮らしている。AFPの報道では50人余りのフランス人がナイフや棒を手に襲撃に集まった。キャンプに置かれていたロマの車は彼らが投げたレンガなどで壊され、ロマの人々に向けて投石が行われた模様だ。
セーヌ=サン=ドニ県と言えばフランスでも貧しい人々が多数住んでいる地域だ。「93県」と呼ばれることもある。ボビニーはセーヌ=サン=ドニ県の県庁所在地である。地元の新聞L'OBSではロマのキャンプを"bidonville" (スラム街)と言う言葉で表している。ロマの住民はかつてルーマニアやセルビアやモルダビアから訪れた人々だとされる。このキャンプの人々の場合はどうか詳細は不明だが、基本的に、近年フランスに流入したロマはルーマニアやブルガリアなどの祖国でも社会の周辺に置かれきた。そうした人々がEUの拡大で人の移動も自由化されたため、活路を求めてフランスに渡ってきたのである。現在、およそ1万5千から2万人のロマがフランスにいるという。
報道によると、若者4人は、セーヌ=サン=ドニ県でロマに対して行った暴力行為などの罪が問われ、4月に裁判にかけられる。さらに11人が警察に勾留にされている。そして、これは150人のそのロマのキャンプだけでなく、ソーシャルメディアで事実無根の噂が広がったために、セーヌ=サン=ドニ県の34におよぶこうしたロマのキャンプが警察の保護の対象となっている。
Youtubeを見ると、なんと今でもその噂のもとの1つになったらしい若者による「警戒! ロマがパリで子供を誘拐している」という映像が残っていた。冒頭には悲鳴などを混ぜ込んだ実録的な映像に、テロップがかけられている。実録的と言っても表面的な雰囲気だけで「警察24時」的な番組から断片を使っているのかもしれない。テロップではトラックに子供が乗せられ誘拐され、売春させられたり臓器売買されたりする・・・と言ったことが説明されていた。そのあと、野球帽をかぶった若者が自室で話し始める。男は知人からもたらされた情報を話し始める。ロマが子供を誘拐して人身売買するネットワークを持っていて、白いトラックで子供を連れ去るのでパリや近郊ではみんな注意してくれ、と警告している。 映像は4分ほどだ。もちろん、フェイクニュースだ。UPされた日付は3月24日の日曜日、まさにロマのキャンプが襲撃された前日である。視聴したクリック数は現時点で38000を超えている。
●AFPの映像レポート ロマのキャンプが映されている。不安に駆られる思いをロマが語っている。ロマの生活の一端が映し出されている。
https://www.youtube.com/watch?v=zdeOKsUeTA0
AFPの映像を見ると、ロマが次のような話をしている。噂の中には逆に、<ロマの子供を誘拐する>、というものもあり、ロマたちは子供を守るためにキャンプから出れず、仕事ができないというのだ。ちなみに仕事とはくず鉄拾いやゴミ処理、引っ越しの作業などのようである。
■フランスからの手紙17 フランスとロマ 〜ロマの強制送還を考える〜 La France et les Roms パスカル・バレジカ (2010年10月3日)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201010032221310
■ロマ(ジプシー)は国に統合可能か?〜フランスで議論白熱〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201310180659035
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