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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2019年04月07日13時35分掲載
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日々変化しいとおしくなる映画に出会った ドキュメンタリー『沈没家族 劇場版』(監督:加納土) 笠原眞弓
『沈没家族』は、「家族」とついているので新しい家族の在り方とか、形態という視点で見たくなってしまうし、またそういう視点でも見るのが正解だと思う。でも私としてはなんかそうではないようなインパクトなのである。これは、一人の人間の育ちの新しい形態であり、それを育った本人が検証していくのだ。
この作品の最初のバージョンは、加納土監督の大学卒業制作だった。たまたま幼いころに保育をしてくれていた人に出会ったことがきっかけで、自分が全く覚えていない時期のことに関心を持ち、卒業制作のテーマに選んだと本人が何かに書いていた。 私は卒業制作を、そして少しバージョンアップしたものを見る機会があった。さらに今回の劇場版である。見るたびに内容が充実し、「そこのところ知りたかったのよね」的に満足度が上がった。ところが、そればかりではなかった。見た後にも妙に引っかかるのである。見ているときから、これはなんだ?大丈夫かな?とかいろいろ頭のなかをめぐっていた。さらに見た後も頻繁に様々なシーンが脳裏に表れ、突然あれはこのことだったのね、などと閃いたりしたし、また違う意味を見出したりした。つまり、見た後もそれ自身が「成長する」感じがするのである。そんな映画は、稀である。はじめてかもしれない。
加納土君の母親、加納穂子さんは土君の父親と別れ、生活費を稼ぐための仕事をする傍ら、専門学校に通いたい。その間、誰かに土君を見てもらいたいと思う。そして、彼女は電柱に「保育者求む」の張り紙を張り巡らす。保証するけど、私はそういう状況になっても絶対にそんな張り紙はしない。いや、思いもつかないし、できないというほうが正しいと思う。でも、穂子さんはした。彼女にとっては、自然のことだったようだ。そこが肝なのだ。
「沈没家族」の始まりである。父親は離れて暮らす週末に会う「おじさん」だった。保育者は意外と若い男性が多かった。克明な記録ノートが穂子さんと保育者、そして彼ら同士をつないでいた。でも「大丈夫かな」はぬぐえない。どうして今の、いろんな意味でとても大きい感じのする「加納土」君に育ってきたのか謎だった。 ある場面が謎を解いたのだ。保育者の一人が当時を述懐して「どんなに楽しく遊んでいても、穂子さんが帰ってくると、自分らには見向きもせず母親のところにすっ飛んでいく」と。母親として、この言葉は当然だが最高だ。その安心地帯があるからこそ、なのだ。そしてもう一つ、穂子さんは言う「一人で育児をすると支配につながると思った」と。私も母親としてグウの音も出ない。思わず自分の子育てを振り返ってしまった。
ある時突然「穂子さんは今も沈没家族をやっている」と閃いた。それは、土君が9歳の時穂子さんが八丈島に移住したのだが、ごく最近の映像に、ご近所が集まって食事会のようなことをしているシーンがある。それを思い出したとたんに「あゝ、なぁんだ、ここでも沈没家族、しているじゃない」と。 ちなみにこの沈没家族という命名は、当時男女共同参画が言われ始めて、男女平等が進められていた時に、ある政治家が「これが進むと日本が沈没する」といった。それに腹を立てた穂子さんが自分たちのこの大きな家族に「沈没家族」という名前を付けたという。
もう一つ、見逃してはならないのが「山ちゃん」こと、父親との関係だ。ずいぶん久しぶりにこの映画のために父親に会いに行く。最初のバージョンから回を重ねにつれ、山ちゃんに対する監督の思いが、肯定的に膨らんでくるように見えた。それがなぜなのかよくわからないが、その雰囲気が、よりこの作品を味わい深いものにしている。 のちに、監督が語っているが完成品を見てもらった時「お前の作品だから尊重する」と言われたと。父親は、カメラマンである。同じクリエーターとして息子を一人前に認めた証と思えた。 ここまで書いてきて、あゝ、やはりこれは「家族」、そこで成長する一人ひとりを描いているんだと納得した。 チェックどころ満載の、見た後もいつまでも楽しめる映画なのだ。
4月6日よりポレポレ東中野ほか、全国順次公開 上映後トークもある。
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沈没家族ポスター
映画『沈没家族』から
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