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2019年04月25日17時22分掲載
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検証・メディア
ジャーナリズムの程度が知れる マスメディアのジュリアン・アサンジ逮捕の伝え方 Bark at Illusions
米軍の戦争犯罪の証拠など市民社会に有益な情報をリークしてきたウィキリークスの創設者・ジュリアン・アサンジが英国警察に逮捕された。合衆国に送還されれば拷問や終身刑を受ける可能性のあるアサンジに亡命を認めていたエクアドル政府は、彼を保護していた在英国大使館内に英国警察を招き入れ、英国警察がアサンジを大使館外に引きずり出して逮捕した。これは政治亡命者保護の国際的な原則に反する。また7年に及ぶアサンジの在英国エクアドル大使館での恣意的拘禁 や今回の逮捕は、報道の自由に対する明白な侵害だ。しかしマスメディアはこれらの国際法違反や弾圧に対してほとんど無批判で、あろうことか政府や捜査当局の立場から事件の基本事実を伝え、権力者によるウィキリークスの弾圧に正当性があるかのような印象を与えている。
マスメディアはジャーナリストであるジュリアン・アサンジから距離を置き、客観的あるいは“中立的”に事件を伝えているつもりかもしれないが、彼らが伝えるニュースは完全に権力者側の立場に立っている。 まずマスメディアは、ほとんど例外なくアサンジに「容疑者」という敬称をつけて呼んでいる。しかし政府や捜査当局が容疑者と判断しているからといって、マスメディアがそれに習って「アサンジ容疑者」と呼ぶのは軽率に過ぎる。政府や捜査当局の「容疑者」という判断は正しいのかどうか、報道機関であるなら検証しなければならない。 政治的迫害であることが疑われる場合、マスメディアが当局の発表や判断に従わずに、「容疑者」や「受刑者」などという敬称を用いなかった例は少なくない。例えば、今年1月に国家政権転覆罪で実刑判決を受けた中国の人権派弁護士の王全璋氏の場合、マスメディアは「王全璋弁護士」あるいは「王全璋氏」などと呼んでいた。またテロ計画容疑や政党事務所放火容疑で有罪判決を受けてロシアで収監されているウクライナの映画監督・オレグ・センツォフについても、マスメディアは彼を政治犯と判断し、「オレグ・センツォフ容疑者」や「オレグ・センツォフ受刑者」ではなく、「オレグ・センツォフ氏」と呼んでいる。なぜマスメディアはアサンジの場合には「容疑者」という敬称を用いるのか。次に述べるように、アサンジの「強姦容疑」は警察による捏造事件であり、アサンジが合衆国とその従属国から迫害を受ける政治犯であることは明白だ。それとも、マスメディアは対象人物が迫害を受けているかどうかではなく、迫害しているのが誰かによって「容疑者」であるかどうか判断しているのだろうか。
ほとんどのマスメディアは真偽を確認することなくジュリアン・アサンジが性的暴行の容疑で国際指名手配されていたと伝えているが、アサンジが女性を強姦したという容疑はスウェーデン警察による捏造だ。アサンジに強姦された被害者だと一般には見なされているアサンジと性交した2人の女性は、実際には彼にエイズ検査をするよう求めていただけだった。2人はアサンジに強制的にエイズ検査を受けさせることが可能かどうか相談するためにスウェーデン警察を訪れたが、「応対した婦人警官が検察官に報告。直ちに婦女暴行と虐待罪の容疑で告訴手続きが取られた」(産経11/1/2 電子版)。女性の1人は「嫌疑をでっち上げたのは警察だった」と述べ、2人とも強姦されたことを否定している(John Pilger、GETTING JULIAN ASSANGE: THE UNTOLD STORY 17/5/20、宮前ゆかり・荒井雅子訳 TUP・平和を目指す翻訳者たち 17/7/15)。
アサンジは強姦容疑から逃げていたわけではない。迫害を受ける恐れのある合衆国に送還しないという保証をスウェーデン当局に求めたが却下されたアサンジは、英国・ロンドンでインターネット電話または面接による尋問に応じる用意があるとスウェーデン当局に繰り返し表明してきたが、スウェーデン当局は拒否し続けた。こうしたことから、「強姦に反対する女性たち」のカトリン・アクセルソン氏とリサ・ロングスタッフ氏は、スウェーデン当局が「自らの捜査に不可欠」な「ステップを拒否している」と指摘して、
「(アサンジ)にかけられた容疑は煙幕であり、その陰に隠れて多くの政府がウィキリークスを弾圧しようとしているのは、強姦と殺人と破壊を伴う戦争と占領の密かな計画をウィキリークスが大胆にも一般市民に知らせたためだ……。捜査当局は女性に対する暴力にほとんど関心がなく、強姦容疑をやりたい放題に操っている」(John Pilger 同)
と分析している。 真相を明らかにせずにアサンジが性犯罪の容疑者だと伝えるマスメディアは、ウィキリークスを弾圧する「多くの政府」に協力していることになる。
また、マスメディアがウィキリークスの説明としてウィキリークスがリークした機密情報を紹介する際に、今回の逮捕が報道の自由に対する弾圧であることを裏付ける決定的に重要な情報を省略して伝えていることも問題だ。 マスメディアが紹介しているのは、たいていの場合、「イラク戦争」と「アフガニスタン戦争」に関する合衆国政府の機密情報のリークか、2016年の大統領選で民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントンらのメールをリークしたことだ。「イラク戦争」と「アフガニスタン戦争」に関するリークでは、米軍がジャーナリストや市民を殺害する場面の映像など、合衆国政府の戦争犯罪の証拠となる大量の機密情報が暴露された。またクリントンらのメールのリークでは、民主党の大統領候補指名争いで民主党が組織的にクリントンの競争相手のバーニー・サンダースを妨害していたことや、クリントンが国務長官時代にサウジアラビアとカタールがイスラム過激派組織「イスラム国」を支援していると知っていながら両政府から莫大な寄付を受け取っていたことなどが明らかになった。 ところが、「イラク戦争」と「アフガニスタン戦争」に関するリークについて伝えたメディアの中には、米軍による市民の虐殺には言及せずに、ウィキリークスは合衆国政府のコンピューターに不正にアクセスして「イラク戦争」などを巡る機密情報を暴露したという趣旨の説明だけで済ませているものが少なくない(朝日19/4/12、毎日19/4/12、他)。またクリントンの件については、クリントンの選挙妨害やクリントンとイスラム国との関係に言及しているメディアはほぼ皆無で、大統領選でクリントン陣営に不利な内容のメールを暴露したとだけ伝えたり(ニュースウォッチ9 19/4/11)、ロシアと協力して大統領選挙に干渉した──いわゆる「ロシア疑惑」 ──という趣旨で伝えたりしている(毎日19/4/12、朝日19/4/13、毎日19/4/22、他)。 リークされた情報のうち、市民が知るべき権力者の不正や犯罪に関する部分──それを市民に知らせることがリークの目的だ──を省略したのでは、今回の逮捕が報道の自由の侵害とは無関係であるかのような印象を与えるだけでなく、むしろウィキリークスが政府を混乱に陥れるためにリークしたかのような印象を与えてしまう。
またイラク市民の虐殺の映像について伝えているメディアも、それが合衆国政府による戦争犯罪であることへの言及がない(報道ステーション19/4/11、朝日19/4/13、日経19/4/13、毎日19/4/22)。合衆国政府と同じように、米軍に市民が殺されることは“付随的被害”とでも考えているのか、リークによって訴追されるべきはジャーナリストではなく、合衆国政府だということには思いが至らないようだ。 機密情報を違法に入手したことが問題だとか、機密情報のリークが安全保障上問題だと考えている人のために付言しておくと、合衆国が「対テロ戦争」と称して西アジアやアフリカでたくさんの市民を殺害していることは、米軍に侵略される側の人にとっては秘密でも何でもない。この場合の機密は米軍の犯罪を米国民や世界の市民から隠すことが目的であり、ウィキリークスは権力者の犯罪を明るみにするというジャーナリズムの役割を果たした。
いったいマスメディアは報道の自由が脅かされていることについて、どう考えているのだろう。マスメディアのジュリアン・アサンジ逮捕のニュースの中で、報道の自由に対する危惧の声はアサンジの弁護士や人権団体などの声としてしか表明されない。 マスメディアの役割は政府や捜査当局の発表をそのまま伝えることだから報道の自由に対する危機感を感じないということなのだろうか。あるいは弾圧を恐れて、もう怖気づいているのだろうか。
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