山本太郎参院議員が立ち上げた新党「れいわ新選組」が静かなブームになっている。その演説は最低賃金の大幅増加や、消費税ゼロなど刺激に富んでいる。筆者も興味深くその演説をyoutubeで見てきたのだが、しかし、核になっている経済政策に今一つ不安を感じるのだ。反緊縮という考え方には共感できるものの、財政難から国家破綻したり、ハイパーインフレになったりすることはないと山本議員が考えているとしたら、甘いのではないかな、という不安なのである。
このことは山本議員が三橋貴明氏の国家財政に関する話を聞く映像がyoutubeにUPされていて、そこで三橋氏が言っているのは日本は円建てで外国に借金しているから、困ればいくらでも円を刷ればいいんだ、国家破綻など起こりえない・・・的な話である。ギリシアが国家破綻したのは通貨がユーロであり、自国の独自通貨でなかったために自由に紙幣を刷りませなかった事情があり、それと紙幣をいくらでも刷れる日本では事情が異なる、と言うわけである。
しかし、そんな簡単なものだろうか。ハイパーインフレになった国にジンバブエがある。ジンバブエがハイパーインフレに見舞われた理由は産業が不調で税収が乏しくなり、2000年代初頭から、公務員への給料を自国通貨「ジンバブエ・ドル」を増刷して支払うしかなかったことである。2015年にはハイパーインフレ対策としてついにジンバブエ・ドルを廃止することになった。で、どうなったかと言えば米ドルを使用することになったのだ。以下は日刊ベリタに寄稿した2015年当時の拙稿の抜粋である。
「ジンバブエでも2008年ごろにハイパーインフレが起き、通貨は紙くず同然となった。欧米からの経済封鎖のもと、国内経済の低迷に政府が財政難から紙幣を大幅に刷って公務員への支払いに充てたことがきっかけだった。100兆ジンバブエ・ドルまで作られるという途方もないハイパーインフレとなって、2009年ついに自国通貨の使用を諦め、米ドルを使用することにした(一部は南アのランドを使用)。 米ドルを使用することで、通貨は米ドルと同じ価値を持つことになり、ジンバブエのハイパーインフレも鎮静化した。しかし、自国の通貨発行を諦めたため、金融政策などを諦めることも余儀なくされた。米政府あるいは米財務省の金融政策に異国の人々の経済も影響を受けることになるのだ。」
ジンバブエのケースでは通貨を増やして給料を支払った結果、ジンバブエ・ドルが大量に出回り、結局、為替レートが暴落して外国からの輸入商品が買えなくなってしまったことである。このハイパーインフレに陥った大きな原因は農業の衰退であり、それは当時のムガベ大統領が白人の土地接収を行ったために急激に農業生産力がダメージを受けたことである。(かつて宗主国だった英国やアメリカとも関係が悪化した)そして、さらに通貨の価値下落に伴い、農業機械の部品が輸入できなくなったためにトラクターなど農機具が故障するともう使用不能になってしまってますます生産力が打撃を受けるという悪循環に落ち込んでしまったのである。
ハイパーインフレと言えるかどうかは別として、自国通貨を持つアルゼンチンやイラン、ベネズエラ、エジプト、タイ、韓国、ロシアなどでも為替が下落する政情不安を経験してきた。トルコも激しいインフレが起きている。日本大百科事典によるとハイパーインフレーションの定義は「インフレ率が毎月50%を超えること」あるいは国際会計基準の定めでは「3年間で累積100%以上の物価上昇」だが、それ以前の段階であっても激しいインフレは経済を破壊してしまう。そして、そのような混乱の中では日本の独立が奪われ、外国政府やIMFなどの統制下に置かれてしまうリスクがある。
日本のケースを想像すると、最低賃金1500円のための国家による中小企業支援とか、奨学金徳政令とか、それ自体はとてもよいアイデアだと思うのだが、その財源は円を必要なだけ刷りまくればOKと山本太郎氏が考えているとしたら、かなり危ないと筆者は思う。今の日本を見れば食料品の半数以上は海外からの輸入であるし、パソコンでも携帯電話でも電気機器の多くも輸入である。過去30年間かけて日本は生産拠点を海外に移してきたのである。だから、円の通貨価値が下がったからすぐに生産拠点を日本に呼び戻せばいい、という風に簡単にはいくまい。政治家はそのタイムラグの重要性を理解する人でなければやってはならないと思う。 そうすると、対ドルにせよ、対ユーロにせよ、対元にせよ、円の為替の下落の伴い、食料品も、原料も、燃料も、家電製品もどんどん値段が上がっていくことになる。円の為替レートが下落すれば輸出に便利と考える人もいるだろうが、一方で、パソコンやスマートフォンや燃料、食品などが一斉に値上がりすれば日本企業の競争力を削ぐことにもなる。さらに経済は輸出産業だけでなりたっているわけではない。
実はアベノミクスで円の通貨価値は下がったが、大衆は実質賃金が上がらなかったために物価の高さが日に日に生活を直撃しているのだ。それを考えると、財源の心配は何も財務省に洗脳された人間だから、というわけではない。
山本太郎議員が政治に新風を起こす気概は素晴らしい。しかし、日本国民を飢餓に追い込むリスクのある政策はまずいと思う。おそらくそのソフトランディングのためには政策の進行のタイミングとか何年かけてどうすると言った時間軸の説明が必要だ。一夜明けるとみんな幸せ、というような幻想を振りまいただけでは政治不信を増す結果になりかねないと思う。
※米ドルを使用する日
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201504151741293
※トルコ、インフレ20%台続く
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40888240U9A200C1EAF000/
※イラン、制裁でインフレ30%超 輸出滞り外貨得られず
https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0701B_X00C13A4FF2000/
※2019年のインフレ率予想を上方修正、再び30%台に
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/03/4d4447c4abc3b8a4.html
※ソ連崩壊後のロシアのハイパーインフレ
http://www.sjsu.edu/faculty/watkins/russianinfl.htm ”The hyperinflation in Russia in the 1990's followed the standard senario. The money supply was increased excessively leading to inflation. The velocity of money increased adding to the impact of the increased money supply on prices. The vicious circle continued until Viktor Gerashchenko was replaced as head of the Central Bank. The blame for the social devastation which resulted from the hyperinflation such as the impoverishment of the pensioners and the destruction of the value of lifetime savings lies with the monetary policies of Viktor Gerashchenko. When Gerashchenko was replaced by Tatyana Paramonova the hyperinflation quickly disappeared although significant inflation continued.”
※日本のインフレーション(wiki)
「日本国政府は、1945年(昭和20年)12月に預金封鎖と新円切替など立法化し(翌2月に緊急措置)通貨の流通量を強引に減らして物価安定に努めたが、傾斜生産方式による復興政策が始まると、復興金融金庫から鉄鋼産業と石炭産業に大量の資金が融資された結果、復興インフレが発生した。インフレーションを抑えるために融資を絞ると生産力が鈍るために、融資を絞ったり拡大したりする不安定な経済状態が続いた。結果的に、1945年10月から1949年4月までの3年6か月の間に消費者物価指数は約100倍となった(公定価格ベース、闇価格は戦中既に高騰していたため戦後の上昇率はこれより低い)。敗戦後のインフレは年率59%であった。1947年のインフレ率は125%となった。このインフレの原因は、戦前から戦中にかけての戦時国債、終戦後の軍人への退職金支払いなどの費用を賄うために政府が発行した国債の日本銀行の直接引き受けとされている。第二次世界大戦中に発行した戦時国債は、デフォルトはしなかったが、その後戦前比3倍の戦時インフレ(4年間で東京の小売物価は終戦時の80倍)によってほとんど紙屑となった。」
村上良太
■グローバル時代の「ルイスの転換点」 〜アベノミクスの弱点〜 村上良太
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306070012005
■エジプトの政変をひきおこした経済事情〜米経済学者の分析では〜エジプト・ポンドの下落
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201307090942182
■チャベスの死から1年 インフレ率が高まるベネズエラ 商店の棚は?? マドゥーロ大統領のカリスマと能力の欠如を報じるドイツ誌
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201403060114204
■ロシア通貨危機と対処法 スティーブ・ハンケ教授(ジョンズ・ホプキンス大)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201412210030070
■ウクライナの経済危機 〜「マネードクター」のS.ハンケ教授は Currency Board 制を即導入せよと示唆〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201402280615515
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