昨今何かと高齢化社会に関わる記事が多くなった。将来、年金が少なくなっていくから2000万円貯金しとけ、と言うような政治家の話とか、高齢のドライバーの交通事故とか、70歳まで働ける仕組みを作るとか、そんな話題だ。全般的に暗い未来像がそこにある。
そんな昨今、70歳の年金暮らしの男が「シニアのインターン募集」というチラシを目にして、ネット販売の企業(e-commerceと呼ばれることが多い)にインターンとして就職する映画を見た。「インターン」(The intern) というまさにベタなタイトルのこのハリウッド映画にはロバート・デ・ニーロが主演している。映画の冒頭、年金暮らしのデ・ニーロのモノローグがあり、妻もなくなり一人暮らしで外国旅行もエンジョイしたが、帰国するとむなしさを感じるようになった・・・みたいな声がある。ファーストカットでは朝、デ・ニーロが公園で太極拳を数人の参加者たちと行っている。もともと企業の重役だったのでお金に困っているわけではない。ただ、自分を持て余していて、社会との接点や生きがいが欲しいと思うのだ。急成長中のネット通販の会社がシニアをインターンに採用するのは社会的貢献事業の一環としてである。
脚本を書き、監督をしたのは女性の映画人、ナンシー・メイヤーズ (Nancy Meyers)で、社会派的な題材ながら正攻法のヒューマンコメディに見事に仕立てた。今は亡きノーラ・エフロン監督の後釜とも言えよう。70歳の男が直属するのがこの企業の創設者でCEOである、おそらく30代半ばの女性である。デニーロ扮するインターンはパソコンの操作には疎いために、若者たちの助けを必要とするが、一方で、リアル社会の人間関係に関しては若者たちから個人的に相談を持ちかけられ、いろんな知恵を授けることができ重宝がられる。自分から説教するのではなく、あくまで助けを求められた場合に助言を行う、というあたりが、嫌なオジサンと思われない一線だろうか。この映画は世代が大きく隔たっている人々が同じ会社の中で共生するには何が大切か、ということを探っている。その意味で今、求められている映画と言ってよいだろう。とくに、過去の企業社会とは逆転して、高齢者(年長者)が若者の部下になる状況が描かれているのだ。このようなことは今後、日本でもますます増えていくはずだ。そうした場合に年長者も若者もどのように関わり、コミュニケーションを取りうるのか。そうした新しい状況を描いている点が興味深いのだ。
メイヤーズ監督はデ・ニーロが配属されるこの会社のCEO(アン・ハサウェイが演じている)を少し癖のある、不安の強いキャラクターに設定した。30代半ば、ビジネスも急拡大してきたが、その結果、専業主婦の夫が浮気を始めたり、外部からCEOを招いて自身は開発に専念したらどうかと進言されるなどといった節目に差し掛かり、不安に囚われているのだ。その意味でデ・ニーロと彼女の葛藤と友情の芽生えは古典的なドラマツルギーを踏襲している。女性監督ゆえにできる、女性の弱さや本音にも切り込んでいる。
フランス映画では「赤ちゃんに乾杯!」みたいな子育ての大切さを描いた映画があり、これも女性監督のコリーヌ・セローだったが、女性の映画監督には男性の監督とは異なる生活者としての視点がある。そこが今の時代、とても大切だ。活躍している女性の映画監督には企業社会を、売り上げとか株価のような数字的な価値だけでなく、結婚や恋愛、家族生活など、生活の全般から総合的に見ることができる人が少なくないように思える。
今、日本にある働くシニアの像はぱっとしない。ファストフード店とか、コンビニなどで肉体的にも重い労働を低い賃金で行うようなイメージが先行しているという気がする。貯金がない高齢者は働け、と言わんばかりの政治家のメッセージがあふれているが、こんな安くてきついシニア労働者のイメージであれば、将来の高齢化社会は地獄に思える。「インターン」では、年金生活者を貧乏な高齢者に設定しなかったところが、この映画を見やすいもののしている。この映画のデニーロのような、若者からも愛される知恵のある格好いいオジサンになるのは難しい。そんな風格のある大人はほとんどいなくなってしまった。それでも、この映画は今、社会が考えなくてはならないテーマに切り込んでいる。
※「インターン」のtrailer(日本では「マイ・インターン」という題になっている)
https://www.youtube.com/watch?v=ZU3Xban0Y6A
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