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2019年07月25日14時08分掲載
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社会
吉本興業「闇営業」問題とコンプライアンス 問題は企業の「ブラック」体質 根本行雄
6月24日、吉本興業は、人気お笑い芸人が事務所を通さずに反社会勢力の忘年会に出席する「闇営業」をしていた問題で、雨上がり決死隊の宮迫博之さんら所属芸人11人を同日付で当面の間活動を停止し謹慎処分とすると発表した。写真週刊誌の報道で問題が明らかになった今月上旬、吉本興業は11人を厳重注意処分としていたが、否定していた金銭の授受が確認できたため、謹慎処分に切り替えた。 吉本興業は「コンプライアンス順守や意識の向上を徹底してきたが、今回の結果は重大な問題と考える」とコメントを出した。7月20日、吉本興業からマネジメント契約を解消されたお笑いコンビ「雨上がり決死隊」の宮迫博之さんと、謹慎処分を受けているお笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村亮さんが記者会見を行った。そこから見えてきたのは、「コンプライアンス」を振り回す吉本興業という会社の「パワハラ」体質である。
吉本興業の「闇営業」問題はわかりにくい。いろいろなことがごちゃまぜになっている。
問題 その1 所属事務所を通さずに営業活動をした。「闇営業」は悪い。
問題 その2 反社会的勢力の忘年会に出席し、営業活動を行った。反社会的勢力との交際することは悪い。
問題 その3 金銭の授受がありながら、なかったと嘘を言った。嘘を言うことは悪い。
□ コンプライアンスとは
今回の「闇営業」問題で、吉本興業は6月27日、「タレント、社員一丸となってコンプライアンス順守の再徹底を図る」と表明した。
近年、よく使われる「コンプライアンス」という言葉にはどういう意味があるのだろうか。この言葉は、「ビジネス用語」として使われているものだ。語源は、英語の “Compliance” である。日本では、「コンプライアンス」は「法令遵守」と訳されているが、より具体的には、企業が法律や理念に基づいた企業倫理を遵守することを意味していると言えよう。だから、「コンプライアンス」とは「企業倫理」のことである。
問題 その2 反社会的勢力の忘年会に出席し、営業活動を行った。反社会的勢力との交際することは悪い。
問題 その3 金銭の授受がありながら、なかったと嘘を言った。嘘を言うことは悪い。
今回の「闇営業」問題では、問題その2も、問題その3も、個人の倫理の問題であって、企業倫理の問題ではない。吉本興業という会社が、反社会的勢力の会合に芸人を出席させるという営業活動を行ったわけではない。だから、「コンプライアンス」の問題ではない。そうでないのにもかかわらず、芸人個人の営業活動の問題に「コンプライアンス」という正義の剣を振り回すのは、奇妙なことだ。
□ 吉本興業 は全芸人6000人と確認書を交わす
毎日新聞(2019年7月14日)は、次のように伝えている。
吉本興業ホールディングスの大崎洋会長(65)が毎日新聞の取材に応じた。大崎会長は、「残念無念。反省してもう一度顔を上げるしかないと思っている」として、反社との関係断絶などを求める「共同確認書」を7月中に全芸人(約6000人)と交わすことを明らかにした。一方で、ほとんどの芸人との契約が口頭である点については、変える必要がないと強調した。
ほとんどの芸人との契約が、紙の契約書ではなく、口頭による当事者の合意のみで効力が生じる「諾成契約」である点については、「100年以上の歴史の中で、契約書を超えた信頼関係、所属意識があって、吉本らしさがある」として、紙の契約に変えることは考えていないとした。「所属芸人に最低限の生活保障をすべきだ」との意見についても、「つらい仕事もいっぱいあると思うが、それを乗り越えて、自分のスタイルを目指すのが、正しい芸の道だと思う」と反論した。
吉本興業 と芸人との契約関係は口頭で行われている。口頭で行われているということは、法律的には正式な「契約」とは言えないものである。このような関係ならば、所属事務所を通さずに営業活動をしたとしても問題はないはずだ。契約は対等で公正なものでなければならないし、その中に「専属契約」などが盛り込まれていなければ「闇営業」とは言えない。営業所得を税務署に申告しないのであれば脱税という犯罪になるが、芸人が事務所を通さずに直接営業活動をすること自体は違法ではない。
□ なぜ、芸人たちは「闇営業」をするのか
この「闇営業」問題の背景には、芸人たちの収入が低すぎることがあると推定できる。 この問題の根幹には、経済的に不安定な待遇が隠れている。吉本興業には約6千人の芸人が所属しているそうだが、メディアや劇場出演などの会社を通じた仕事だけで食べていけるのは一握りであり、多くは個人営業やアルバイトなどをして生計を立てているそうだ。生活が苦しいから「闇営業」をせざるをえない。アルバイトで生計を成り立たせなければならない。そういう業界体質が当たり前とされているから、吉本興業 と芸人との契約関係は口頭で行われているのだろう。会社と社員という雇用関係ではないし、会社と個人事業者との契約関係でもない。だから、「闇営業」は常態化しているのだ。今回は、振り込め詐欺グループの会合で営業活動をしたので、問題が大きくなったのである。
□ 吉本興業の「パワハラ」体質
毎日新聞(2019年7月20日)の記事によれば、7月20日の、宮迫博之さんと、田村亮さんの記者会見によって明らかにされた、岡本(昭彦)吉本興業社長の発言は次のとおりである。
「会見開いたほうがいいのではないか」と申し出たが…
それで、8日からずっと(吉本から)静観で行きましょうと言われました。それに僕たちも納得してしまいました。でも、その後1日、2日たっていくうちに、世の中でさらに大きな問題になっていきました。詐欺被害者から奪い取られた金をもらったとの報道があり、情けなく、申し訳なく、自分の事が許せなくなり、何度か吉本社員に「大丈夫か、会見を開いて言ったほうがいいのではないか」と言いました。でも、「いえ、会社としては静観です」と。そして24日、急きょ会社に全員が呼ばれました。その時に、「全員謹慎です」と告げられました。もちろん、僕自身は謹慎は当然だと思いました。でも、僕と後輩たちは違いますと。そこで、亮君が「会見を開き、自分たちの口で言わせてくれ」と言ったのですが、会社はだめだと。亮君は辞めてでも、「僕一人でも会見をさせてくれ」と声を上げてくれました。
「全員連帯責任でクビにするからな」
その時、岡本(昭彦)社長と僕たち5人だけになりました。まず、岡本社長は「お前らテープ回してないやろな」と言われました。そして、「亮やめて、1人で会見してもええけど、ほんだら全員連帯責任でクビにするからな。それでもいいなら記者会見やからな。俺には、お前ら全員をクビにする力があるんやからな」と言いました。
この岡本社長の発言は、明々白々な「パワハラ」である。吉本興業という会社は「コンプライアンス」という言葉を振り回しているが、やっていることの実態は「パワハラ」である。
上西充子さんの『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)を参考にすれば、ブラック企業の社長が「嫌なら辞めれば?」と言われる場面を想像にするとわかりやすいだろう。この発言は、言われた社員を「文句を言わず我慢して働き続ける」か、「辞める」かの二者択一に追い込むものである。不当な働き方を強いられているという問題の本質や、働きながら待遇改善を求める選択肢は隠蔽され、無視されてしまうのだ。力を持つ者が、「呪いの言葉」によって相手の思考の枠組みを縛り、黙らせようとするものである。
「コンプライアンス」という言葉が意義をもつのは、公正で対等な関係が成り立っているときだ。それがなければ、個人の倫理も、企業の倫理も、その基礎を失ってしまうのだ。吉本興業のような「ブラック」体質をもつ企業が体質改善をしていくことこそが真の意味での「コンプライアンス」なのだ。
私たちは「ブラック」企業をなくしていかなければならないが、企業の「ブラック」体質もなくしていかなければならない。私たちが求めているのは、個人と個人、個人と団体、団体と団体において、公正で対等な関係でなりたっている社会だからである。
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