2016年の米大統領選は米民主党にとって転機となった。大統領候補擁立でヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースが争ったが、それはまさに今の民主党内の水面下の確執を予言するものだった。ヒラリー・クリントンは夫のビル・クリントンとともに米民主党にあっては労働組合離れを促し、金融界を始め大企業から多額の献金を受けていた。バーニー・サンダースを応援した左派の民主党員にとって、クリントン夫妻は民主党の新自由化を象徴する存在だった。
トランプ大統領が誕生して後、今、来年の大統領選に向けて民主党では候補者擁立の動きが始まっているが、同時に行われる下院議員の候補者争いのレースも始まっている。そして、今、起きているのが現職で保守派あるいは共和党に近い民主党議員に対して、左派のグループが対抗馬を擁立していることだ。このグループはJustice Democratsと名乗っているが、去年の下院議員選挙(2年ごとに全員改選される)でも左派の候補を擁立して複数当選させている。アレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員(29)もJustice Democratsが擁立した新人だったが、ニューヨークの選挙区からベテランの民主党下院議員ジョー・クロウリーを破って民主党候補の座を獲得し、その後本選挙でも勝ち抜き、女性としてはアメリカで最年少の下院議員となった。
この2018年11月の下院議員選挙でJustice Democratsが支えた候補で当選したのは以下の7人である。 Raul Grijalva, Ro Khanna, Ayanna Pressley, Rashida Tlaib, Ilhan Omar, Alexandria Ocasio-Cortez, Pramila Jayapal.この民主党左派のグループ、Justice DemocratsはPAC(政治行動委員会)と呼ばれる企業献金を受け取らない方針を取っているそうだ。企業は直接政治家に献金できないが政治行動委員会という組織を立ち上げて、企業の従業員や幹部個人からの献金を集めて(原則1人5000ドルが上限)、PACを通して献金することは認められている。しかし、実質的に企業献金を受け取ると政策が企業寄りになってしまう、ということでJustice DemocratsはPACではなく、多くの人からの個人の献金を受け付けているようだ。
アメリカのPOLITICO誌に興味深い記事が出ていた。来年の下院議員選挙に向けてすでにオカシオ・コルテス議員がイリノイ州の民主党候補者選びで、現職の保守系民主党議員に対抗してリベラル派の民主党候補マリー・ニューマンを応援し始めたと言う記事である。このような動きは今後、各地で広がっていくだろう。 ”Ocasio-Cortez backs liberal challenger to one of the most conservative House Democrats”(POLITICO) 「オカシオ・コルテスが民主党下院議員の中で最も保守派議員にリベラル派の対抗馬を擁立」
https://www.politico.com/story/2019/09/17/ocasio-cortez-house-primary-challengers-1499741?fbclid=IwAR28iORnC0_coirpkjqjRIK6aJlmH0fA1GqIfiIn8skCAtzcu6KK7bUxyqQ そして、もう一つ、先述のJustice Democratsが献金についてどう考えているかについてレポートしているのがThe Atlanticの記事だ。 ”Why So Many Democratic Candidates Are Dissing Corporate PACs”(なぜそんなに多くの民主党候補者たちはPACの企業献金を侮蔑するのか)
https://www.theatlantic.com/politics/archive/2018/08/why-so-many-democratic-candidates-are-ditching-corporate-pacs/568267/ 言うまでもなく、企業献金(そして富裕層によるスーパーPACと呼ばれる上限なきもう一つの資金)こそはアメリカの選挙を歪めている原因である。オカシオ・コルテス議員らが2020年、どこまで闘えるかは現代の分水嶺となるだろう。
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