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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2019年09月28日21時58分掲載
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人権/反差別/司法
東電旧経営陣3人に無罪判決 裁判官の無知 根本行雄
9月19日、東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣の勝俣恒久元会長(79)、武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69)の3被告に対し、東京地裁(永渕健一裁判長)は、いずれも無罪の判決を言い渡した。この判決は、容易に予想できたものであるが、国の原子力行政に迎合する、原発の恐ろしさを直視しないものである。まだまだ反原発の戦いは続く。
反原発の主張は、とっても単純明快だ。くりかえしになるが、何度でも、言っておこう。
原発を動かせば、必ず、大量の、放射線を発する物質である「放射能」のゴミができる。放射能は、私たち人間だけでなく、すべての生き物の生命を脅かすものである。この放射能のことを、ウランを燃やしたあとに残る恐るべき物質という意味で、一般には「死の灰」と呼ばれている。しかも、放射能のなかには何十万年も危険性がなくならないものがある。(ちなみに、「プルトニウム239」の半減期は、2万4100年と言われている。)だから、わたしたちは原発の生み出した放射能をほぼ永久に管理し、放射能が漏れ出さないようにしなければならない。しかし、放射能を安全に管理する方法について、現在のわたしたちは知らない。そして、未来の人々が放射能を安全に管理する知識を得て、安全に管理する方法や技術を発見できるかどうかはわからない。ネモトはそれは不可能だと考えている。
原発は、施設そのものも、時期が来れば放射能のゴミになる。原子炉はもちろん、熱湯・蒸気などが通る管、蒸気発生器、原子炉格納容器など、すべてが放射能で汚染されている。現在動いている原発は、当初は、施設の寿命は20年から30年だと言われていた。しかし、その後、少しずつ延長されて、現在は40年とか50年と言われている。そして、さらに老朽化した原発を再延長している。
原子力発電をするということは、大量の放射能のゴミを生み出すばかりではなく、それを「負の遺産」として、何百世代も先の子どもたちに残していくということである。だから、わたしたちは、核の恐怖のない、原子力に頼らない社会へ、できるだけ早く移行する必要がある。そのためには、放射能のゴミを安全に管理する方法を見つけ出し、エコ・エネルギーを利用する発電やエネルギーのつくり方、使い方を具体化していく必要がある。自然エネルギーを利用する太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、波力発電、地熱発電、などなど。自然エネルギーを利用する方法をさらに活発にしていく必要がある。
放射能の恐ろしさと、それを安全に管理できないことを知っているからこそ、私たちは原子力発電は廃止すべきだと主張している。しかし、すでに、原子力発電が行われているので、できるかぎり、安全に、事故が起こないようにしっかりと管理すべきだと主張している。しかし、東京電力をはじめとする電力会社は政府を後ろ盾にして、原発は安全だとデマ宣伝をし、さまざま安全管理のための規制に反対し、原発の安全神話を普及してきた。その結果が福島原発の事故である。津波を過小評価し、安全対策をなおざりにしたからこそ起こった事故である。それに対する責任を会社としても経営者個人としても果たそうとしていない。それが被災者の救済の不十分さに表れている。
原発事故の責任は、政府と東京電力などが取るべきものである。
刑事裁判は民事裁判とは違う。刑事裁判は、基本的には、組織の責任を問うものではなく、個人の責任を問うものである。だから、この判決内容は容易に予想できたものである。しかし、この判決の背景にあるのは、国の原子力行政に迎合する、原発の恐ろしさを直視しない裁判官の姿である。
◆無罪判決の理由 その1 巨大津波は予想できたか
永渕健一裁判長は、原発事故を引き起こすような巨大津波を予測できたかについて「津波が来る可能性を指摘する意見があることは認識していて、予測できる可能性が全くなかったとは言いがたい。しかし、原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない」と指摘した。
◆無罪判決の理由 その2 刑事責任は問えるか
永渕健一裁判長は、「原発事故の結果は重大で取り返しがつかないことは言うまでもなく、何よりも安全性を最優先し、事故発生の可能性がゼロか限りなくゼロに近くなるように必要な措置を直ちに取ることも社会の選択肢として考えられないわけではない。しかし、当時の法令上の規制や国の審査は、絶対的な安全性の確保までを前提としておらず、3人が東京電力の取締役という責任を伴う立場にあったからといって刑事責任を負うことにはならない」と判断した。
◆無罪判決の問題点 その1 原発事故に対する認識の低さ
判決後の会見で、石田省三郎弁護士は「国の原子力行政をそんたくした判決だといわざるをえない。原子力発電所というもし事故が起きれば取り返しがつかない施設を管理・運営している会社の最高経営者層の義務とはこの程度でいいのか。原発には絶対的な安全性までは求められていないという今回の裁判所の判断はありえないと思う」と述べた。
◆無罪判決の問題点 その2 裁判官が科学者になる
検察官役の指定弁護士によれば、東京電力は2008年3月、政府の地震調査研究推進本部が公表した地震予測(長期評価)を基に「最大15.7メートルの津波が原発に襲来する可能性がある」との試算を子会社から受け取っていた。
永渕健一裁判長は、判決の中で、平成14年に国の地震調査研究推進本部が公表した巨大地震の予測=長期評価は信頼性に疑いが残ると指摘した。裁判官があたかも科学者となり、判断をするときは「ためにする」ことが多い。科学的な判断を、判決内容に都合のよいように利用するのである。それは多くのえん罪事件において裁判官がしばしば行っていることである。
永渕健一裁判長は、放射能の恐ろしさと、それを安全に管理できないことを十分に理解していない。それゆえに、現状の、原理力発電を推進している政府のエネルギー政策を容認している。だからこそ、刑事責任を問うことはできないという判決を書くことができる。そのためには、科学者が提出した巨大地震についての見解も軽視することができるようになるだ。そういう点では、国の原子力行政に「そんたく」した判決なのである。そして、この裁判が明らかにしたことは、東京電力という会社は、原子力発電という危険なものを扱うには、組織としても、個人としても、能力がない、無責任なものであるという実態である。
毎日新聞(2019年9月20日)は、次のように、「組織罰を実現する会」のコメントを紹介している。
東京電力旧経営陣3人の無罪判決を受け、JR福知山線脱線事故(2005年)や中央自動車道笹子トンネル事故(12年)の遺族らでつくる「組織罰を実現する会」は「役員たちの弁解をそのまま是認する極めて不条理な判決だ」と批判するコメントを出した。「重大事故の責任が追及されないまま放置されると、新たな重大事故発生の誘因になる」とも指摘し、企業や法人に刑事罰を科す「組織罰」の必要性を訴えた。
この会の「重大事故の責任が追及されないまま放置されると、新たな重大事故発生の誘因になる」という主張に賛成である。いまだに原子力発電を推進している政府と、老朽化した原発を稼働し続けている電力会社は、福島原発の事故を教訓とすることができない、どちらも、きわめて危険な「組織」である。
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