僕が発育不全による奇形の一種であるマイクロペニスの持ち主であることを書いた「ドキュメンタリーとマイクロペニス」をよんでくださった同業者の知人が「脱帽しました。なかなか書けないことです」と電話で言ってくださった。こういうことを書けるようになった理由は、前に書いたことだけれど、英国のドキュメンタリー作家がこのテーマを映像作品にしていた、ということである。ペニスのサイズで男性には悩んだ人が少なくないのではなかろうか。僕のような奇形の領域でなくとも、通常より1割、2割サイズが小型だったり、短かったり、というだけでくよくよしたことはないだろうか。あるいは、実際には標準のサイズだったとしても、上から自分のペニスを見下ろすと小さく見える、という心理的なことも関係しているかもしれない。
だが、最も大きな問題はペニスのサイズの標準が何センチで勃起したら何センチなのか、あるいは標準にどんな意味があるのか、と言った知識が欠けていることだ。そういう教育を少なくとも受けたことはなくて、興味本位の雑誌の記事ばかりである。僕のサイズが通常2センチ5ミリで勃起時に5〜6センチだとすると、その一方で世界には常時24センチで勃起すると34センチの人も存在するそうだ。一説ではこのニューヨーク在住の男は世界2位で、もっと大きなペニスの所有者が存在するのだという。人間の身長ではいくら日本人が小型だと言ってもアメリカ人の半分というわけではない。しかし、ペニスに至っては勃起時の長さで7〜8倍の開きがある、ということなのだ。いずれもペニスの偏差値で下と上の層の人物であり、中央に多くの人の標準的なサイズの山があるのである。成績にたとえれば僕のペニス偏差値は世界で見ても最低辺の一角にあるらしいのである。長い間、このような形態の不全が何に起因するかわからなかった。もし胎児の頃のホルモンの関係の異常なら、一代限りかもしれない。だがもし遺伝子の問題であるなら、同じ問題を再生産してしまうかもしれない、と長い間漠然と思ってきた。
英国がドキュメンタリーとしてきちんと実写の計測や医師、家族、ガールフレンドなどとのやり取りを交えて映像にしていたことに僕は感銘を受けた。英国はドキュメンタリーの元祖として知られるが、リアリズムの精神がここにもある。「大きい」とか「小さい」といった主観的な言葉ではなく、メジャーを手にして計測して考える姿勢がある。そして、ドキュメンタリー作家もまた、その実証的精神を捨てていないのだ。
このサイズの問題は僕の職業人生にも当然ながら影を落とした。僕が日本のドキュメンタリー映像の世界に入った頃、仕事を教えてくださった方々は番組作りとセックス、あるいはナンパはよく似たことと考える文化の中にいた。30年近く前のことだから、今とずれていても仕方がない。当時はナンパで女性を口説くことができなければ番組もまた作れない、と教わったものだ。だから、身の回りの女性とはセックスをどんどんしなさい・・・みたいな言葉を毎日のように浴びせられていたものである。こうしたセックス至上主義的な文化は60年代の対抗文化の中に「性の解放」が組み込まれていたことと無縁ではなかったと思う。セックスによってのみ人間は解放される、という感覚がそこにはあったのだと思う。セックスによってのみ人は深く理解し合える、という感覚もあったと思う。だからこそ、セックスのできない人間には作品作りはできない、という感覚があったと思う。
中東など戦場の写真や映像で知られる某巨匠がセクハラで写真誌の編集長をやめさせられる、という一幕が最近あった。その編集長だった人物はアシスタントの女性に仕事のやり方を教える、と言ってホテルに呼び出し、無理やりベッドでセックスしたと報道されていた。僕はこの事件にはまったく関係がないけれど、僕自身の助手の頃を思い出しても、この世代の人々にはそういう発想があったとしても不思議ではないと思う。今60代から70代くらいの世代には「セックス=解放」あるいは「セックス=真実」という信念を持った人が一定人数いたのではないだろうか。だから、この巨匠がカメラの助手に指導する時にも、まずセックスを体験させよう、という発想がどこかにあったのではなかろうかと僕は想像するのだ。もちろん、真実がどうかはわからないのだが、そんな風に思えるのである。それが、たとえ自身の欲望の言い訳に過ぎなかったとしても、そういう自己欺瞞への道が開かれていたと思う。しかし、たとえ通じる何かがあったとしても、本質的には、番組作りはセックスではないし、真実はセックスではない、ということに彼らは気が付かなかったのではないかと思う。
村上良太
■BATTLE OF THE BULGE Bloke with world’s second largest penis Jonah Falcon accuses man with the biggest of CHEATING by ‘stretching his member’(The Sun)
https://www.thesun.co.uk/news/5187928/bloke-worlds-largest-penis-jonah-falcon-roberto-esquivel-cabrera-cheating/
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