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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2019年11月03日12時55分掲載
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「徴用工」問題:強制労働の被害者の人権に全く関心のないマスメディア Bark at Illusions
韓国大法院(最高裁判所)が「徴用工」と呼ばれる大日本帝国時代の強制労働の被害者への賠償を日本企業に命じてから1年が経った。皇室の行事で来日した韓国のイ・ナギョン首相と安倍晋三の会談が行われたこともあって、マスメディアは判決以来悪化している日韓関係について論じている。しかしその内容はというと、「事実を追求するジャーナリズム」と言うには程遠く、むしろ全体主義国家のプロパガンダと呼ぶべきものだ。
まず日本社会で誤解が多いと思われる日韓請求権協定(1965年)の要点を確認しておくと、同協定で「徴用工」問題は解決していない。国家間の条約で個人の請求権を消滅させることはできないからで、日本政府もこれまでそれを認めてきた。安倍政権も昨年11月14日の衆議院外務委員会で、当時外務大臣だった河野太郎が、日韓請求権協定で「個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」と答弁している。また同協定で日本政府が行った韓国側への3億ドル分の無償供与は、賠償ではなく経済協力であり、日本の生産物と日本人の役務という形で供与された。 従って「徴用工」問題は、未だに救済されていない強制労働の被害者をどのように救済するかという事であり、その責任は加害者である日本政府と日本企業にある。
マスメディアは「徴用工」問題を理解する上で決定的に重要なこうした基本的な事実を伝えることを怠り、「徴用工」問題は日韓請求権協定で「解決済み」だとか、韓国大法院の判決は「国際法違反」だという日本政府のでたらめな主張を正すことなく繰り返し伝えて、それが真実であるかのように装い、日韓関係改善のためには、
「韓国が元徴用工問題で新たな対応策を提示することが必要だろう」(毎日19/10/25)、
とか、
「韓国政府が、元徴用工の問題で対応策を取る。それが日韓関係を正常化する第一歩である」(読売19/10/25)、
「関係悪化はひとえに韓国側に責任がある。行動すべきは韓国だ」(産経19/10/27)
などと韓国政府に問題解決の責任を押し付けている。 またマスメディアの「徴用工」問題の関心は、もっぱら日韓関係の悪化が両国の民間交流や日本経済あるいは「安全保障」に与える影響で、帝国時代の強制労働者の被害者の救済のことなど全く念頭にない。とりわけ、原告側に差し押さえられている被告企業の資産売却という日本企業への「実害」を懸念しており、例えばニュースウォッチ9(19/10/30)はキャスターの有馬嘉男が次のように述べてニュースを終えている。
「最大の注目は、徴用を巡る裁判の動きですよね。原告側が被告の日本企業の資産を差し押さえてるわけですけど、これを現金化する動き、これ年内12月中にも着手するんじゃないかって見られていたんですよね。それが今日、原告側の発表で、来年2月以降になるという見通しが示されました。これどういうことかと言いますと、日本企業に本当に実害が及ぶと、日韓関係はもうどうしようもない状況になる、レッドラインを越えてしまうっていう認識が、韓国サイドにもあるっていう事ではないでしょうか。何とか事態打開の動きを見つけられるかどうか、注目したいと思います」
本題から少し外れるが、有馬嘉男のコメントには事実誤認が疑われる箇所がある。有馬は原告による日本企業の資産売却延期の理由は、日本企業への「実害」が「レッドライン」だということを韓国の原告側も認識しているからだと推察しているが、朝日新聞や日本経済新聞などによれば、原告は「外交当局経由で届ける仕組み」になっている資産売却手続きのための訴訟書類を被告の日本企業側に送ったが(朝日19/10/31)、書類を「日本外務省が返送してきたため、手続きに遅れが生じているという」(日経19/10/31)。有馬の思い込みも、被害者の救済が念頭にないことからきているのではないか。
例外としては、「徴用工」問題にかつて関わったという東京大学大学院の唐津恵一教授と歴史学者のチョン・ヘギョン氏へのインタビューを掲載した朝日新聞(19/10/31)が、被害者の救済に焦点を当てており、国家間の取り決めで個人の請求権が消滅しないことにも言及しているが、日本企業が原告と「和解する道を残しておくべき」だと主張する唐津恵一氏が、その理由としてそこで語っているのは、「訴訟の費用や敗訴の確率、将来の紛争への影響などを比べ、和解が経営判断として合理的と思える場合がある」からというものであり、強制労働という「事実を謙虚に受け止める姿勢」が「国際社会での企業イメージの向上にもつながる」とも考えられるからだ。チョン氏へのインタビューでは被害者救済のための措置として、日本政府ではなく韓国政府がとるべき行動だけが論じられている。
都合の悪い事実を無視して日本政府の嘘を無批判に繰り返し、日本政府の見解に合うように問題の焦点をずらしたり事実を歪曲したりしてニュースを伝える。こうしたマスメディアの姿勢は、韓国大法院の判決以来ずっと続いている(日刊ベリタ18/11/7、19/1/16、他 参照)。その結果、加害者を訴える被害者の正当な権利を「国際法違反」と退け、加害者側であるにもかかわらず被害者側の政府に問題解決の責任を押し付けるという日本政府の恥知らずな言動が、日本社会では正論として受け入れられている。
冒頭で述べた通り、日韓請求権協定で「徴用工」問題は解決していない。強制労働の被害者は未だに救済されずにいる。そうした事実を伝え、加害者側の日本政府や日本企業の責任を追及するのがジャーナリストの仕事ではないか。
「あらゆる報道で事実を追求するジャーナリズムの本分を守り、平和と 人権が尊重される社会を目指す」(日韓両国のメディア労働者共同宣言、19/9/28)
と宣言したメディア産業の労組の連合体、日本マスコミ文化情報労組会議らの決意は、何やったんや。
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