17日、明治大学文学部主催で「フランス革命とスペクタクル」と題するシンポジウムが行われた。近年、日本でも劇場政治などと言って、TV報道により見世物化した政治と劇場の関連性を語る言説にあふれているのが、このシンポジウムでは実際に人が殺し、殺され、政治が大きく変わっていったフランス大革命の時代に「同時代」として演じられた演劇とはどのようなものであったか、ということがテーマとして掲げられている。フランス革命自体がスペクタクルですらあったが、刻々と進行する革命は社会を変えつつあり、それは当然、戯曲をも、劇場をも、そして観客自体をも変えていった。
僕は演劇など表象文化論を大学で講じている知人から誘われてこのシンポジウムに出かけたのだが、とても刺激的だった。というのは、まさに社会と演劇がどう関係しているのかがここでは問われているからだ。登壇したのはパリのソルボンヌ大学からシンポジウムのために来日したピエール・フランツ教授とルノー・ブレット=ヴィトーズ教授、そして大阪大学で教鞭を執っているエリック・アヴォカ教授の3人である。皆、18世紀の演劇や文学に詳しい。当然、革命はそれらに深く関わっている。
フランス革命を経て、庶民がより広範に劇場に足を運ぶようになったこともあり、劇場の数自体が大幅に増えた。そして革命の頃には、「マラーの死」(1794年)のようにアクチュアルな舞台が複数の台本と演出で矢継ぎ早に舞台にのせられた。一番早いものでは革命家のマラーが自宅で刺殺されてからわずか15日後には舞台化されていたという。1792年8月10日のテュイルリー宮殿の襲撃と虐殺も舞台にのせられ、革命をより高揚させる効果があったそうだ。初演はわずか半年後だった。そうした舞台を目にした観客はどんなリアクションをしていたのか、今では想像することしかできない。ピエール・フランツ教授はこうした舞台には演劇が本来持っている「浄化作用」=カタルシスがあったのは確かだと言う。
だが、それらの演劇も19世紀になると忘却されていく。その一方で、革命期の演劇体験を証言の形で記録に残したり、のちにロマン・ロランのような作家がペンを執って書き残したりといった営みも行われた。これらは、来日したソルボンヌの教授たちが研究している資料でもあるだろう。革命以前なら「歴史劇」と言えば古代ローマやアテネを題材にしたような古典が中心だったろうが、フランス革命期では「歴史」と言っても同時代の出来事をできるだけ早くダイレクトな表現で舞台にかける、ということが行われた。このことを想像すれば、フランス革命は演劇ばかりでなく、文化そのものにも大きな変化を与えたことが推察できる。
ルノー・ブレット=ヴィトーズ教授は当時の劇作家ピゴー・ルブランによる「シャルルとカロリーヌ」という革命の翌年、1790年に上演された劇作品を紹介してくださった。これは執事というか下僕と言うか、その家の主の助っ人役が活躍して階級差のある若い男女の恋を実らせるハッピーエンドの物語。このドラマの中には当時の風俗や社会の変化が記されている。革命の前年1788年にボーマルシェが書いた貴族への風刺的作品である「フィガロの結婚」が舞台をスペインのセビリアに設定していたことを考えると、フランス革命によって劇作家たちはフランス国内のアクチュアルな物語をダイレクトに書きやすくなったことは確かのようだ。とはいえ、ブレット=ヴィトーズ教授によると、革命以前でもフランス国内の問題が舞台にかけられた例はあり、たとえばヴォルテールの作品もそうであり、18世紀には革命以前から、少しずつではあっても劇作家や演劇人たちは勇気をもって新しい時代を構想する劇を生み出し、リスクを取って上演し続けていたと言える。
こうした話を数時間の間、聴講できたのは幸いだった。フランス革命は今日、忘れられつつある。と同時に、フランス革命は何だったのか、その意味をもう一度今の時代につかもうという人々はフランスで新たな潮流として膨らんできているのである。今回のシンポジウムはその意味では今日の日本では非常に勇気のある、そしてアクチュアルで有意義なものだったと感じた。それは時代と演劇、時代と表象の関係性をもう一度考え直すきっかけを与えてくれるからである。通訳の方を含め、実現に向けて努力されたスタッフの方々にも感謝します。
村上良太
■国会パブリックビューイングを見に行く
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http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201803010043234 ■シンポジウム 「世界文学から見たフランス語圏カリブ海 〜 ネグリチュードから群島的思考へ 〜」
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