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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2019年12月10日14時12分掲載
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文化
[核を詠う](287)『平成三十年度福島県短歌選集』の原子力詠を読む(3)「過ちはまた繰り返しますフクシマのトリチウム汚染水海へ流して」 山崎芳彦
福島県歌人会の『平成30年度福島県短歌選集』から、筆者が原子力詠として読んだ作品を抄出・記録してきたが、今回が最後になる。毎年度の選集を読ませていただいてきているが、多くの福島歌人の作品が福島第一原発の事故によってどれほどの苦難を人びとが生きることにもたらしたかを短歌表現によって明らかにしていることへの、深い敬意を、筆者は持ち続けている。そして、その理不尽で許し難い加害「犯罪」原因集団である原子力マフィア、その中心である安倍政権と財界をはじめこの国の権力中枢とその仲間たちが、再び、三度、この国にとどまらず広く世界のどこかで核による「犯罪」を繰り返すことを許してはならないと教えられてもいる。
いま、核発電への回帰と新たな推進を目指す原子力マフィアの策動は、国内の原発再稼働、期限切れ原発の延命、原発立地地域の自治体や原発に関わる利益関係者などへのの利益誘導策、権力者集団のマフィアと呼ぶにふさわしいさまざまな動向のほんの一部が明らかになるが、核発電・兵器に関する真実や本質が隠蔽され、捻じ曲げられていることを、たとえば福島の現実、広島・長崎の「歴史」にしてはならない実態を、筆者は短歌作品に触発され、教えられることが多い。
福島歌人の作品を読みながら、筆者は2014年5月の関西電力大飯原発運転差止め請求訴訟第一審の樋口英明裁判長(当時)の判決要旨全文を読み返した。この運転差止め判決が行われた時の感動と、しかし判決に従わず控訴するであろう関西電力とその後押しをする安倍政権を背景に、控訴審では逆転判決が出るであろうことを思っていたことを、思い返しながらであった。樋口判決の明快で確信にみちた判決は、いま読んでも新鮮で感動的だった。判決要旨の一部を引用したい。
「ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には、その被害の大きさ、程度にに応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは、当然の社会的要請であるとともに、生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、全ての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。 個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制化においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為のさしとめを請求できることになる。(略)」(「はじめに」から)
「福島原発事故においては、15万人もの住民が避難生活を余儀なくされ、この避難の過程で少なくとも入院患者等60名がその命を失っている。家族の離散という状況や劣悪な避難生活の中でこの人数を遥かに超える人が命を縮めたことは想像に難くない。さらに原子力委員会委員長が福島第一原発から250キロメートル圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性を検討したのであって、チェルノブイリ事故の場合の住民の避難区域も同様の規模に及んでいる。」(「福島原発事故について」から)
「(略)原子力発電所の稼働は法的には(略)人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである。しかるところ、大きな自然災害や戦争以外で、この根源的な権利が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力発電所の事故のほかは想定し難い。かような危険を抽象的にでもはらむ経済活動はその存在自体が憲法上容認できないというのが極論にすぎるとしても、少なくともかような事態を招く具体的な危険性が万が一にでもあればその差止めが認められるのは当然である。」(「原子力発電所に求められるべき安全性」から)
「日本列島は太平洋プレート、オホーツクプレート、ユーラシアプレート及びフィリピンプレートの4つのプレートの境目に位置しており、全世界の地震の1割が狭い我が国の国土で発生する。この地震大国日本において、基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしか過ぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域を遥かに超える現実的で切迫した危険と評価できる。このような施設のあり方は原子力発電所が有する前記の本質的な危険性についてあまりにも楽観的といわざるを得ない。」(「冷却機能の維持について」の「小括」から)
「(略)コストの問題(電力供給の 筆者)に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。」(「被告のその余の主張について」から)
樋口英明氏は裁判官を定年退官した(2017年)のちも、原発問題にかかわって講演会をはじめ、執筆活動、新聞のインタビュー対応などで積極的な発信をしているが、昨年12月25日の北海道新聞の電子版によると、「国富とは何かを論じた部分が印象的です。あの文章に込めた思いを聞かせてください」との記者の質問に、「原発事故で故郷を負われた人の気持ちを少しでも代弁したいと思いました。私は10万人を超えるようなたくさんの人々をこの目で見たことがない。…福島では10万人以上の人が一斉に故郷を追われ、生活を失った、その重みを考えるべきです。」と語っている。
また、「今後原発はどうするべきだとかんがえますか。」の質問に「個人的な意見ですが、地震を予知できない以上、全ての原発をすぐに停止すべきだと考えています。」と述べている。 さらに別の質問にだが「脱原発を目指す人にとっては、3・11後も多くの裁判が原発を容認していることに無力感を覚えるかもしれません。でも、無力であることと非力であることは違う。一人一人の力は小さく、非力でも、多くの人が原発に関心を持ち『原発はやめるべきだ』と言い続ければ、司法も変わるはずです。」とも語っている。樋口氏の言葉だけに深く共感する。
今回が最後になるが平成30年度版の『福島県短歌選集』から、心に沁みる福島歌人の原子力詠を読む。本当に貴重な作品群だと思い、さらなるご健詠をお願いしたい。
この道を行けば未だに放射線高き数値の集落がある
「復興」を「福幸」の名に読み替えて道の駅建つ震禍七年 (2首 津田 智)
原発事故の風評被害じんだいと老舗の魚屋みせじまひせり (籐 やすこ)
除染土の山移すとう累々と積める怒りを運びゆくらし
ふくしまよセシウム深野向こうには累々と小さき明日がつらなる
被曝禍に負けてたまるか起き掛けのわれより一頭の奔馬跳ね出ず
福島に本当の森も呼び戻せ今朝学童の鼓笛隊行く
ふくしくやほんとの野道戻り来よ奥より土筆・園児ら連れて (5首 波汐國芳)
訪ねくる人もあらなく冬の日の炬燵にひとりみんかむきいつ
八月に閉店するとうコンビニの張り紙ゆれる暑き日の暮れ
震災に売り家となりし路地の家いまだ売れずに古りて静もる (3首 二瓶みや)
無人駅となりて久しき駅前に駐車の車列があるじ待ちをり
インターの工事現場の事務所建ち小学校の跡形もなし
廃校の跡の校庭すき間なく資材置かれて出入りの繁し
世を忘れ人を忘れてゆく病憂ふると子は我を見て言ふ (4首 野口きよ子)
今日も又原発に要人訪いたるや警護のヘリが睦月の空に
拡幅に家並は忽ちこわされてしだれ桜がわが家より見ゆ (2首 芳賀晃子)
遠つ祖(おや)相馬に移住し二百年 原発はぜて孫ら戻らず (原 芳広)
避難地に生きのびろよと飼い犬を放してすでに七年の過ぐ
一時帰宅すら許されぬわが家の玄関の鍵錆びつき初む
避難指示解除となれど戻らぬと飯舘の友は命を選びぬ
原発のメルトダウンも知らずして戻れると思う日のありき
原発のデブリの処理も出来ぬまま再稼働許すフクシマを見よ
全世界に核なき平和願いたり「地球を愛する人間われは」 (6首 半谷八重子)
「あきらめるな光が見える」核廃絶にサーローさんの演説熱し (平野明子)
政治家は学歴あれど学識の足りない大臣大嘘をつく (平野柳太郎)
廃校となりたる母校被災地の学校となり手入れされゐる
知る人ら逝きて田畑は荒れゆけど昔のままにふるさとはあり
今年こそと畑の放棄をきめたるに季節となれば馬鈴薯植うる (3首 古川 祺)
震災の年にいわきに嫁ぎしを娘は二ヶ月で避難となりぬ
避難地の新潟に見し大花火想ひて見上ぐ今宵の花火 (2首 古山信子)
セシウムの雨に犯されしこの七年みんみんかなかな鳴く声もなし
過ちはまた繰返しますフクシマのトリチウム汚染水海へ流して (2首 本田昌子)
七十年培ひし畑を放棄せり原発と寄る年波を言ひ訳として
近隣の田畑大方荒れ果てぬ吾のみにあらじと自ら慰む
被曝せるも七年過ぎればすでに慣れ冬至来たれば柚子を捥ぎたり (3首 三浦愛子)
とにかくに除染の袋わが町の野や畑に積まれ七年の過ぐ (三浦弘子)
平ひらかに成ると願ひし三十年サリン事件と原発事故と
入山規制解けしもはるか公園にによつきりと立つモニタリングポスト
モニタリングポストの撤去に異論ありゆれ動く福島の安全安心
飯舘の仮設の校舎こぼたれて広き敷地に夏日が光る
避難指示解除となるも仮設舎に残る人らに八度目の冬
ふるさとに宿る家ある幸せを言ひつつ娘らは帰りゆきたり (6首 水口美希)
五尺ほど掘りし庭より汚染土を取り出す作業に六人かかはる
坪庭に埋めし汚染土なくなりて澄める空気を思ひきり吸う
七年を経たるに風評被害にて水揚げ平目の輸出叶はず
核災の復興半ばに職を辞す三期の町長よもやの癌に (4首 宮崎英幸)
枯れ落葉踏み締め歩き久々に震災以前の秋を探りぬ
原発を締め出す拠点ぞ福島は被曝の惨き現実纏ひ
原発は斜陽と断をきつぱりと下す胆力この国に欲し (3首 三好幸治)
震災の七年目なるこの朝を紅梅咲きて想ひ深まる (御代テル子)
七年の避難生活借り上げの二間(ふたま)の物の隙間に辛く生く
「フクシマ」の常磐道の新緑の中をポルシェが疾走してゆく
富岡のメガソーラーの直ぐ西を一時帰宅で七年も往き来する
二年後のオリンピックへと除染物搬送ダンプの渋滞続く
浪江・双葉・大熊町民ら避難地に集い一同「ふるさと」を歌う
原発事故風化の中に帰る所無きまま彷徨(さまよ)う八年目の苦悩
福島へ来て観て泊って食べて飲んで正しく理解し安全と伝えて
除染物搬送ダンプの渋滞がオリンピックへと倍増するなり
東電に古里追われ八年目に3LDKの復興団地の正月 (9首 守岡和之)
側溝の除染とやらが始まれり原発事故後七年目の事 (森谷克子)
見のかぎり太陽光パネル並び建つ牛飼ひ絶たれし牧場の跡
避難者の宅地に変る畑に立ち老いは語りぬ入植の頃を
平成の世は原発の事故ありて避難者となり夫も逝きたり
ふる里の墓移し来てきさらぎの高丘に建立の経を終へたり (4首 山崎ミツ子)
幾度も「帰去来辞」(かへりなむいざ)と思ひたり花咲く季はことさらおもふ
ときながく咲きてこぼるるさざんくわの主なき里の万の紅(くれなゐ)
ふるさとを娘の住む国を吾を照らすたつたひとつの月読みわたる
戻るたび解体さるる家の増ゆ空と空地が広ごる町よ
ふくしまの人は怒らないのと都市の友怒りの果ては沈黙となる
「また明日」児童ら手を振り別れしが三・一一より明日の来ぬ町 (6首 山田純華)
三月は「フクシマの月」記憶から永久に消せない福島人(びと)われ
台風も豪雨も避けて通りたり原発事故に傷負う福島 (2首 横田敏子)
梅雨空はけふも広がり降るやうなふらないやうな 避難も八年(やとせ)
豊かなる稔りはふるさと思はしめ田畑逐(お)はれし人らは黙す
避難者の集ひ終はりし夕まぐれ野焼きの煙低くたなびく
廃棄物貯蔵所もいまや稼働してわがふるさとは遠くなりたり
飛行場に次ぎて塩田つづまりは原発となるわがふるさとぞ
それぞれの窓の灯りに悲しみを湛(たた)へて復興住宅並ぶ (6首 吉田信雄)
原発に双葉の住ひ奪はれし娘避難の生活五年となりぬ
双葉地区に戻れぬを決めいわき市に居を構へし娘に御護符たき上ぐ
避難解除自宅に戻り二年となり新緑の山々に心安らぐ
帰還する二年の春にツバメ等の軒に巣づくるを楽しみに待つ (4首 渡部愛子)
七年経て放射線被曝宣告されき除染作業員ゐるを知りたり(福島原発事故) (渡部悦子)
秋の夜鈴虫のなくりんりんとなぜか悲しい避難暮らしは (渡部豊子)
被曝地に七度目の春巡り来て人なき町を車窓より見つ
闇の中ロボット進む核納器はつと目覚めて汗をかきゐる
原子炉の建屋に穴を開けるとふ工事にさへも恐るるわれら
相馬野野馬追神旗争奪の若武者ら原発事故を乗り越えゆかむ
震災後高く造られし防波堤われの裡にも真向ふ何か (5首 渡辺浩子)
国策の安全・安心・クリーンなる神話と真逆の道あゆみたり
懺悔なく責任もなく廃炉への道を論ずる席も無きまま
高線量被ばく労働にささえらる安全強化とう原発かなし
許されし年間二十ミリシーベルト終止符を打つ勤務五年に
線量の限度に勝てず熟練の人も去りゆく唇かみて
幾十年続くとも知らぬ収束の足かせとなる熟練者不足
明けやらぬ夜半に思うは青白き炉の炎(ひ)を見つつ眠らぬ人を
原発の〈安全強化〉に潜(ひそ)みいる〈推進〉の文字意味深く読む
復興の証と聞こゆ槌音よ被い隠すな弱者の声を
風景に熔けこむように時は経(へ)つ忘れられゆくか仮設住宅(かせつ)の痛み (10首 渡辺美輪子)
次回も原士力詠を読み続けたい。 (つづく)
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