伊藤詩織さんがレイプされたとして損害賠償を訴えた民事訴訟で伊藤さんが勝訴し、それにあたって伊藤さんと訴えられた山口敬之氏(元TBSのワシントン支局長)の記者会見がそれぞれ東京の外国人記者クラブで行われました。この記者会見でデイリービーストのアメリカ人記者が次のような質問をしました。
「あなたへの警視庁の逮捕は、菅官房長官の秘書だった人物によって取り消されました。あなた自身ジャーナリストで刑事事件も取材したことがありますが、逮捕が取り消されたケースはありましたか?あなたはいわゆる上級国民扱いされたが、他のケースでは2〜3日、拘置所に入っています」
山口氏は<自分自身に逮捕状が出ていたこと自体を未だに知りません。したがって官僚や警察に助けを求めたりすることもあり得ない・・>というような答えでした。<捜査官が任意の聴取で私のところに来たのが(2016年)6月中旬で、それまで自分が捜査対象であることを知りようがない>と。ただ、この山口氏の回答ではその後も含めて、逮捕の取り消しとか、介入があったことを山口氏が知っていたのかどうかはわかりませんでした。ちなみにアメリカから山口氏が帰国したのが6月8日で、その日が逮捕の予定日でした。
そこでビデオニュースドットコムの神保哲生氏が追加して質問したのが、事後でもいいが、上層部の介入があったことは知らないのか?と質問しました。「それによって何かが動いたというような話は間接的にも聞いていません」と山口氏は答えました。神保氏はあれほど報道があったのに、そして自分の事だったのに、確認もされていないということですね?と再度、山口氏に確認を求めたのです。これは重要なプロセスです。
それに対して山口氏はこのように答えました。 「まず私は犯罪を犯していません。ですから捜査が行われていることを知る由もない、ということをご理解いただいた上で、そのあと、報道が出た後は、とくに私がたとえば誰かに電話をかけたり、メールを送ったりすること自体が誤解を招くということがあるので一切の連絡を絶ちました、私は」
神保氏の質問は非常に重要なことであり、デイリービーストの記者の質問を完遂することでもありましたが、山口氏は逮捕を取りやめるという警察官僚の介入を山口氏自身がどう見ているか、ということには回答を避けました。このあたりの質疑応答はこの事件を見るうえで、非常に重要なポイントでしょう。山口氏の回答が真実か虚偽かは一概に判断できませんが、言葉を引き出していく作業は不可欠です。ジャーナリストという肩書きを持つ山口氏は自分にとってプラスに作用したはずの逮捕状の取り消しに関して、それがどのような理由や経緯だったかと言うような事実の確認作業を、誤解を与えないようにするために一切、しなかったと語りました。
この事件を特異なものにしている要素こそ、逮捕の取り消しという局面です。それに関して、山口氏は一切、それに関しては知らない旨を語りました。なぜ逮捕が直前に介入で取り消されたのか、この謎は解消されないままです。そして、ここに日本国の民主主義が壊れている可能性があるのです。逮捕を取りやめにした官僚を国会に呼んでその経緯を証人喚問する必要があるでしょう。山口氏が一切関知しなかったなら、頼まれてもいないのになぜ逮捕は取り消しされたのか。この異例の措置をいったい誰が命じたのか。
■性暴力被害訴訟で賠償命令 元TBS記者の山口敬之氏が会見(2019年12月19日)THE PAGE
https://www.youtube.com/watch?v=B93Ps8IhMfQ
■「総理」(山口敬之著)
https://www.amazon.co.jp/%E7%B7%8F%E7%90%86-%E5%B1%B1%E5%8F%A3-%E6%95%AC%E4%B9%8B/dp/4344029607 ※「総理」の出版は2016年6月9日であり、山口氏の逮捕の取り消しは2015年6月8日。その間に1年間の時差があります。最初は本記事でもうっかり、逮捕取り消しの翌日に出版されたと書いてしまいましたが、それは誤りでしたのでお詫びいたします。
■警視庁本部 中村格刑事部長(当時)の暴挙と法治主義(2017年6月 BLOGOS 若狭勝)
https://blogos.com/article/228075/
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