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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2020年04月30日14時11分掲載
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文化
[核を詠う](302)塔短歌会・東北の『東日本大震災を詠む』から原子力詠を読む(5)「抜けた乳歯を預かる歯医者あるという『何のために』と言いかけ気付く」 山崎芳彦
塔短歌会・東北の歌集、『2199日目 東日本大震災から六年を詠む』(平成29年7月刊)から原子力詠を読ませていただく。この歌集の巻末に「震災のうた 三首選」と題して、塔短歌会・東北に作品を寄せている14氏が、東日本大震災にかかわる作品3首を選んで、それぞれ選んだ多くの歌人の作品についての感想、作品への思いを記すという企画による、魅力的な構成の14頁が掲載されている。東日本大震災に関わって詠まれている短歌作品は、個人歌集、合同歌集、歌誌をはじめ様々なかたちで世に出ているが、自ら東日本大震災の歌を詠み続けている歌人による「三首選」の企画は貴重だと思う。今回は、この「三首選」に選ばれている全作品を転載させていただいた。三首選をしたそれぞれの歌人の思いをつづった文章が記されているのだが、省略せざるを得なかったのは残念だが、それを読みながら、「詠む」と「読む」の交錯の深さが感じられて、短歌文学のありようについて考えさせられた。
◇『2199日 東日本大震災から六年を詠む』(成29年7月刊・抄)◇ (「はじめに」東日本大震災、それに伴う原発事故から六年が経ったこの春、帰還困難区域を除く、浪江町、富岡町、飯舘村、そして川俣町山木屋地区の避難指示が解除されました。これで避難対象となった方々の七割が帰還可能ということになりました。とはいえ、それは、「可能ということになりました」ということに過ぎません。一人ずつの不安や葛藤は、これからも続いていくでしょう。むろん安堵や希望もあるでしょう。一人ずつ異なる、そして一人の心の中でも異なる多くの思いが、痛烈に、痛切にあることを、思っていきたいと思います。(略)/今回の冊子には、「震災のうた 三首選があります。東日本大震災を詠んだ歌の中から三首選ぶなら、どうなるか。その選びは、おのずと自分の歌を、自分のこの六年を、照らすものでもありました。)
もうこんなにも日は経ったのか二一九九日目とふ光陰の嵩 (宮城県仙台市・相澤豊子)
〈おれはひとりの修羅なのだ〉 われ最大の悪事なるきみ眠りをりまろく日のゆくけふ原爆忌
〈「地震?」〉 八月の光をまとふぼくたちは祈りのやうに釦をとめて (2首 宮城県仙台市・浅野大輝)
「出身は?」「・くしまです」「え、福島?」「いえ徳島です」「あ、すいません」
災いに巻き込まれたら罪人(つみびと)で理屈は遥か消え失せにけり
その地名聞いたことあるねといわるれば心配されているのがわかる
過酷なるこの世の中に慣れてくれということが解決でなし (4首 宮城県仙台市・井上雅史)
3・11六年目になりイベントの盛んな報道テレビに見入る (宮城県柴田町・及川綾子)
削りたる汚染土を同じ庭深く埋め除染作業なにを除くや
やうやくに椎茸食す八宝菜バター焼にと六年ふりて
食ぶる事が復興支援になりたるや「古今東北」選びてをりぬ (3首 宮城県仙台市・大沼智恵子)
蒲公英(たんぽぽ)もかけがへのなさの一つです自主避難者の七度目の春
遠くから見守るだけでよきものか六年たちし被災地の明日
故郷をこはした罪は何の罪 黙したままで無人の街は (3首 宮城県仙台市・尾崎大誓)
輸出いまだ止められてをり壺(ハンアリ)に塩漬けさるるはずの真海鞘(まぼや)の
捨てるとふ 津波ののちの潮の間に育める海鞘一万四千トン
完璧に何かを制御できるとふ思ひあがりに夕暮れがくる
漁夫(すなどり)の姿は見えず舟ひとつ波のひかりに溶けてゆきたり (4首 宮城県大崎市・梶原さい子)
この山もあつちの山もうちの山 除染も自分の手でせしが自慢
降り出した雨に畑が濡れてゆく母屋の屋根が光り始める
(帰宅後すぐシャワーを浴ぶれば大丈夫と専門家言ひき断水の日々に) (3首 福島県いわき市・小林真代)
情け顔で復興五輪と言はれども格差は拡がる 置いてけぼりだ
問診であなたが病歴話すときおほなゐのこと序詞(じょことば)となる
故郷へ慰霊の日には帰れないICUにあなたとをれば (3首 仙台市出身・東京都小金井市・武山千鶴) (作者の随想から。「否応なく時間は流れた。それは、人間が隠している本性を炙り出す。交代を繰り返す復興相ら。もろもろの発言は失言ではなく『霞が関』や『永田町』の本心の吐露だ、と思う。〈略〉/一方、運転を停止していた原発の再稼働に向けた流れが活発化している。人類史上最悪の原発事故をすでに制圧したかのような錯覚が生まれ、あたりまえのように弱者の足元を見透かし、想定内の裏づけで新たな安全神話を作り出す。/本当にいいのか、このままの流れで。」東海第二原発のある茨城に住む筆者は武山さんの思いに共感する。)
純滅を待つならこれは二十三世紀の春の夜に開かん
天井を燻蒸したるセシウムがほとばしり落つ弥生のうちに
「サソリ型ロボット」にかく感情をゆさぶられるは昭和の男
聴覚は付与されずしてたちつくす旧炉心へとカメラを向けて
二千日こえて投入続きたる窒素ガスうすく風にもどりぬ
線量を音にて聞けば春暁の炉内に側座核は泡立つ (6首 福岡県出身・広島市・田中濯) (作者の随想。「さいきん電気事業連合会が積極的にテレビCMを打ち、エネルギーミックスの観点から原発を推進していますが、これもポスト・トゥルースの時代の表出のひとつなんだろうか、と考えながら見ています。辞任した〈させられた〉今村復興大臣と同じく。」)
三十歳(さんじゅう)で被災してより増えてゆく診察券だ角曲がりつつ
孵らない卵を購う 腫れを持つ甲状腺はちょうちょのかたち (2首 宮城県仙台市・田宮智美)
理想的な赤ん坊だと国家の人らが来て原子炉にわが子を連れて行こうとする
元気よく、よく泣く赤ん坊が相当量の放射能を吸い取るのだと説明される
三日たっても原子炉に娘は泣き続けている想定以上に素晴らしい赤ちゃんだと言われる (3首 東京都目黒区・花山周子) (「震災以降に見た夢六首とその他、四首」と題する一連の中の3首。作者の随想に「今のアパートに住み始めたのは二〇一〇年の終わり頃で、家にはその頃からの雑誌類がたまっている。雑誌を整理していて、一四年の雑誌がずいぶん古いもののように思える。あれ?と思う。今まで私に流れてきた年月から一一年だけが浮き上がっていることに気がつく。一一年が一四年のようにごく自然に年月に埋没することがないのである。いつも一一年が私の傍らにあり、一一年を基準にして私は思考してしまう。そういう思考法が齎す誤りもあると思う。震災に対する自分の向き合い方に進歩があるわけでもない。職場で震災の話をして、何年だったっけ?と聞かれた。人には一一年もごく自然に埋没していることに気がつく。」と記していて、筆者は抄出した花山さんの歌以外の歌を読み返した。)
(キリコは大戦の記憶をどう処理したのだらう?) 沢山のもしももしもがありしこと、たれが悪いと決めないまでも
パニックの中央制御室に入(い)るひとりの実(じつ)を今も疑ふ
(何時からか被災三県といふ区分が成されてゐて) いはけなく農耕つづくるわが郷(さと)よ人のしじまを濃くしてさぶし (3首 青森県つがる市・松木乃り (作者の随想。「〈略〉判決の行方が気になっている。避難者集団訴訟、前橋地裁のそれである。『国と東京電力は巨大津波を予見でき、原発事故を防げた』東電ばかりでなく、国そのものにも同等の責任があるという見解である。六年目にして、日の目を見た一つの方向性。感慨深いものがある。三月十七日の事であった。全国にはまだ同じような訴訟が三十件ほどあるという。」)
こわい話聞きたいですか背後から鏡の中の美容師が言う
「自分でも子でもなく孫の代あたりで出る」 娘と同じ年なり彼女は
抜けた乳歯を預かる歯医者あるという「何のために」と言いかけて気付く
深刻になり過ぎぬように娘に伝う 「乳歯の抜けるころ思い出そう」
こののちの先進医療を信じれば取り置く乳歯を娘は笑わず
人生の途中でいくどか肉体がのっとられていた セロリも食べてる (6首 福島県福島市・三浦こうこ) (作者の随想。「ここにきて表面化した二次、三次被害。被災者いじめは人的災害である。核心からある距離に一線を引いて、それを越した場所でいじめは起こっているが、それだけでなく、内部でも起こっていて、深い。しかも自然災害と違って、発生が予測できるのに誰にも止められない。言葉の暴力に怒りつつ、口に出さないが心の中で思っている人がどれほど多いのかも冷静に分かっている。それは、人がどうもできないばかりか自分でもどうしようもない事だ。心の内で人は様々な捩れを隠している。そこをろ過され生まれる言葉に、責任を負わなければならない。」)
▼「震災のうた 三首選」▼ 『2199日目』の企画として、塔短歌会・東北に参加しているうちの歌人14氏が、東日本大震災を詠んだ多くの歌人の短歌作品3首を選んで、それぞれの歌について、その歌を選んだ理由などについて記している。筆者は、「原子力詠」として読んだ歌を抄出させていただいているが、この三首選には大震災に関わって詠まれた作品が選ばれている。14氏が選んだ歌には、同じ作品が、当然のことだがある。選んだ14氏が記している、選んだ作品についての思い、感想などを記すことが出来ないことが残念だが、選ばれた全作品を記しておきたい。同じ作品が選ばれているが、そのまま記す。作品の歌人名を記すが、出典は省略させていただく。(筆者)
〇相澤豊子選 「命のうた」 死ぬ側に選ばれざりし身は立ちてボトルの水を喉に流し込む (佐藤通雅)
昔(むがす)むがす、埒(らづ)もねえごどあつたづも 昔話(むがすこ)となるときよ早(はよ)来よ (佐藤通雅)
半身を水に漬かりて斜めなるベッドの上のつつがなき祖母 (梶原さい子)
〇浅野大輝選 「戦いの果てに」 その土地でなければならぬ人たちの苦しみ銀杏の葉はどつと落つ (梶原さい子)
私たちは ロンドンにゐて よかつた と子を抱きて言ふ 抱き締めて言ふ (黒瀬珂瀾)
ゆきのうへにゆきおともなくふりつもる ゆるす とたれかたしかにいへり (佐藤通雅)
〇及川綾子選 「『祈り』心の叫びを振り返る」 半身を水に漬かりて斜めなるベッドの上のつつがなき祖母 (梶原さい子)
仙台に留まらざりし判断に迷ひはないかと言はるればなし (大口玲子)
生き残つただけでも死者を傷つける碑をまへにして額づくさへも (佐藤通雅)
〇逢坂みずき選 「共感としての震災詠」 少しずつああ少しずつ戻りゆく洗濯できるお米が買える (村岡美知子)
三月の海の青さよ十日でも十一日でも十二日でも (俵 万智)
思ひ直し思ひ直して生くる人ら自分の方が恵まれてゐると (梶原さい子)
〇尾崎大誓選 「父は空 母は大地」 ふくしまや原発石棺何処までもダンテの獄の酷(むご)きにつらね (波汐國芳)
飯舘村(いいたて)を裂く稲妻のひらひらと遺棄牛(いきうし)の目が走ったような (波汐國芳)
使用済み核のプールの水明り死海の方まで透きて見えしか (波汐國芳)
〇梶原さい子選 「見ていない風景」 東北の瓦礫のうへにぽつかりとひきだしありて曇天に向く (澤村斉美)
生き死にの境もいつか美しからむ津波到達ラインの桜 (岡野裕之)
(津波は多数の遺体を沖に連れ去ったといふ) 〈花束〉は太平洋をただよへり一つ一つの〈花〉に分かれて (高野公彦)
〇小林真代選 「絶句の後に」 死んだ子も山のきつねもこくこくと渓水を飲む青葉のころは(小島ゆかり)
絶句する人になほ向くマイクあればなほ苦しみてことばを探す (米山千嘉子)
卒業証書受けて動かぬ翔太くんみんな見ていた心というを (池本一郎)
〇佐藤涼子選 「寄り添った人」 「頭骸骨3つに割れて中身なく」静かに話す保護者に耐え得ず (千葉由紀)
水が欲し 死にし子供の泥の顔を舐めて清むるその母のため (柿沼寿子)
生存者の願ひは全て死者に対し失礼なことばかりと思ふ (菱沼愚人)
〇武山千鶴選 「らづもねえごど」 腐敗して膨れて目玉も飛び出して あの子がいったい何をしたのか (千葉由紀)
除染土のその後を言ひつつくさめしてひきつるやうに誰か笑ひぬ (小林真代)
昔(むがす)むがす、埒(らづ)もねえごどあつたづも 昔話(むがすこ)となるときよ早(はよ)来よ (佐藤通雅)
〇田中 濯選 「三首選」 天皇が原発をやめよと言い給う日を思いおり思いて恥じぬ (吉川宏志)
撮ってたらそこまで来てあっという間で死ぬかと思ってほんとうに死ぬ (斉藤斎藤)
除染とは染野を除外することなれば生徒らは笑うプールサイドに (染野太明)
〇田宮智美選 「心が思われる歌」 昔(むがす)むがす 埒(らづ)もねえごどあつたづも 昔話(むがすこ)となるときよ早(はよ)来よ (佐藤通雅)
手をつなぐことなく過ぎし六十二年その手をつなぎ外に逃れき (永澤よう子)
「屁こき嫁」読みし息子は「おならして仙台へ飛んで行かう」と言へり (大口玲子)
〇千葉なおみ選 「歳月」 三年の月日に丘となる瓦礫包みてやさし昼顔の花 (深町一夫)
若者がこぶし振り上げ歌に酔うあの日骸(むくろ)が並んだホール (阿部みゆき)
浚はれし数多の暮らしそこかしこ更地に揺れる紅き雛罌粟 (角田正雄)
〇花山周子選 「土地のかなしみを引き受ける人間の寡黙さ」 昔(むがす)むがす、埒(らづ)もねえごどあつたづも、昔話(むがすこ)となるとき早(はよ)来よ (佐藤通雅)
それでも朝は来ることをやめぬ 泥の乾(ひ)るひとつひとつの入り江の奥に (梶原さい子)
よきことを思ひて生きむ傷み負ふ地のうへに死ぬいのちなれども (柏崎驍二)
〇三浦こうこ選 「高木佳子さんの『青雨記』 より」 底ひなき沼の感じにねんごろに探らるるあはひ目を閉じている(高木佳子)
何が高いのかと問へば内部のですよと答へぬ鱶のごとくに (高木佳子)
けふは濃い、この雨だから舗道も洗はれるものと思つてゐたが(高木佳子)
次回も塔短歌会・東北の歌集を読む。 (つづく)
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