フランスのリベラシオン紙で健筆をふるう風刺漫画家ウイレムの最新作はちょっと得体のしれない光景の1コマ漫画でした。筆者は最初は落ちがわからなかったのです。ただ、不気味さは十分に漂っているのですが。
https://www.facebook.com/Liberation/photos/a.329987802393/10158408396427394 この1コマ漫画で、気がつくのはみんなドゴール大統領の仮面をつけていることです。そして互いに相争っています。そこまではわかったんですが、中心に描かれている電信柱みたいな形象が何を意味するのかわからなかった。そこでパリの同業者で映像作品を作っているフローラン・モンクキオル(Florent Montcouquiol)氏に尋ねてみると、このマークはドゴール将軍のシンボルであり、つまりは第二次大戦中にロンドンに亡命してナチスと戦ったドゴール将軍が率いる自由フランス軍の軍旗のシンボル<La croix de Lorraine(ロレーヌ十字)>とのこと。デザインの起源自体は相当古い歴史的なもののようです。
今月の6月18日はドゴール将軍が1940年にロンドンからBBCラジオでフランス人にナチスへの徹底抗戦を呼びかけた記念すべき日ということでした。1940年春、ドイツの奇襲を防ぐために構築した要塞のあったマジノ線を迂回して、怒涛の如く攻め込んだドイツ機甲部隊にフランス軍はあっけなく敗れ、ペタン元帥が率いるヴィシー政権が今しもヒトラーが率いるナチスドイツと休戦協定を結ぼうとしていました。そんな中、ドゴール将軍はフランス人に「自由フランス」組織がロンドンにあり、戦争を継続していることを知らせ、国民にも対独レジスタンスを呼びかけました。このエピソードは戦後もフランス人の自由と抵抗の象徴として毎年思い出されてきたものであり、現代の政治家たちも競ってドゴール将軍にあやかろうとするようです。そこでこのロレーヌ十字をめぐって奪い合いを見せる現代のフランスの政治家たちの漫画になっています。女性も2人いますね。
そういえば、以前、日刊ベリタに「フランスからの手紙」を寄稿していたパスカル・バレジカ氏のコラム(※)にもサルコジ大統領がドゴール将軍にあやかろうと、6月にロンドンを訪れたエピソードが語られていました。そして、それはドゴール将軍と同じ保守派の政党政治家に限らず、左派政党の「服従しないフランス」のジャン=リュク・メランション党首もまた同じで、政策に違いはあれど、ドゴール将軍がナチスに「服従しなかった」ところは私たちと同じだ、と語るメランション氏のインタビュー記事が出ています。また先述のモンクキオル氏によると、右翼政党RN(国民戦線の後継政党)の党首マリーヌ・ルペン氏もまた、ドゴール将軍にあやかろうとしているとのこと。まさに、ウイレムの漫画のような様相らしいのです。
※ドゴール将軍の1940年6月22日のBBC演説(France Culture)
https://www.youtube.com/watch?v=AUS5LHDkwP0 ドゴール将軍は6月17日に海峡を渡ってロンドン入りし、翌日、すぐに徹底抗戦を呼びかける演説をBBCで行った。しかし、この時はまだドゴール将軍は無名で、ラジオを聞いた人間も少なく、録音盤も残っていないという。その4日後にドゴール将軍は再びBBCで抗戦を呼びかけたが、この音声はその時のもの。フランスではペタン元帥らが休戦を進めている最中だった。ドゴール将軍はこの演説の中で、この戦争はフランスとドイツの戦争ではない、世界大戦なのである、との認識を語り、連合国には莫大な資源があるという。それゆえ、最終的に連合軍が勝利した場合に、フランスがドイツと手を結んでいたとしたら、それはどんな運命をフランスに投げかけるのか、と語りかける。1つの戦闘の敗北ではなく、全体の戦争を見通したドゴール将軍の勝ちとなった。
※マリーヌ・ルペン氏の6月18日(ツイッターから)
https://twitter.com/i/status/1273984356617531395
※フランスからの手紙9 〜6月18日はワーテルローの戦勝記念日でもある〜Le 18 juin, c’est aussi l’anniversaire de Waterloo パスカル・バレジカ
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201006300314593
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