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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2020年06月27日21時17分掲載
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文化
[核を詠う](308)吉田信雄歌集『思郷』から原子力詠を読む(3)「原発禍に母校は休校するといふ休校すなはち廃校ならむか」 山崎芳彦
今回も吉田信雄歌集『思郷』から原子力詠を読み継がせていただく。原発が、この国にあってはならない、と思いながら吉田さんの作品を読んでいる。起きないはずがない原発の事故が、どれほど人々の「生」を深く、永く苦しめ続けるのか、吉田さんの作品は、その本質を、まっすぐに明らかにしている。自らだけでなく、共に生きている人びとの歴史と現実を踏まえて詠い(訴え)続ける原発禍のもとの生活詠、叙景歌には、吉田さんの生きている、さらに生きていこうとする力がこもる。
「毒死列島身悶えしつつ野辺の花」(『石牟礼道子全句集』、2015年5 月、藤原書店刊より) いまは亡き石牟礼道子さんの俳句である。2011年夏、東日本大震災・福島第一原発事故の後の一句である。この国が経済の高度成長に向かう過程で、化学大企業のチッソによるメチル水銀の不知火海への排出とそれを放置するばかりか擁護した国や熊本県の犯罪的な不法がもたらした、人間破壊、人々の健康と生活を根底的に苦難の極みに追いこんだ恐ろしい水俣病と、その生涯をかけて文学者、行動者としてたたかった石牟礼さんは、東日本大震災・原発事故の直後に、この俳句を詠んだ。水俣の歴史を生き、闘った石牟礼さんは福島原発事故を自らのこととして受け止めたのであると思う。50数基の原発を持つこの列島、そこには稼働中であろうがなかろうが原子力燃料が常にあり、私たちの知らないままに移動し、核放射能を人々が生きる環境に排出している。そして2011年3月には福島第一原発の過酷事故が、大地震、大津波に対する東電、政府機関の不法ともいえる対策の不備によって引き起こされたのだ。
原発の歴史は、数え切れないレベルでの大小さまざまな事故とその隠蔽の歴史であり、いつ過酷事故を引き起こすか、さまざまな危険を抱え込んだまま、「原子力マフィア」、原子力エネルギーに依存し、政治・経済支配者の利益追求のための「悪魔の文明利器」として存在するものであろう。「毒死列島」に身悶えしつつ生きる「野辺の花」、水俣も、福島も、人間ばかりではない山川草木、命あるものの現在と未来を、苦難の極みに落とし込んでいる。
石牟礼さんは。2012年3月6日付に掲載された朝日新聞デジタルの「石牟礼道子さんインタビュー」(聞き手・赤田康和)の中で、原発事故にかかわっての質問に、水俣病の体験とも重ねて語っているが、その一部を引用させていただく。 (「原発事故による放射性物質の拡散。環境汚染という意味では水俣病に似ています」との問いに) 「水俣病の認定の申請者を行政は絞り込もうとして、やっきになっている。申請に期限を切り、いつやめさせようかと。(水俣病については)原因がはっきりしてからも17、8年、(有害物質を)流し続けるのをやめさせなかった。それなのに、患者が新たに出てくるのをやめさせようとしている。」 「原発の被害はもっと空恐ろしいことになるのではないでしょうか。この国では、過去には原爆でたくさんの人たちが殺された。そしてまた今度も、まるで実験みたいに、日本人が原発事故を引き受けざるをえなくなった。もうたいがいにしてくださいよ、といいたい。文化的にも、大変、情緒のある独特のものをこのくにはもっているのに。」
(「原発の被害はどこまでひろがるのか、予測がつきません。」の問いに) 「分からない、体験したことのない世界です。なんで、そんな体験したことのないもの(苦しみ)を、日本人が幾重にも引き受けるんだろうと。あんまり人がいいからなのかな、と思ったりします。お尋ねしたいですよ、答えがあるものなら。」
また石牟礼さんは、社会学者の上野千鶴子氏との対談(上野千鶴子著『ニッポンが変わる、女が変える』中公文庫、2016年刊)のなかで、上野さんの「「水俣と同じようなことが福島でも起こる、と」という問いに対して、 「起こるでしょう。『また捨てるのか』と思いました。この国は塵芥のように人間を棄てる。役に立たなくなった人たちもまだ役に立つ人たちも、捨てることを最初から勘定に入れている。役に立たない人っていないですよね。ものは言えなくても、手がかなわなくても、そこにいるだけで人には意味がある。なのに『棄却』なんて言葉で棄てるんです。」とも言っていた。水俣の真実を語っているのだろうと、この国の支配権力勢力の本質を言っているのだろうと、読んだ。
吉田さんの『思郷』の作品を読む前に、筆者の勝手書きをしてしまったことをお詫びして、吉田さんの作品を読み続けたい。
▼新居(抄) ふるさとを逐はれ他郷にわが家(いへ)の新築なすは心逸らず
四年余の仮設住まひを終はらせてふるさとならぬ新居に移る
ふるさとを逐はれ建てたる新しき家(いへ)にみ祖(おや)の遺影を掲ぐ
新築の終の棲家を嬉しとも悲しとも思ふ避難者われは
取り入れの稲田を見つむみづからも原発の地に農たりし妻は
若くして逝きし息子の墓に立ち香を焚きたり風冴ゆる日に
傘寿近きわれの残生いくばくや紅葉のしるき山道をゆく
ふるさとを逐(お)はれて他郷に作りたる竟(つひ)の棲家に初日はそそぐ
花ばなを詠める人らを羨しめりわれは黙して原発をうたふ
▼フレコンバッグ(抄) 一時帰宅のわが家へ向かふ沿道に廃棄物袋(フレコンバッグ)の山々つづく
中間貯蔵施設説明会ありわが家(いへ)を踏みゆく重機をまぼろしに見つ
汚染物の貯蔵地となる運命(さだめ)もち泡立草のなかなるわが家
原発の事故に潰えぬ四世代ともに住みゐしふるさとの日々
ふるさとの家も田畑も映りゐる廃炉作業のニュース画面に
肥沃なりし稻田に柳の幼木の密生しをり原発の地は
避難地の祭に会いし教へ子は仕事は除染と言ひて黙しぬ
▼百四歳母逝く(抄) 百四歳の母は逝きたり原発に逐はれしふるさとひたに恋ひつつ
避難地の淋しき葬りを怖るるに知り人あまた集ひくれにき
ふるさとの墓地は被災地 葬儀終へ母の遺骨の行き処なし
原発の事故に墓すら逐はれたり何片(いづち)にみ祖の住み処求めむ
たらちねを祀る祭壇に鉦ひとつ打てば音色は部屋にふくらむ
賜ひたる旬の蕨を供へたり妣の好みし味に仕上げて
▼白き砂浜(抄) 大晦日に子や孫の来てつかの間を原発禍前の円居(まどゐ)戻りぬ
新築の家に住むことなきままに母逝かしめしわが罪ならむ
思ひ出すふるさとの景は夏の日の原発見ゆる白き砂浜
足跡はけもののみなる新雪の道行きにけり一時帰宅に
霜を置くひつぢ田恋し原発禍の後は柳の木がおほひたり
▼賠償(抄) 原発禍まで長く住みゐしふるさとの日々のたつきも朧(おぼろ)となりぬ
震災前九人で住みしわが家族散りぢりになり桜花舞ふ
原発の見ゆる野川に攩網(たも)を手に孫とざりがに追ひしかの日よ
高速路の処々(ところどころ)に線量を示す数字の光るを見たり
白壁を背にパソコンを睨めつつ東電社員は賠償を言ふ
総務課長は大儀なるべし子の言はずわれも尋ねず白髪見つむ
▼新しき街(抄) 被災証明書を見せつつ五年余高速道路(こうそく)を住めぬわが家に往き来をしたり
避難地に真夜を醒むればふるさとのわが家の景の闇に浮かびぬ
原発禍に母校は休校するといふ休校すなはち廃校ならむか
避難して四年を過ごしし会津なり別れに友の墓前に立ちぬ
天井の木目清(すが)しき居間に座す五年余を経てわが家は成りぬ
▼新盆(抄) 放射能は漏れゐたりしと今に知る避難のバスを待ちゐし頃を
恋しきは野の花々よふるさとを逐はれて街に移り暮らせば
避難地にひかる水張田ふるさとに広ごる荒田重なり浮かぶ
たらちねの祭壇成りて新盆を鬼灯(ほほづき)と笹に飾られてあり
ふた月に一度の歌会に避難地より集ひし七名話は尽きず
▼復興(抄) 原発禍に置き去りにせし猫五匹その後を知らず如何に生くらむ
復興などと言へるかこの地の幹線の常磐線は途切れたるまま
原発禍になべて棄てたる田や畑は五年余を経て原野と化せり
狭心症わが病みてより五年余か原発避難と重なる歳月
仮設舎の虚しさ語る郷の友の記事を切り抜く 冬がまた来ぬ
▼夕餉(抄) をちこちに槌音響くふるさとを逐はれし避難者多きこの地区
避難して五年が過ぎしかさまざまな鉢に朝あさ水を掛けゆく
山に入る畑に田に入るかかること恋ほしき五年避難地に住む
隣り合ふ人らも知らで避難地に住まひ続けて五年数へつ
一時帰宅せずなりにけり原発の郷のわが家もはるけくなりぬ
遁(のが)れ来てわが終焉の地と決めぬ激しき雨あし舗装路を叩く
次回も吉田信雄歌集『思郷』を読む。 (つづく)
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