(2020年6月27日) 昨日(6月26日)、東京地裁で注目すべき判決が言い渡された。「NHK映らないテレビ、受信契約の義務なし」「NHK視聴できない装置付けたTV、受信契約義務なし」などの見出しで報じられているもの。
「NHKのチャンネルは映らない構造のテレビで、民放だけを見ていてもNHK受信料を支払わねばならないのか。それとも、支払わなくてもよいのか」。その問題に「支払いの義務はない」と判断した初めての判決である。当然控訴されるだろうから、東京高裁や最高裁の判断に関心を寄せざるを得ない。
放送法第64条1項は、(受信契約及び受信料)について、「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と受信契約締結義務を定め、 その上で、「ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送…に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。」とする。
NHKとの受信契約締結の義務主体(即ち、受信料支配義務者)は、「NHKテレビ放送を受信することのできる受像設備を設置した者」である。「NHKのテレビ放送を受信できないテレビをもっているだけでは、受信契約締結義務は生じないし、受信料支払い義務も生じない。誰が読んでも、放送法にはそう書いてある。
ところが、この種の裁判は過去4回あって、全てNHKの勝訴、視聴者側の敗訴で終わっている。今回初めて、NHKの敗訴となった。NHKの衝撃はさぞや大きいに違いない。
問題は、「NHKの放送を受信することのできる受信設備」の解釈である。これまでの判決は、市販のテレビに加工してNHKの放送を受信できなくしても、復元の可能性ある以上は、「NHKの放送を受信することのできる受信設備であることに変わりはない」とした。
例えば、2016(平成28)年7月20日東京地裁判決はこういう。
「被告(受信料請求対象者)は,本件工事を行ったことにより,本件受信機で原告(NHK)の放送を受信することはできない状態にあると主張するが,…被告が本件工事の施工を依頼した者に復元工事を依頼するなどして本件フィルターを取り外せば,本件受信機で原告の放送を視聴することができるのであるから,…現に原告の放送を視聴することができない状態にあるとしても,これをもって,被告が『受信機を廃止すること等により,放送受信契約を要しないこととなった』ということはできない。」
昨日言い渡しのあった事件の内容は、報道によると以下のとおりである。 原告の女性は2018年、受信料を徴収されないようNHKが視聴できない装置を付けて樹脂などで固定したテレビを購入した。その上で、NHKを被告として、受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めて提訴した。
NHKは訴訟で「原告のテレビは放送を受信できる基本構造を維持している」「フィルターや電波の増幅器(ブースター)を使うなどの実験をした結果、原告のテレビでは『NHKを受信できる状態に簡単に復元できる』と主張した」などと主張したが、小川理津子裁判長は「専門知識のない原告がテレビを元の状態に戻すのは難しく、放送を受信できるテレビとはいえない」と判断した。「増幅器の出費をしなければ受信できないテレビは、NHKを受信できる設備とはいえない」とも判示したという。
原告はNHKの受信料の徴収に批判的な意見の持ち主とのことだが、判決は「どのような意図であれ、受信できない以上契約義務はない」と説示していると報じられている。この訴訟の原告代理人は高池勝彦弁護士。新しい歴史教科書をつくる会会長を務め、最右翼の歴史修正主義派として知られる人物。N国同様、右の側からNHKを揺さぶろうという提訴の意図が透けて見える。
しかし、この訴訟の原告や代理人の意図がどうであれ、私は歓迎すべき判決だと思う。放送法が、NHKと視聴者との関係を契約と制度設計している以上、NHKは視聴者に信頼され、視聴者に魅力ある内容の放送をする努力を尽くさなければならない。NHKを視聴しない者からも、取れるものなら受信料を戴こうという姿勢は情けない。民放番組だけを視聴しようという者に対してNHKに受信料を支払えとする判決は、制度の趣旨からも、法の条文の文言からもおかしいというほかはない。
これまで裁判所は、NHKに甘過ぎる判決を重ねてきた。ピリリと辛い判決は、NHKにとっての、ちょっぴり苦い良薬というべきだろう。
澤藤統一郎(さわふじとういちろう):弁護士
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.6.27より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=15153
ちきゅう座から転載
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