毎日新聞が6月29日の朝刊で、NHK経営委員会が2018年にクローズアップ現代+の報道に圧力をかけた経緯を3ページにわたって、10月23日の議事内容をつきで報道した。これは瞠目する快挙と言えよう。NHK経営委員会が議事録を公開しないため、複数の関係者への取材で主要な発言を再構築したもののようだ。これまで漠然としたことしかわからなかった石原進前NHK経営委員長や森下俊三NHK経営委員長代行(現在のNHK経営委員長)の具体的な発言と介入の内容がより明確となった。
毎日新聞の記事によると、日本郵政グループによるかんぽ生命の不正販売を報じた2018年4月のクロ現+について、NHKは続編制作のためのさらなる情報を募るネット動画を出した。ところが日本郵政グループは報道内容を否定し、動画の削除をNHKの上田良一会長に求めた。その際、クロ現+の番組責任者が「会長は番組制作に関与しない」と答えたらしいことがNHKの「ガバナンス」の不足だとして、日本郵政グループによる上田会長への説明の要求につながった。しかし、上田会長からの回答がなかったので(基本、会長名でクレームに文書で対応はしていないとのこと)、今度は抗議書面をNHK経営委員会に送ったとされる。
毎日新聞が取材で再構築したNHK経営委員会の2018年10月23日の議事内容を読む限り、石原NHK経営委員長(当時)は「個別の番組に意見するつもりはまったくない」とか、「中身の問題はややこしくなるので言わないが」などと、常に予防線を先に張っている。しかし、そのうえで「ただ」などの言葉をつけ、「ただ相手(※日本郵政グループ)が全く納得していない」とか「私は納得していない」とか、「それなりの対応をする必要がある」など、このままではすまされないであろうことをほのめかす。
そして、石原氏のそうした言葉に呼応する形で、側近の森下NHK経営委員長代行(当時)が「番組の作り方の問題と執行部は考えるべきだ」とか、「本当は、郵政側が納得していないのは取材内容だ」などと合いの手を入れている。この二人がコンビネーションの形で、上田会長にクロ現+の番組内容まで個別具体的に介入することがNHKに必要なガバナンスだという風に示唆しているとしか読み取れない。NHK経営委員会が会長ら執行部に、番組内容に文句をつけ、介入することを求めているのである。これは放送法違反ではないのだろうか。
さらに、毎日新聞は森下氏のNHK経営委員会での発言に取材陣を貶める発言があったことを取材で検証している。森下氏はクロ現+の制作者たちが郵政グループ側に取材しないまま、一方的に被害者の取材のみで番組を作ったかのような発言を会議でしていたらしいのだ。これは今回の記事でも最も重大な点の1つだし、素晴らしいスクープである。森下氏は「ネット情報のみをうのみにした」とか、「まったく(日本郵政側への)取材行為がない」などと虚偽を語って、上田良一会長に反省を求めていたのである。この記事の森下氏の虚偽発言が事実であれば、森下俊三NHK経営委員長はすぐに辞職するべきだ。毎日新聞記者たちの努力と成果に敬服します。こうした経営委員会による圧力の実態が、もっと巧妙に隠された形で、人事や番組編成で起きていなかったのか、つぶされた番組はなかったのか、スタッフや制作者が干されたり、移動になったりしたことはなかったのか、など内部告発を交えたさらなる検証が必要だろう。まだ氷山の一角かもしれない。
※かんぽ不正、底見えぬ不利益契約 顧客憤り「説明足りず損失100万円」(西日本新聞 2020年3月18日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/592822/ 「かんぽ生命保険の不正販売問題を巡り、保険料を支払い終えた保険をわざわざ解約させ、新しい保険に乗り換えさせる営業実態が新たに判明した。西日本新聞の取材に応じた複数の顧客は「十分な説明がなく、結果的に大きな損失が出た」と憤る。専門家は「顧客本位とはかけ離れた悪質な営業。徹底した調査が必要だ」と批判する。」
※「会社全体が狂っていた」かんぽ不正、局員が語る後悔の念(西日本新聞 2020年6月22日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/619242/
※NHK経営委員会の石原進氏(現在、経営委員長)と原発再稼働 七沢潔著『テレビと原発報道の60年』(彩流社)に圧力の経緯が書かれている(2018年の記事)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201803311455556 石原氏はNHK経営委員長に就任するまでNHK経営委員をつとめながら改憲圧力団体の日本会議福岡の名誉顧問をつとめていたほか、原発再稼働の推進論者でもあった。NHK経営委員の適格条件はどうなっているのだろうか。
※【NHK経営委】かんぽ対応の議事録示せ(高知新聞)
https://www.kochinews.co.jp/sp/article/351820/ 「経営委には議事録の公開が義務付けられている。ところが問題の会合について経営委は、議題ではなく、非公表が前提の意見交換の場だったとして公開していない。」
このような重要な話こそ、議事録にとって公開する意味がある。視聴者の代表として、その役職にあるものの義務だ。
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