幼い子供を連れた若い母親がポテトサラダをスーパーで買おうとした際に、同行していた年輩の男が「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうか」と諭したとかいう話が話題になり、ポテトサラダは面倒くさい、とか、そういうお前が自分で作れ、というような声が女性たちから上がっていた。
男性である自分から見ると、ポテトサラダはこれまで一度も調理したことがない。常に食べる人だった。高校時代に母親が明日の準備に作って冷蔵庫で冷やしていたポテトサラダのボールを家族全員分夜中に一人で平らげてしまって翌日、母親を困らせてしまったこともあった。最初はそんなつもりではなかったのだが、食べているうちにどんどん食欲が湧いてきて困った。ポテトサラダは普通の生野菜サラダと、確かに違う。しかし、外見から見るとどういう食材の構成なのか、少し分かりにくい。正体が見えにくいサラダだ。そこで自分で試しに作ってみると、よくわかった。言うまでもなく、ポテトサラダの核はジャガイモにある。
ジャガイモを茹でて、それをつぶす(マッシュする)。イモをつぶす、という段階で何か器具がいるのだろうか?と思った時、フランス料理の原田理シェフ(※)が「ホークを使えばつぶせますよ」と教えてくださった。イモをしっかり茹でると相当に柔らかくなるので、フォークを使えば、確かに驚くほど簡単にイモはマッシュできた。初めてだと、こんなことでもどうしていいのかわからなくなってしまう。そして、ホークがこんな風に調理器具としても使えることも初めて経験できた。
このつぶしたイモにまず酢を加えて、それからつぶしたゆで卵や野菜の薄切りなどを加え、マヨネーズと塩コショウで味付けする。人によってはハムを入れたり、マカロニを入れたりもする。実はゆで卵が必要なことに最初は気がつかなかった。やっぱり何事も一度やってみないとわかりません。
しかし、多少、面倒ではあるけれど、手順さえ覚えれば必ずしも複雑な料理ではないと思った。ただ、酢とマヨネーズの割合とか、塩コショウの量とか、味付けが難しいと感じた。自分で初めて作ったポテトサラダはこれまでうまいと思って食べたポテトサラダの水準にはまだまだ届かなかった。手順が難しいというより、食材や調味料のバランスが難しい気がした。ジャガイモを使う人気料理として肉じゃががあり、これも最近、初めて作ってみたのだったが、味付けの点で肉じゃがよりもポテトサラダの方が初心者には難しいのではないかと思う。
調理の際に料理サイトのレシピを参照したのだが(といってもそれぞれの分量はレシピ通りではなく、適当にやりました)、注意書きとして、ニンジンはできるだけ薄く切ること、とあった。実際、薄く切ろうとしたが、まだまだニンジンが厚みがあったので食感として過去に食べた美味しいポテトサラダに届かなかった。こういうことが意識せずとも肉体のレベルで瞬時に配慮出来て、微妙な味わいまで制御できるようになるには時間がかかるのだろうが、自分にとっては反省も兼ねて、よい機会になった。こうして一度、試しに自分で作ってみると、スーパーやコンビニなどで目にする総菜も今までとは違った目で見ている自分に気づくのである。それらはすべて料理の勉強の参考になっているからだ。
※原田理シェフはフランス料理のシェフでコラムも寄稿いただいています。現在、長野県の観光ホテルの総料理長をしています。 ・「嬬恋村のフランス料理」6 デザートの喜び 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509051733346 ・「嬬恋村のフランス料理」11 我らのサンドイッチ 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201511271650435 ・リゾートホテル蓼科の高原キッチンで 1 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202005031559420
村上良太
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