米大統領選の候補者によるTV討論は3回行われるが、副大統領同士のTV討論はその間、一度だけ行われる。今年は現職の副大統領マイク・ペンス対カマラ・ハリスのディベートである。行われたのはユタ州で、10月7日(水曜)の午後9時から。マイク・ペンスは共和党の保守派として知られ、派手好みで感情的に表現するトランプ大統領とは対照的に冷静な話し方をする。異色の共和党政治家トランプとは異なり、いかにも共和党らしい政治家であり、ペンスは共和党へのスポンサーたちがトランプにつけたお目付け役である。
一方、カマラ・ハリスは母はインド系の学者、父はジャマイカ系の学者でともに有色人種であり、彼女は人種対立が先鋭化した米国において、融和の象徴としてバイデン候補に副大統領候補として抜擢された。今回のディベートでカマラ・ハリスの話し方を見ると、一種の余裕すら感じさせる逞しさがある。その余裕は恐らくカリフォルニア州で検察官をして、裁判所で今回のディベートにも通じるようなやり取りを職業的にしてきたのではないか、と感じさせる。つまり、ジャッジを前にして、立場の異なる相手と議論することに慣れているらしいことだ。上院議員に選出される前はカリフォルニア州の司法長官(州の検事総長)まで上り詰めている。
司会はUSAトゥデイの女性記者、スーザン・ぺイジで仕切りは巧みである。最初の質問はCOVID-19がなぜ米国でこれほど広がったかということと、次期政権はこの感染症に対してどんな手を打つか、ということだ。マイク・ペンスはスーザン・ページの質問にできるだけストレートに答えず、いかにトランプ大統領たちが全力を尽くしてきたか、いかに初期に中国からの旅行禁止というかつてない措置に踏み切ったか、さらにワクチンの開発につとめたかと語る。一方、カマラ・ハリスはそれらが結局は効果がなかった、とやり返す。さらにボブ・ウッドワードの新刊書「憤り」に書かれているようにトランプ大統領たちはCOVID-19の脅威を知りつつ米国民に隠していたことを強調した。一方、ペンスはもし私たちが初期に手を打っていなかったら220万人が犠牲になっていたであろうと語り、さらに、バイデンが副大統領だった2009年のオバマ大統領時代に蔓延した豚インフルエンザには6千万人が感染したが、もしあれがCOVID-19ほど致命的な病気だったら、どれほど恐ろしい事態になっていたか・・・などなど。 その一方で、ペンス副大統領は、<なぜ11日前に(ホワイトハウスの)ローズガーデンで行われたトランプ大統領らの集会で適切な距離すら取られずマスクも少なく、その結果、COVID-19のクラスターとなったが、手本を示すべきホワイトハウスがこれではどうなのか?>というスーザン・ペイジの質問は無視して関係ないことを話し続けた。その時、カマラ・ハリスはにやにや笑っていた。
副大統領同士のディベートは予想以上に面白い。大統領同士の討論よりも面白い。司会者のスーザン・ページの質問も端的で鋭い。そして、印象に残るのはカマラ・ハリスの逞しさであり、そこには政治家になった強い動機があることが感じられる。二世議員や三世議員やそれらの毛並みの良い政治家の太鼓持ちがはびこる日本の政界に乏しい何かだ。ハリスは少女時代、母に連れられて母の祖国のインドを訪れ、その時、インドの独立運動に携わった先祖について知ったとされる。そこにカマラ・ハリスは根を感じたのだろう。その家族の歴史は、同じく大英帝国の植民地だった米国の歴史、さらには米憲法制定の歴史と重なるものだ。そういう意味では深い水脈がある。
※The full 2020 vice presidential debate(PBS)
https://www.youtube.com/watch?v=GonXpUbJbz4 会場はソルトレイクシティのユタ大学である。
※CNNは以下の解説を掲載している。ペンスが司会のスーザン・ページの質問にきちんと答えず、いかに自分が語りたいことに終始したかについて触れている。読むと、本邦の政治家の答弁を思い出させるような指摘である。
「5 takeaways from the vice presidential debate between Kamala Harris and Mike Pence」
「If Pence isn't exactly known for providing forthright answers to questions in interviews or press conferences, his avoidance of answering moderator Susan Page of USA Today's questions on Wednesday seemed to reach new levels of evasion. At moments he appeared to be debating on a different planet, providing answers to questions he wanted to answer rather than the ones posed. 」
(ペンスがインタビューや記者会見の際にストレートな答えを出さない政治家だとしても、水曜日に、司会者であるUSAトゥデイのスーザン・ページの質問を避けた様子はそうしたペンスの逃げの姿勢のピークと言ってよいだろう。あたかも別の惑星で討論しているかのように、聞かれたことへの「答え」ではなく、自分が話したい「答え」を話した)
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