9月に新型コロナウイルスに夫婦で感染し、軍の病院で治療を受けていたトランプ大統領がホワイトハウスに戻り、大統領選に復帰した。復帰後のトランプ大統領の選挙集会などの一連の映像を見ていると、トランプ大統領が支持を集めつつある印象を受ける。世論調査では夏以来、一定して民主党候補のバイデン元副大統領が10%近くリードしてきたが、2016年の選挙でも開票までヒラリー・クリントン候補の勝利を各紙が予想していたことを忘れてはなるまい。おそらくトランプ大統領の支持層は世論調査でつかみにくい層なのだ。
ヒラリー・クリントン嫌いの民主党シンパがヒラリーへの投票を避けたような前回の選挙に比べて、今回は民主党支持層がバイデン候補に一本化できている。それでも帰ってきたトランプ大統領の映像を見ていると、バイデン候補にはない要素がトランプ大統領にはある。それはカリスマなのだ。病を経て、トランプ大統領は一層、乗りに乗って言いたいことを言っているように見える。その話がなんとなく耳に響いてくるのである。マスクをせず、集会を開いて、感染して生死の境をさまよう・・・冷静に見れば大統領としては愚かだ。しかし、ジョージ・W・ブッシュ大統領を米国民が2度選出したように、たとえ愚かでも逆にだからこそ、どこか憎めない、という印象を醸している。愚かでも、一貫してアメリカが一番だ、と言い続ける大統領に、引き寄せられてしまう人は多いのではないか。
さらに新型コロナウイルスに席巻される前の米国は失業率3.5%で、50年間で最低を記録していた、ということもトランプ陣営には大きな要素だろう。確かに最低賃金が上がらないと職につけても生活の厳しさは変わらない。それでも、失業率がこれほど下がったことは大きなポイントではある。そして、現在、トランプ陣営は最高裁判事に超保守派の法律家を据える手続きを上院でしており、もし選挙前に彼女が判事に承認されれば、オバマケアと呼ばれるオバマ大統領時代の医療保険制度が違憲となり、つぶされてしまう可能性がある。これは一種の民主党支持者の意気を削ぐ心理的な効果もあるだろう。
ペンシルバニア州での共和党の選挙集会で、トランプ大統領は演壇の後ろに若い美女たちを集め、TVカメラは常に彼女たちがMAGA=Make America Great Againの頭文字が刻まれたマスクをつけ、時々、「Women for Trump」という紙のボードを掲げるのを目にする。話の内容はアメリカを社会主義にしてはならない(これはオバマケアへの批判でもある)とか、中国の商品の流入に対する批判、さらに移民の脅威など、2016年と基本的には変わらない。COVID-19から生還したことで、トランプ大統領の言葉が再び、新鮮味を帯びて聞こえてくるのが不思議だ。さらに、予定されていた10月15日のバイデン候補とのTVディベートがバーチャルでは意味がないと蹴り、バイデン候補が相対的に見えにくくなった印象がある。そういう意味で、新型コロナウイルスに感染したことで、トランプ大統領がメディアで一層、存在感を増す、ということに否応なしになっている。
こう見た時に9月前半まで勝ちムードになっていたバイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領のチームは、風向きの変化にうまく対応して、注目を奪い返す必要がある。彼らはいかに世論調査がこれまで高かったとしても、有利な現職大統領の座を追う立場であることには変わりがない。
※US election 2020 polls: Who is ahead - Trump or Biden?(BBC)
https://www.bbc.com/news/election-us-2020-53657174 BBCの最近の報道では依然、バイデン候補が10%の差をつけてリードしている。特に、選挙の死命を制するアイオワやミシガン、フロリダなどの激戦州でバイデン候補がリードを保っている。
※Donald Trump Town Hall With Voters | Election 2020 | NBC News
https://www.youtube.com/watch?v=Y5yUnUxpr_g 激戦州のフロリダのタウンホール集会でNBC・TVインタビューを受けるトランプ大統領。バイデン候補もこの日、別の州で別のネットワークのTVインタビューを受けた。
※フロリダ州のトランプ大統領選挙集会(FOX New)
https://www.youtube.com/watch?v=PWTb4r7h9ew
※Watch ABC News Joe Biden Town Hall in Philadelphia Moderated by George Stephanopoulos (ABC)
https://www.youtube.com/watch?v=9ZZzfrapNvo バイデン候補のフィラデルフィア州のタウンホールでのインタビュー。1時間あたりから。
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