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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2020年10月19日14時03分掲載
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文化
[核を詠う](314)『火幻40周年記念合同歌集・火幻の光』より原子力詠を読む(1)「あやまてるみちをきそいて進みゆく核大国のゆくてとどめむ」 山崎芳彦
前回から筆者の事情によって長い間を空けてしまったが、今回から『火幻40週記念合同歌集』(平成9年7月、火幻短歌会発行)から原子力詠を読ませていただく。広島の短歌結社「火幻」(主催・豊田清史 故人)はすでに2012年に終刊となり、豊田氏は2010年に亡くなっている。その火幻短歌会が遺した、結社の合同歌集としてはまれにみる655頁の大冊を、知人から寄贈して頂いた。故・豊田清史氏は原爆被爆者であり、『歌集廣島』の刊行委員として大きな役割を果たした著名な歌人であるが、日本文学の原爆小説の名作として知られる井伏鱒二の『黒い雨』に対して、その資料となった「重松日記」にかかわって、かなり激しく強硬で執拗な批判を行い『『黒い雨』と「重松日記」』などの著書を残していることでも知られている。その彼の井伏批判に対する反批判は広範から大きい。また、正田篠江の原爆歌集の嚆矢とも評される『さんげ』に対して否定的な評価をしたことなどについての批判も多いことなど、かなり独特な存在ではある。筆者はその詳細についての知識を持たないのだが、火幻短歌会には多くの広島歌人が参加して長期にわたって結社を維持しそれぞれの会員が詠い遺した作品を収載した『火幻40周年記念合同歌集』は貴重であると思う。
この合同歌集には330人の会員の作品が収録されているが、広島の原爆被爆者も多いと考えられる。合同歌集の「はじめに」に豊田清史は「ヒロシマに短歌の実作をする場合、お互いの日常生活を、ただ漫然と詠むのではいけない。こうした自覚にも似た思いをもって、四十年前の一九五八年(昭和三十三年秋)十一月一日に創刊したのが、わが火幻であった。」、「(火幻の)火は広島の原爆の惨禍の火、幻は詩、イリュージョン、つまりお互いにヒロシマの原爆を忘れず、鋭い詩のある歌をつくっていこう。この誓いのもと,〈火幻のことば〉として、毎号四十年間巻頭に掲げてきたのが、次の言葉であった。(略)/つまり、一口に言って、わが火幻は『人間性の追求』を標榜して来た。」
さらに、「廣島歌壇でも誰言うとなく"火幻調"という声をもって風評されるようになった。この意味では、『火幻の歌は他誌と違って、寝ころんでは読めない。屹とした会員の心と眼がそこにある』といったありがたい評価であった」とまで記している。自負の強烈さがうかがわれる。
その「火幻」の会員による作品を合同歌集から原子力詠抄出して読んでいく。なお、特別会員の作品も収録されている。
ひとときをたのしみおれどこれでよきか核の危うさ迫りてあるに いくばくの我がいのちなる生くるまに核なき世界のもと拓(ひら)きたし 重き荷を棄て得ぬはわれのさだめなり原爆の日を生きてのこりし 人類は生くべかりけりその故にささげ捨つべきいのちならずや 抵抗の心ゆるめじあやまてる核権力のゆくてみつめて あやまてるみちをきそいて進みゆく核大国のゆくてとどめむ いまはただ生きの日つくし反核のみちひとすじに生くべかりけり (7首 森瀧市郎)
名聞(みょうもん)を捨てし念仏の『御同朋』に福島病院も通えりと念う 被爆者の韓国の老母(おばあ)さんと同室のベッドに語らい和みし日々を (2首 日山龍登)
国のためと戒め堪えし妻子らも原爆の灰と散り果てにける 生けるものみな死に絶えし広島のもなかにて佇てば月見草咲く 七十五年住めぬと言いし広島の焼野が原に草の芽の見ゆ (3首 山本 巌)
被爆せる母を尋ねて彷徨いし夫病みつつも傘寿を迎う 母子草堤に揺らげり不意に顕つ爆死の友よ愛でしこの花 原爆忌迎え消えざる水欲りし友の声浮く胸きりきりと (3首 朝枝冨士枝)
児童(こ)におされ原爆資料館を遊泳す唯見る人の表情(かお)ばかり看て 茶に変わるノートにのみ生くヒロシマの孤児(こ)虫干(ほし)ごとに年数えみる 泣く哭く無く辞書の文字を拾い写す八月六日に当てる文字「無く」 「ピカ・ドン」一発の業火(ひ)に夭死せし一人ひとり名前叫びたしこの夕映えは (3首 浅野智恵子)
水欲りて爆死幾万の人思う平和公園の豊かな噴水 仏国の三度行う核実験地底の悲鳴が耳朶打つ真夜を 百四十一周地球をめぐりし若田さん核の汚染度見届けたるや 爆死せる地下のみ魂を踏みて舞うフラワーFFに心沈む日 夏めぐるたび児らに惨状語るため被爆者の夫は肩おとし発つ (5首 浅原春枝)
チェルノブイリの若き消防士そのあどけなさ残りし瞳今はいずこに (荒川五百重)
八・六忌怨み流さじヒロシマの川焼かれし無辜の水欲りし霊の 酸性雨核実験に爛れゆく青き地表のはだえに怯ゆ (2首 有川武典)
空襲警報解除となりて開く窓閃光見たり八月六日 (伊吉敏子)
手に入れし原子の火もて自らを灼く人類の兇気といわん (伊集院督正)
被爆死の君の面影偲びつつ静かに祈る八月六日 (石川キミコ)
仏面を刻めるえにし思いおり広島の五十年魂鎮まれと 百万羽の折鶴を率て天翔ける君のみ霊よ天に安かれ(故北川愛子様) 五十年いまだ癒えざる広島の業(ごう)継ぐごとし神戸激震 原爆の記憶まざまざ目交にテレビは見する紅蓮の炎 (4首 石川乃婦子)
被爆され死後の地獄と生き地獄なまなまと詠まれし爆前爆後 (石井寿子)
反核告発地底つき抜く思いにてひたすら座せり嗚呼森瀧市郎先生 (石田操子)
ヒロシマに原爆投下されしより核冷戦が始まるを知る (井澤紀美子)
星月夜ゴッホの描きし糸杉はおめでたかりし核兵器を知らず いましめの虚しきことを壁に見せ原爆ドームは何を語るか あって良きか被爆詠への第三者北鮮すでに核を持ちおり わが祖先の墓に葬るを拒みたる弁護士はあり爆死の墓標 核実験一千回で停止して三十七回に見習えという 原爆の悲惨にうめく資料館サダコの二羽に今ひかり射せ(米国への遺品貸与) 国論を分けて相食む民族の背骨よ何処被爆の血潮 (7首 泉田千蔵)
ドームの雪つめたく積もるこの下に埋もりし子たちは夏衣のままに 蛆とりてやれば泪は頬つたうくぐもりし声に子を呼びて死す 吾が子ふたり戦に亡くせし母なるに核廃絶の署名を拒む したたかに反核を生きん地を穿ち執念くつづく群なせる蟻 君の死体焼きしはここぞ校庭にひぐらしの声ことしも激し 生き抜きてこの両の眼にたしかめん核廃絶の証をしかと 「黒き雨」残しし重松老人の記録を読めば胸のあつかり 原爆が生みし差別のむごきさま日記に残せり被爆者重松 (8首 市岡正憲)
原爆病院の玄関に香るささゆり初診のわれに心やわらぐ 簡単に手術受けし切り傷が鏡に写る百足ごとし (2首 井上和子)
人権を守ろう核の被害者へ命愛しく生きようものを (今井文枝)
正座して唱える経文声高く被爆の傷を撫で生きる夫 五十年身に深く持つ原爆症生きて有る夫尊き命 ケロイドも今をし生きる幸せと被爆二世の子等健やかを 爆心地語りし人も老深く夫もその中無言な八十路 五十年男盛りが想われる爆死の甥は生後2ヶ月 雪の道被爆死の娘を語る老涙ぬぐわず杖ふるわせつ 帰りしと敷居見つめて安らいて十日目に逝きし十六の学徒 姿なく葬りました被爆墓戦争知らぬ若き僧訪う 血に染みし土も舗装に包まれて広島繁華に呻く魂 血に染みし被爆の魂甦えり柳並木に芽がゆらぎおり (10首 今明静代)
武装して反核叫ぶ愚を辞めよ、武装を解きて中立宣言 (有良佳寿)
真日返す幾千万の楠の葉は反核に燃ゆ瞳とぞ見ゆ 「ひろしま」がむなしく頻りに語られる八月六日は耳廃いて居る 引き取りてなく祀らるる七万余柱の遺骨残りいる無明とや言わん (3首 上田 弘)
ヒロシマはキノコの雲に焼き裂かれ混合列車は地獄引き来し 広島に五十年目の秋が来て核廃絶のモズ鳴きしきる 冬空のせめぎあう雲フランスへ核廃絶の声はとどけよ ヒロシマの五十一年目の炎昼を反核かかげ孫らと歩む 御身もて厳寒酷暑のただ中を平和公園に祈りは深し(森瀧老師を悼む) 炎昼を「明倫院学誉反核市徳居士」の魂鎮まれる尾関山の地に (6首 上野正人)
原爆に死にていたれば子も孫も業も無きかと茶碗を洗う (上谷宮子)
放射能を浴びたる臓器遣い切りい被爆五十年に父は逝きたり (小笠原輝仁子)
忘れ得ぬ呉水雷部にて見き舞い揚がる広島方向空にキノコ雲 人類の又招き悲惨原爆は世紀を越えて人類の敵 (2首 小川改三)
次回も『火幻四十周年記年合同歌集』の原子力詠を読む。 (つづく)
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