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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2020年10月28日15時38分掲載
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文化
【核を詠う】(315)『火幻四十周年記念合同歌集・火幻の光』の原子力詠を読む(2)「驕りたる核権力に媚びる輩正しき怒り持ちて許さじ」 山崎芳彦
前回に引き続き『火幻四十周年記念合同歌集』から原子力詠を読むが、原爆投下による悲惨を身を以て体験し苦難きわまる生活を強いられた広島の歌人の作品は、再びの核戦争を世界のどこであっても起こしてはならないと願い、そのために詠い、たたかう決意を明らかにする歌が数多い。この合同歌集は平成9年(1997年)に刊行されたものだが、その作品は、いまこそ現実の原子力、核兵器をめぐる状況を考えると生きていると思う。
この国の政府は米国の核の傘の下にあることを安全保障の絶対条件として、原子力・核兵器にかかわる政策をとりつづけている。国連の核兵器禁止条約に批准する国・地域が条約発効の条件を満たす50カ国・地域に達し来年1月22日に発効することになっている中で、菅政権は安倍前政権に続き核兵器の開発・製造・保有・使用などを全面的に禁止する 核禁止条約から距離を置く姿勢を鮮明にしている。米国のトランプ政権は、こともあろうに、核兵器禁止条約に批准した国々に批准を取り下げることを強要し、圧力をかけている。日本の被爆者だけでなく多くの人々の国連の核兵器禁止条約への批准を求める要求に背を向け、核兵器を「力」に国際社会を支配することを維持しようとする米国に追従する日本政府・菅政権は許し難い。
火幻の合同歌集の作品を読んでいく。
わが胸をはなるることなき八月忌夾竹桃はまた巡り咲く 被爆して早や三十七年めぐりきつ残りすくなき身に思い深む 被爆の身灼かれし咽喉時おりに血を吐きつつも今も生きつぐ あの友も又この人も逝きませしヒロシマを生きやがて西の浄土へ 中東戦争テレビ映像写せども被爆の悲惨とは比較にならず 四十六年立ちし今なお被爆の悲惨眼の中灼きつく (6首 小田アヤ子)
反核の座り込みなす人の前を伏目に過ぎつ負目もつごと (小田好子)
砂利置場に「ピカドン」に果てし人幾体も焼きし兄いま白骨となる (小田雪雄)
原爆の街広島に里帰りしたるボストンの屏風絵淡きひかりに息吹く (小野のぶ江)
炎の中を背負いて逃げし幼子のぬくみ未だも消えず生きおり 除草剤まき行く足元に泳ぎいるおたまじゃくしに核実験おもう 原爆に逝きし恩師と友をしのびこよい寂かに三誓偈よむ 黙禱のサイレン鳴れば爆死したる友の笑顔がまた甦る 虫干さる原爆死没者名簿に恩師と友の名もあらん 彼岸花なぎ倒しゆくたまゆらを八月六日のヒロシマがたつ 原爆で別れし友のつぶやきぬ交りうすきマンションの日日を 生きのびし被爆の身をば語りし友よ鉄路の露と何故急ぎたる (8首 枝松きみ子)
被爆して五十一年癒ゆるなく夫の脳裏に疼く惨劇 異常とも思える程に夫口調ゆがめて語る原爆の惨 爆死者の焼かるる異臭八月の練兵場にて夫幾晩も臭いし 罪人のごとく怒声浴びせられようやく受けし夫の被爆者手帳 原爆忌巡り来たれば爆死者の無念をふかく蟬鳴きたつる 被爆して死にたる姑の五十回忌済みて桜のつぼみ膨らむ 財成していかに豊かに暮らすとも被爆者伯母未だ病みつぐ (7首 大下藤子)
爆心地より四十粁隔たるわが頭上不気味なる閃光八時十五分 田草取る吾にも核の光あり不安の中にも田草取り続く 農夫等は速足なりしか脚絆巻き被爆者救援にと広島に駆く 病院も薬も無くて火傷あと蛆虫湧きしと云うを身震いし聞きぬ 径も無く電車もあらぬ瓦礫の中赤ん坊背負いて夫と歩めり 見渡す限り崩壊の瓦礫の中にドームのみ立つ広島の跡 瓦礫に埋もる一望に彩とては無し赤錆びし川辺のトタン小屋 武運なく原爆に遭いし君頬に大きく火傷あと持てり 戦は終って既に五十年再核戦争のあってはならず背負いし吾子は大学教授ともなれり (9首 太田きくみ)
ずさんにも核物質を密輸する国憂いおるに受くる国あり (大中嘉美)
一瞬にして化石となりて死にゆきし霊をば思う原爆忌来る 灼熱に身を晒し聳つドームの膚えは確と青草の萌ゆ 「爆前爆後」つぶさに夜毎読み返す夜半鋭くほととぎす聞く (3首 追林公子)
反核の先達となりて百歳を貫きし人日達上人 驕りたる核権力に媚びる輩正しき怒りを持ちてゆるさじ 慰霊碑の玉砂利ひろぐる虫干しの過去帳厚し被爆四十年 ゆらゆらと川面に浮かぶ原爆に命落としし幼友達の顔 人類は生きねばならずこの星を死の惑星にすまじきものを 松の樹皮のごと盛りあがるケロイドを人目に晒しし「原爆一号」逝く 原爆瓦みつめてをれば聞こえくる業火に焼かれし断末魔の叫び 事前協議無き故に持ち込みなしと言う子ども騙しの非核三原則 (8首 長田三郎)
五十一年悲惨消えざる原爆の犠牲のいたましさ孫にきかせつ (梶谷スズヨ)
祈り熱く核廃絶の声満ちて世界へ響け広島の声 原爆の惨うすれゆく広島に逝きしみ霊の慟哭を聞く 死をさまよい生かされし命とケロイドの口元歪め語れり友は (梶山初枝)
「鶴を折りつつなぜ死んだ」主幹の叫びにも似た反核手記胸深く読む 「禎子よもう一度この胸に」母ふじ子さんの手記に涙胸つく 被爆の身耐えて五十一年尽くされし主宰の遺業実りて波打つ 「爆前爆後」読み師の痛み知り原爆を恨み戦争を憎む 森瀧氏風雨にもめげず泰然と座されしお姿眼裏去らず 人命を鴻毛より軽しと死なしし五十年後オウムに命抛つ若き等 花火は原爆を思い出すから厭と愛児を死なせし友は目を伏す (7首 片山いづみ)
三十年生きて眉間のケロイドの傷むらさきに母は老いたり 瓦礫なす街より生いしヒロシマの木の間を揺るる褐色の月 (2首 角谷美代子)
「爆前爆後」供華として読まん被爆死の義兄五十年忌の沙汰も絶えいて 被爆寡婦おとこまさりと名ざされて老いたる姉が得たるリュウマチ 関節のなべて曲りし身を耐えて被爆の惨も伝えず逝きぬ 被爆まぎらす労働にただ過ぎしと言う老いのカルテの肺腑に沁みる 渦まける怒涛に沈むつぶてとも反核にに連ねし署名を思う 核に灼かれし死霊よ甦れ、輪廻、流転、転生信じて待つ八、六、忌 故国の内外(うちと)に撒かれし民の裔なれば戦ゆるさず核ゆるすまじ (7首 金田春子)
訴えん核廃絶とヒロシマを風化させまいしっかり刻む (金元千代香)
核持ち込み隠されている列島に危うき平和の年明けてゆく (川野雅代)
瓦礫より生命危うく這い出でて修羅の半生を越えましし父 肉深くガラスくい入り焼け爛れし肌の窪みに蛆虫犇く 亡霊にあらず肌灼きシャツ垂れて闇に呆たり弟の足どり 原型をとどめぬ程に顔腫れて死線越えし汝十六歳なりき 首筋にケロイドあらわなる弟よ肝病みて夏を痩せ細りたり 父と弟灼かれて無慙な身を並べひもじき日々を母看取りたり ケロイドの烙印深かりし父、弟安らぎていん核なき浄土に 一片の骨なき叔父のみ墓なり被爆死五十年骨は何処に (8首 木原芳枝)
核実験の狂気尽きざる蒼天を幾万の梅の蕾するどし (木村佐和子)
核兵器地球に残存せるうつつ累卵の上に座する心地する (木村房子)
八月六日蓮田に花のゆるむ刻閃光間もなく業火燃えさかりつ 「気だるい」と出したる腕にアザ三点原爆は乙女の血管をちぎる 三日後に屍あまたその中に蝋人形に見えし乙女の顔あり 閃光の骨の髄まで焦がしたる核の魔力が眼に沁み入りぬ 水欲れど水も風も濁りし中を命果てゆく人数多なり 平和公園五月の風に鶴の羽根やさしく揺るるを少女と見たき 幾千羽に託して折りゆく少女の願い夜霧つめたく羽根よりこぼる 何一つ薬の効かぬ被爆者あわれ夏の病床どくだみをのむ 水を求め河に入りて果てしなりいまその河面かもめ遊びいし 原爆に屍沈めしこの河に日立は早く五十年なり 夜景燃えまぶしき程のヒロシマの街焼かれし幾十万の命忘れず 焼け残りし夾竹桃花咲く日ありしかと気使いし日思いおり 原爆の光にすくみしこの足で比治山の展望鏡の前に佇つ 被爆なる定期検診列長く核との戦いまだ止まぬざり ビルの間を黙して建ちいし原爆ドーム未だ平和は遥かと向きおり (15首 木下月美)
受け持ちし集団疎開児八人が哭き崩れたる八・六忌くる (菊山さかえ)
次回も『火幻四十周年合同歌集』の原子力詠を読む。 (つづく)
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