大接戦だった米大統領選ですが、バイデン候補(民主党)がトランプ大統領を破って第46代米大統領に選出されました。トランプ陣営が選挙方法をめぐって法廷闘争をしていますが、NBCやCNN、CBSなど米主要メディアがすでにバイデン候補の勝利を報じています。
今回の米大統領選はCOVID-19の最中の異例の選挙で、しかも、その影響下で警官に黒人が殺される事件を契機に、黒人の人権を尊重せよ、というBLM運動が広がりました。COVID-19のための経営危機でまっさきに解雇される黒人たちの不満が爆発しかけました。この経験は米国民にはデジャビュ的なものでした。1960年代の公民権運動です。でも、その時の人種的な軋轢がきっかけとなって、それまで民主党の地盤で会った米南部が共和党に奪われることになり、以後、レーガン大統領らを生む培養土と化したと言われています(※下のカリフォルニア大学バークレー校名誉教授ジェローム・カラベル氏のテキスト「民主党の敗北」をぜひお読みください)。今回の選挙ではバイデン候補が怒りを直接人種的な暴動に転嫁せず、政治的変革につなげて欲しいというメッセージを出してきました。
今、バイデン氏はトランプ候補に投票した人々にも語りかけ、「今こそ、互いに機会を与えあおう。激しい言葉の応酬をやめて、熱を冷まそう。互いに見つめ合い、耳を傾けあおう。前進しよう。私たちは敵ではない。みんなアメリカ人なのだ!」と言っています。この言葉はまさに2008年のオバマ大統領の勝利へのレトリックの反復と言えるものです。人種や出自の違いで、米国民の分断を図って選挙で勝とうとしたトランプ陣営への回答と言えるものでしょう。
2016年のヒラリー・クリントン候補の敗北の分析や2000年の米大統領選の波乱のケースも含めて、今回の民主党は過去の歴史からよく学んで、その経験をプラスにしたという印象を受けました。特に南部のジョージア州でバイデン候補が逆転したことや、前回トランプ陣営の勝因となった中西部で健闘したことはその象徴に思えます。歴史から学ぶことの大切さを実証したのが今回の米大統領選だったと思います。
それとマイケル・ムーア監督がNBCの番組で投票日の直前にバイデン候補の大リード報道に冷や水をかけ、相当の接戦であることを視聴者に伝えたことも印象深いものでした。ムーア監督は2016年の選挙でも中西部のラストベルトで民主党が票をトランプ陣営に奪われて敗れるであろうことを予測していました。ムーア監督は正確な情報源と鋭い知性を持っています。
さらに1つ付け加えるならば、オハイオ州を制する者が米大統領の座を制する、という政治的ジンクスが崩壊したことです。これは歴史は常に覆される、ということを伝えています。もしジンクスが常に当たるならば、黒人系のオバマ氏が大統領に選出されることもなかったのです。過去にそのようなことは米国史で一度もなかったわけですから。歴史から学ぶことも大切ですが、常に新しいプレイヤーたちによって新しい歴史が作られることも忘れてはならないことでしょう。歴史に胡坐をかくことはできないのです。
■今年の米大統領選はアメリカ人の政治的復元力が見える選挙 〜鍵は最高裁判事のバランスに対する米国人の見方〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202010302345585
■マイケル・ムーア監督曰く、バイデンのリードは半分に割り引いてみるのが正しい 「世論調査でトランプ支持の数字は常に低めに出てくる」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202010312220586
■ミネアポリスの警官による黒人の殺害、暴動 そしてバイデン大統領候補の声明
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202005311405150
■「Democratic Debacle 民主党の敗北」The defeat of Hillary Clinton was a consequence of a political crisis with roots extending back to 1964. ヒラリー・クリントンの敗北の根っこは1964年に遡る ジェローム・カラベル(社会学)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202002290302266
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