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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2020年12月07日15時28分掲載
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文化
【核を詠う】(317)『火幻四十周年記念合同歌集』から原子力詠を読む(4)「反核の先頭行くは皆老いし被爆者の列よろめきにつつ」 山崎芳彦
前回に続いて『火幻四十周年記念合同歌集』から原子力詠を読み継ぐのだが、政府・電力大企業をはじめ原発維持推進勢力が、さまざまに原発再稼働への策動を強めていることに、強い警戒心を持たないではいられない。放射能汚染水の海洋放出の方針、使用済み核燃料の中間貯蔵施設「リサイクル燃料備蓄センター」(青森県むつ市)の新規制基準適合審査請求案の了承・2021年度の操業開始計画、高レベル放射性廃棄物の処分地選びに向けた第一段階の「文献調査」(北海道寿都町、神恵内村)の開始、女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働への村井宮城県知事の同意、老朽原発(40年超)の関西電力高浜原発1,2号機(福井県高浜町)、同美浜原発3号機の再稼働への動き…最近の報道を見ただけでも、原子力マフィアの動きを見のがすことはできない。コロナ禍に苦しめられ、原発禍の接近への警戒を迫られながら、『火幻』の原爆に関わる短歌作品を読み継いでいく。
「爆前爆後」一気に読みて胸痛み反核つよく自ずと正座をばする (高橋朝子)
スミソリアンの原爆めぐる齟齬のなか森瀧翁の反核ぞ顕つ 昼の蚊帳黒髪抜けし叔母の背のなに念いいし核は降らすな 核めぐる国際司法裁意見コップを掌にし水をみつむる 「ヒロシマ」世界へ届かず水求め彷徨う魂よ心し歌う(ピースウェーブコン サート96) 人間のおろかさ詩う三吉の旋律重く臓をし濡らす(バリトン益田遙氏) (5首 鷹野主輝波)
目くるめく夏は来にけり八月忌かの原子雲いずこに流る 生きの身を生きの身のまま灼き尽きて無念の象形を石に遺せり (2首 津村正名)
被爆地に無縁骨七万朽ちいつつ花よ祭りと人らは集う (常数雪枝)
松岡氏の手記「黒い蝶」15歳で逝かれし長女千代さんを悼む 迫りくる原爆の惨まなかいに戦慄強し手記「黒い蝶」 (2首 土居亀子)
〈ヒロシマに緑滴れ〉民喜の詩、こだまは空に墜ちて還らず はずみなるボタン戦争を夢に見し平和通りの鳳仙花熟る 千羽鶴折り成すいのり冷えびえと見つめてわれの血は過ぎんとす 耐えがたきを耐えて飢えたるヒロシマのわが母・父ら炎に焼かれ病む 誓いの宣言も仕組まれていくメランコリー"平和"の文字消えよヒロシマ 被爆二世の輩ら熱く核拒みし誓いも消えてミニコミにも載らず (6首 豊田啓文)
い照る陽の光も凍れ息しいる人間の膚に蛆食いこめり 焼けただれ逝きし一生(ひとよ)のうかららの十万億土夢虫時雨 まかがやく雲のヒロシマついになく祈りの碑のみ人らぬかずく 三十万この街むごく焼かれたる嗚咽を見ずや骨寂寞(じゃくまく)と 骨に声あれば叫ばんものを七万体累骨かくも朽ち果ててけり 蒼みつつかくは置かるる無縁骨冷え朽ちんとしてどれも痩せたり ヒロシマに無名の乗骨七万体、ちちははをもちてみな生れしに せせらぎの水韻ひとつ聴かせたく骨壺を抱くわがはかなごと 何もしてやれざりし吾子の死の際に銘仙を縫いて着せたる母ぞ まがつ火の迫れる瞬も百日紅寂かに白く咲き満ちいたり 黒雨(くろさめ)の広嶌むごく焼かれたる咽喉(のみど)の傷のいまだ疼くに 瞬息の一生むごく焼かれたる無縁仏ぞ仏にあらず 焼かれたる骨に誓わんそは一つ反核を貫き刻む実証 (13首 豊田清史)
核の恐怖権力亡者は持たざるや黄砂の風に見えざる放射能 新聞に被爆の証人探す記事五十一年の歳月重し 夫と子の骨無き墓に水注ぐ被爆老婆の八月六日 (3首 豊原国夫)
原爆に戦死の栄を得しと言うを想いつづける病臥の床に 戦死せし父は遠くにかすめども日課に遺児は水供えおる (2首 豊原ミサヨ)
灼熱の地獄をかいま見しゆえに脳外科への転科ひたに拒めり 原爆にあわざりしかと問われおり広島と言うにまず浮かぶこと (2首 内藤ゆきこ)
石棺に風の眠りとなる爆死者に五十年目の夏巡りくる ヒロシマに生まれずこの地に死ぬわれが薄もやの中歩きゆく影 わが一生灰色のまま終わらんかさんさん陽の降る八月六日 (3首 永井弘子)
いまわれに出来る一つは反核精神五十年目の八月六日 (中沢まき)
似島の四十年経し地の中に人馬の骨の区別さへつかず (中路さだ子)
核戦争の破滅忘れじその恐怖ひそみし平和の日日歩み生く 死者の群れ水漬きし川は歳月を潜めて蒼く木々映え流る 原爆の話題に触るれば口重し胸底深き地獄絵の街 うつろなる面もて兵士ら黙々とむくろ積み焼く炎天の中 焼け野原にこの世の終わりと思いつつ空ろに佇ちし夏めぐり来る 前住職の遺稿を打ちつつ涙いづ二児原爆死数行の筆書き (6首 中西雅子)
被爆の血を曳きて土寄す炎天に青葱の秀は鋭くも立つ 韓国被爆者に広島市長不在なり姿勢は施政につづけるものを 自らの信念をまげず撃たれたる本島市長の血痕鮮し 「助けて」と叫びし声に追われいるは幻聴ならずわれの一生に (4首 中元ミスエ)
学び舎へ通い慣れたし新橋の原爆に失せしも脳裡に鮮し 廃墟と化ししドーム仰ぎつ旧友は眼きびしく戦火語りつ 核戦争ぼっ発の兆し増す日々を老夫は軍律のごと今日も田草取る 雨の日の核廃絶座り込みに森瀧先生の痩身濡るるに微動なし (病床詠) 先制攻撃受くる可能の危惧はらむ「岩国の核」に戦慄走る (5首 中山敏枝)
八月も終りて友の墓地淋し白い灯籠日に晒されて (中原ナツヨ)
きのこ雲受け止めしドーム永世を地底さ迷う霊抱き立つ 幾曲り越えて生き来し被爆の身をまっすぐ降ろすエレベーターは 原爆の惨あざあざし世紀末を生きて遺さん反核の歌 (3首 西岡喜美子)
原爆の高熱に喘ぐわれを診し深き眸の色今も忘れず 炎の中にもの死に絶えしそのあとの日暮れも知らず夜明けも知らず 涼やかに白きチョゴリの裾ひきて白百合抱き慰霊碑に佇つ (3首 西谷悦子)
被爆者手帳隠し持たるる貴き身の豊田主幹の平癒ひた祈る (西山静子)
雲低く垂るるさ庭にドクダミのひときわ白し原爆忌迫る日 (萩原愛子)
あどけなき指に「平和の鶴」を折る少女の上にふる蝉しぐれ (橋川百代)
天主堂の壁一隅に残しまま緑の石碑は雨に光れり 十字架をひときわあかく染めぬきて長崎の鐘は今鳴りやみぬ 幾百の被爆者荼毘に付されしと言う郡山の竹林に北風ざわめく 半世紀を異郷の土に葬られし被爆者の遺骨に粉雪の舞う 五十年の時を隔ててあかされし被爆者の弔いに心わななく 一片の骨さえ拾う身内もなく無縁仏に氷雨降り注ぐ 映像に映し出されし骨片は黒ずみ朽ちて悲惨さ語る (7首 林 弘子)
被爆死の友とすすりし味噌汁の味と面影忘れず八・六日 原爆で全身やけどの青春は伴侶も求めず友は六十を越ゆ 落葉散る高暮のダムの水の面は犠牲者の叫びこもりて静もる 半世紀経ちてまみゆるクラス会涙にかすむ友の顔顔 黙とうの脳裡をよぎりし面影はあの日爆死の友十二歳 (5首 桧野梅代)
次回も『火幻短歌会40周年記念合同歌集』の作品を読む。
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