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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2021年02月15日11時32分掲載
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文化
【核を詠う】(322)朝日歌壇(2020年1月〜12月)から原子力詠を読む(1)「『ステイホーム』できずに避難した人が十六万人いた原発禍」 山崎芳彦
今回から朝日新聞の「朝日歌壇」に掲載された2020年1月〜12月(毎月4回)の入選作品から、原子力詠を抄出、記録したい。同歌壇の選者は佐佐木幸綱、馬場あき子、永田和宏、高野公彦の各氏で、膨大な応募作品から選者が各10首を入選作として選んでいるが、複数選者の共選作品もある。応募作品から、選者各氏が選んだ作品は多様多彩なテーマ、表現を持っているが、原子力詠、政治への批判、社会問題など、現在を生きる視点が鋭く深いと筆者は思いながら読んでいる。「原子力詠」という筆者の抄出の読みからいえば、2011年から10年を経るにつれて、入選作品はかなり少なくなっているが、昨年からのコロナ禍、安倍―菅政権の国民主権無視の政府の挙動、そして人々のさまざまな日々の生活を考えれば、さらに膨大な応募作品をのことを思えば、「原子力詠」の多寡を言うことはふさわしくないだろう。
今年1月24日付の歌壇・俳壇の面の「短歌時評」に「今も続く除染」と題して歌人・松村正直氏が、原発事故後の除染を詠った作品を紹介しながら、福島原発事故の核放射能拡散、その除染について書き「放射能汚染は長年にわたって残る。直接関わらない人々が忘れてしまった後もずっと続く問題なのだ。このところ、東京オリンピックについて、『人類がウイルスに打ち勝った証しとして』開催するといった話を耳にする。当初、震災からの復興を掲げていた時も違和感を覚えたが、さらに別の目標が追加されたのか。事故から十年が経とうとする今も、まだ除染は終わっていない。」 と述べている。
この時評の中で、松村氏は冒頭で、「このところ福島の歌人の歌集に印象深いものが多い。…どの歌集にも原発事故の影響が濃い」として、 「黙礼するにあらねどすこし目を伏せて道路除染の前を過ぎたり」(斉藤芳生(よしき) 歌集『花の渦』)
「除染なら三十年は仕事がある。食ひつぱぐれない。やらないか、除染。」(小林真代 歌集『Turf(ターフ)』
「置かれゐる黒き嚢はわたくしのそして誰かの庭だった土」(高木佳(よし)子 歌集『玄牝(げんぴん』)
「除染とて削(そ)ぎとらるるを野紺菊のむらさき深きその静ごころ」(波汐國芳 歌集『虎落笛(もがりぶえ』)
松村氏はこの4首を挙げて、「除染に関する歌が目にとまる。事故の後に広く使われるようになった言葉で、『生活する空間において受ける放射線の量を減らすために、放射性物質を取りのぞいたり、土で覆ったりすること』(環境省「除染情報サイト」)を意味する。…現在も除染は続いている。」とも記している。
福島の事故原発の廃炉作業は40年の目標を達成することは不可能、というより「廃炉」とは、「復興」とは何をもっていうのか。原発事故が人びとが生きる環境、生活、感性・感情のありようをどれほど深く傷つけたのか、これからも苦難を強いていくのか。核発電の継続を推進し、より核発電の危険性に人々をさらして、さらには国連の核兵器禁止条約に背を向けている原子力マフィアの企みの反人間性は許し難い。核発電を維持し、この国が核兵器を持つことさえ否定しない勢力が、政治・経済を支配していることを思えば、短歌人の詠う作品は貴重であろう。
朝日歌壇の入選作品から原子力を詠を読んでいく。
◇1月◇ 顔のきず皺(しわ)に隠して被爆せる友は逝きたり愚痴もいはずに (馬場選 西海市・原田 覚)
汚染水「アンダーコントロール」にて外界へでるか五輪後某日 (高野選 福島市・青木崇郎)
◇2月◇ 帰還などできぬ出来ぬと雉子(きじ)が鳴く被曝塗(まみ)れの雑木の田畑 (馬場選 いわき市・馬目弘平)
もはやここが「最終」なのか雪止まず無数のタンクとフレコンバッグ (高野選 朝霞市・青垣 進)
陽だまりの校門静かプレートに原発からの距離書かれおり (高野選 藤枝市・菊川香保理)
白椿咲くふくしまの墓じまひ終へてむなしき更地二坪 (高野・永田・佐佐木共選 国立市・半杭螢子)
町の未来は町に住まいて語らんと二月浪江に帰還(かえ)る友あり (佐佐木選 福島市・青木崇郎)
◇3月◇ 被爆せる母娘に水をやるために再び戻る白昼の夢へ (佐佐木選 西海市・原田 覚)
汚染とはホモサピエンスの問題て地球は何も困っておらぬ (高野選 松本市・馬木和彦)
人のなき町に残されが死までの牛のかじりし牛舎の柱 (馬場選 郡山市・渡辺良子)
この国が「想定外」に弱きことフクシマでもう知っていたのに (馬場・佐佐木共選 水戸市・中原千絵子)
原発の汚染の始末まだなのに水害に遭い肺炎が来る (馬場選 郡山市・柴崎 茂)
猪も原発事故も乗り超えしこの山畑に今別れ告ぐ (佐佐木選 仙台市・古谷隆男)
◇4月◇ 福島にむかしばなしの地名あり二本松市の字(あざ)隠れ里 (佐佐木選 福島県・大津英一)
廃炉には冥(くら)くて遠しと憂ひ詠む科学者歌人諏訪兼位(かねのり)氏逝く (馬場選 武蔵野市・三井一夫)
処理水を放てば風評必至なり浜人をまた苦しめる春 (佐佐木選 福島市・青木崇郎)
双葉駅のホームに太鼓鳴り響き九年ぶりに列車入りくる (佐佐木選 茂原市・上田辰年)
除染という殺戮ありし旧校地に花壇を逃れ咲けりムスカリ (佐佐木選 福島市・中村晋)
◇五月◇ さくらさくらさくらはららぐはなびらのうすさやひとのいのちのうすさ (永田選 福島市・美原凍子)
核兵器持つ大国も0.1ミクロンの敵にあたふたしをり (高野選 三原市・岡田独甫)
フクシマとオキナの感染者数 かずの向かうの暮らしをおもふ (高野選 北九州市・嶋津裕子)
◇6月◇ マスクして原発逃げた九年前皐月の空に今またマスク (馬場選 いわき市・馬目弘平)
「ステイホーム」できずに避難した人が十六万人いた原発禍 (高野選 福島市・青木崇郎)
次回も朝日歌壇入選作から原発絵を読む。 (つづく)
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