・読者登録
・団体購読のご案内
・「編集委員会会員」を募集
橋本勝21世紀風刺絵日記
記事スタイル
・コラム
・みる・よむ・きく
・インタビュー
・解説
・こぼれ話
特集
・教育
・文化
・アジア
・国際
・入管
・中国
・市民活動
・米国
・欧州
・みる・よむ・きく
・核・原子力
・検証・メディア
・反戦・平和
・外国人労働者
・司法
・国際
・農と食
・イスラエル/パレスチナ
・市民活動告知板
・人権/反差別/司法
・沖縄/日米安保
・難民
・医療/健康
・環境
・中東
提携・契約メディア
・AIニュース
・司法
・マニラ新聞
・TUP速報
・じゃかるた新聞
・Agence Global
・Japan Focus
・Foreign Policy In Focus
・星日報
Time Line
・2024年11月21日
・2024年11月20日
・2024年11月18日
・2024年11月17日
・2024年11月16日
・2024年11月15日
・2024年11月14日
・2024年11月13日
・2024年11月12日
・2024年11月11日
|
|
2021年05月05日20時15分掲載
無料記事
印刷用
検証・メディア
加害者や被害者の国籍によってマスメディアの人権に対する関心は変わるのか Bark at Illusions
大日本帝国時代の性奴隷被害者らが日本政府に対して損害賠償を求めた第二次訴訟で、韓国ソウル中央地裁は、日本政府が主張する「主権免除」を認め、原告の請求を却下した。日本では「主権免除」という国際慣習法を適用した今回の判決は「世界の常識に合致したものだ」(早稲田大学・萬歳寛之教授、朝日、21/4/22)などといった評価が主流になっているが、人権が重視される最近の風潮を考えると、人道に反する重大な人権侵害に対しては「主権免除」は適用できないと判断して原告の訴えを認めた今年1月の第一次訴訟の判決から、大きく後退したと言わざるを得ない。
「主権免除」とは、国家に対しては他国の裁判権に服することを免除するという国際法上の概念のことだが、人類の人権に対する考え方の進歩に伴い、その概念は変化している。かつては国家の全ての行為で裁判権を免除するという「絶対免除主義」が有力だったが、現在の国際社会では日本の最高裁判所(最高裁第二小法廷、06//7/21)も含め、国家の主権的行為以外の私法的・商業的な行為については免除を認めない「制限免除主義」が一般的だ。
またソウル中央地裁は、2015年の日韓合意が被害者の「救済手段」として有効だと認定したが、同合意は「慰安婦」問題解決のためと言いながら性奴隷被害者である元「慰安婦」の女性らは合意形成に参加しておらず、日本政府に対して誠実な「謝罪」と「賠償」を求めていた彼女らの意向は合意に反映されていない。従って、多くの被害者が合意に基づいて設立された財団の「支援金」を受け取っていると言っても、被害者は合意に「納得」して現金を受け取ったのではなく、日本政府が今後も謝罪や賠償をすることがないだろうという「諦め」の中で仕方なく受け取ったものと解するべきだろう。日韓合意によって被害者の女性らが救済されたとはとても思えない。実際、国連の女性差別撤廃委員会は2016年3月に公表した対日定期審査の「最終見解」で、日韓合意は「『被害者中心の立場に立ったアプローチが十分に取られていない』と指摘し、合意の履行に当たって元慰安婦らの意向に十分に配慮するよう勧告」している(毎日16/3/9)し、国連の強制的失踪委員会も2018年11月19日に公表した日本に対する審査の最終見解の中で、「慰安婦」問題が「『最終的かつ不可逆的に解決した』との日本政府の立場に遺憾の意を示」し、元「慰安婦」に対して「(強制的失踪防止)条約が定める適切な補償が十分に行われていない」と懸念を示している(共同18/11/20)。
今回のソウル中央地裁の判決は、人類の歴史に逆行する不当な判決だと評価すべきだろう。
大日本帝国時代の性奴隷制度の問題や「徴用工」など強制労働被害者の救済の問題は、今も未解決の問題だ。マスメディアのミスリード(日刊ベリタ、18/11/7、19/11/3などを参照)などによって、日本社会では日韓請求権協定(1965年)で問題は解決済みだと誤って認識されているが、国家間の条約で個人の請求権を消滅させることはできないというのが国際的な共通認識であり、同協定によって個人による請求権は消滅させることはできない。これは日本政府も認めていることで、例えば2018年11月14日の衆議院外務委員会で、当時外務大臣だった河野太郎は、日韓請求権協定によって
「個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」
と答弁している。
マスメディアに対しては、この問題でもっと被害者の人権に焦点を当てるよう求めたい。 中国やロシアのこととなると人権人権と騒ぎ立てるくせに、旧植民地の被害者の人権を問題にしたり、日本政府に批判的な立場をとると “反日” になるとでも考えているのか、日本のマスメディアは大日本帝国時代の強制労働の問題となると、被害者の人権にほとんど関心を示さない。 人権とは普遍的なものだ。それなのに、加害者が誰であるか、あるいは被害者の国籍によって、マスメディアの人権に対する関心の度合いが変わるのだろうか。
今回の判決でも被害者の人権救済にはほとんど関心を示さずせず、毎日新聞(21/4/22)や朝日新聞(21/4/23)の社説は、それぞれ「慰安婦訴訟の判決 日韓合意踏まえて前進を」とか「慰安婦訴訟 判決を機に本格対話を」などと述べて、これをきっかけに日韓関係の改善を図るべきだと主張している。「日韓関係の改善」と言っても、念頭にあるのは中国や朝鮮に対峙するための合衆国を軸とした軍事同盟の連携強化なのであって、強制労働被害者の救済問題を解決せずに関係改善など図れるのかという疑問も含めて、健全なものとは思えない。
第二次世界大戦後、それぞれの国家が繁栄の道を歩んできた中で、日韓国交正常化を経ても日本の植民地政策の被害者は救済されずに置き去りにされてきた。この理不尽を問うことが、この問題でジャーナリストに求められている仕事だろう。 中国やロシアの人権問題では熱心なマスメディアが、自国の犯した人権侵害に鈍感なのはとても残念なことだ。
|
転載について
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。
|
|
|