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2021年09月05日20時18分掲載
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“同盟” 強化のために日本はもっと米国に貢献する必要があると訴えかけるニュースウオッチ9 Bark at Illusions
アフガニスタンでのタリバンの復権と米軍の撤退は、米国の同盟国や友好国に対して「見捨てられる」のではないかとの懸念を与えているようだ。「強圧的な中国」と向き合う上で日本はどうすべきか。ニュースウオッチ9(21/8/20)は、中国との関係が冷え込むオーストラリアを例に、「中国との向き合い方」を探っている。ただし番組は “日米同盟” 強化の結論ありきで終始偏向しており、米中冷戦ムードを一層高めることにしか役立たない。
番組は米国のカマラ・ハリス副大統領の東南アジア訪問日程が決まったことを伝えることから始まる。和久田麻由子キャスターはその狙いについて、
「この地域へのアメリカの関与を強め、中国が南シナ海などで見せる強圧的な行動を抑え込むことです」
と説明しているが、北東アジアから太平洋を南下してオーストラリアへ、そしてさらにインド洋から中央アジアに至るまで、400以上軍事基地で中国を取り囲んでいる米国は、中国が交易を行う海域を封鎖するための軍事演習を行うなど、中国に軍事的圧力をかけ続けている(ジョン・ピルジャー、CounterPunch、20/8/4)。また米国は中国を念頭に日本やオーストラリアなどとの軍事演習を繰り返しているが、今年に入ってからはヨーロッパから西太平洋まで遥々軍艦を派遣してきたフランスや英国も交えて同海域での軍事演習を行っている。こうした米国とその同盟国の動きは「強圧的な行動」ではないのだろうか。和久田麻由子のこのような説明は、中国だけが「強圧的」で一方的に東アジアの緊張を高めているかのような印象を与える。
和久田キャスターの説明に続いて、田中正良キャスターが中国への「牽制の動きを強めている」のは米国と日本、インド、オーストラリアだと説明し、このうち中国との関係が冷え込んでいるオーストラリアは、「輸出品に高い関税をかけられるなど、経済分野を中心に狙い撃ちにされていると受け止めてい」ると指摘した後、ニュースウオッチ9は、オーストラリアと中国との関係を例に挙げて、日本とオーストラリアは米国との同盟関係を強化する必要がると訴えるオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)のピーター・ジェニングス所長の見解を紹介する。
ASPIと言えば、新疆ウイグル自治区で強制労働が行われていると主張していることで有名なオーストラリアのシンクタンクだが、同研究所は米国政府や軍需産業から多額の寄付金を受けている組織である。従ってASPIの見解が必ずしも客観的なものではないことに注意が必要だ。ASPIが衛星写真を根拠に「強制収容所」だと主張するウイグル自治区の施設も、実際には強制収容所ではなくて、老人医療施設や物流センターなど別の施設だとの指摘がある(Global Times、20/11/27)。
ニュースウオッチ9は、中国が「様々なオーストラリア産品の輸入を制限」するようになった理由について、オーストラリアが「中国の人権問題に懸念を示した」ことや、次世代通信システムを整備するプロジェクトで「中国企業の製品を使わない方針を打ち出した」こと、それに新型コロナウィルスの発生源調査を中国武漢で行うようオーストラリアの首相が提案したことに中国政府が反発したからだと説明し、「新型ウィルスの発生源は武漢だと誰もが知っている」と語るスコット・モリソン首相の発言を紹介。そしてASPIのジェニングス所長が、オーストラリアに対する中国の行動について、「オーストラリアを懲罰の標的にしている」と説明する。中国政府は「中国企業締め出し」や「新型コロナ発生源の調査要求」に「他国が同調」することを「懸念」しているから、「他国への見せしめのため、我々に懲罰的な対応をしている」のだそうだ。
こうしたオーストラリア側の主張に対しては、当然中国側の反論もあるだろう。例えば中国企業の排除については、オーストラリア政府は安全保障上の問題を理由にしている。具体的にはスパイ行為やインフラに対する妨害工作などが考えられるのだろうが、オーストラリアは経済的な覇権争いのために中国企業排除を試みる米国政府に同調しているだけで、オーストラリア政府も米国政府も中国企業がスパイ行為などを行っているという証拠を示していない。それに、実際にスパイ行為やインフラに対する妨害工作を試みようとしているのは、オーストラリアも名を連ねる「ファイブアイズ」ではないのか。「ファイブアイズ」は米国を中心に世界規模で諜報活動を行う米英豪など5カ国からなるグループで、米国の国家安全保障局(NSA)元職員のエドワード・スノーデン氏の内部告発などによって、NSAが米国の大手インターネット企業から「一日数百万件にのぼる顧客情報を提供させ」たり、国際通信ケーブルを傍受するなど諜報活動を行い、そこで得られた情報などがファイブアイズ内で共有されていることが明らかになった(小笠原みどり、『スノーデン・ファイル徹底検証』、毎日新聞出版)。 新型コロナウィルスの発生源については、中国の武漢が「発生源」だという証拠はない。特に米国政府が固執する武漢ウィルス研究所からの流出説については、科学者の多くが否定的で(朝日、21/8/29)、現地調査に入った世界保健機関(WHO)も可能性は「極めて低い」と評価している。こうした事実を伝えることなく、「新型ウィルスの発生源は武漢だと誰もが知っている」と断言するオーストラリア首相の発言をニュースウオッチ9が無批判に流すなら、ニュースウオッチ9は証拠を挙げることもなく新型コロナウィルスを「チャイナウィルス」と連呼してアジア系の人々に対する憎悪犯罪の増加を助長したドナルド・トランプ前大統領と基本的には同じ、無責任な態度をとっていることになる。 しかしオーストラリア側の主張に対する中国側の反論は、ウィルソンの発言に対して「オーストラリアが提起した独立調査は政治をもてあそび、感染防止のための国際協力を妨害するものだ」と反論する中国報道官の当時の記者会見の映像だけで、それ以外は番組の最初から終わりまでオーストラリアの右派シンクタンク所長の言いたい放題だ。
ニュースウオッチ9は、ジェニングスの主張を追認して先に進む。
「ジェニングス氏が指摘する中国による見せしめ。対抗する上で重要なのは、同盟国、アメリカの関与だと指摘します」
ただジェニングスによると、問題はアフガニスタンからの米軍の撤退で、米国の同盟国の間に不信感が強まっていることだ。
「アメリカは同盟国との関係強化を強調していただけに、アフガニスタンでの出来事がアメリカの同盟国に対する立場を大きく損ねることになるのではと懸念しています」
ジェニングスは「損なわれかねないアメリカへの信頼」の問題を克服するためには、米国の「同盟国」が「如何にアメリカの行動を促せるか」ということが重要になると指摘する。
「我々は、アメリカに最高の同盟国になるよう働きかけなければなりません。同盟関係で小国が大国に与える影響は小さくないのです。……インド太平洋でのアメリカの行動について、それぞれの同盟国が……働きかけていくことでこそ、アメリカを最高の同盟国にすることができるのです」
しかし、なぜオーストラリアと中国の関係が冷え込んでいるのかという問題に話を戻すと、その原因は、中国を敵視する “同盟国” の米国に同調し、中国企業排除や新型コロナウィルスの中国発生決めつけなど、中国に対する敵対的な行動を取るようになったオーストラリアの外交政策にある。ジェニングスもニュースウオッチ9も──ジェニングスは米国政府から寄付金を受けるASPIの所長だから当然だが──、米国との “同盟関係” が重要だという信念を疑おうとしないが、米国との “同盟関係” を強化するということは、自国の覇権のために中国に対して「強圧的」な態度を取る米国にさらに同調するということであり、中国との関係改善や地域の平和と安定を目指すのであれば、逆効果ではないだろうか。 アフガニスタンからの米軍撤退で米国に対する同盟国の不信感が強まったことは確かだろう。米国がリードする帝国主義的な国際秩序の中で国家を統治する側、あるいは米軍の存在が地域に平和と安定をもたらしていると信じることができる位に国際情勢に疎い一部の人間に対しては、米国に「見捨てられる」のではないかといった懸念を与えたかもしれない。しかし、それ以外の多くの人にとって、今回のアフガニスタンからの米軍撤退は、米国は自国の経済的・軍事的覇権のために好きなように行動するということが改めて示されたに過ぎない。米国は自国の覇権のためなら他国に侵略し、そこに住む人々の生活を破壊することも厭わない。東アジアでも西アジアでも南アメリカでも、米軍の存在は地域の不安定要因であり、平和や安定をもたらすものではないのだ。米国との “同盟関係” を強化することによって地域の問題を解決しようという考え方自体、間違っている。
ニュースウオッチ9は、田中正良が、
「オーストラリアの例は、中国との関係が悪化した場合どのような圧力を受けるのか、最も厳しい事例の1つなんです。……日本もこうした事例をよく見て、中国との向き合い方を議論していく必要があります」
と述べてニュースを終えているが、「強圧的」な中国が一方的に地域の緊張を高めているという偏った見方で地域の情勢を捉え、米国政府や軍需産業からの寄付金を受けるASPI所長の見解だけを一方的伝えて、米国との “同盟関係” を絶対視し、中国と「向き合う」ためには日本はもっと “同盟国” である米国に貢献しなければならないと印象付けようとする番組を見せられた後で、日本を含む東アジアの平和のための建設的な議論が始まるとは、とても思えない。
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