日本での野党共闘は、市民団体の幹部たちが手を合わせて作った組織「市民連合」が軸となって、左派・中道の各野党と相談しながら選挙協力のための統一政策を作り、市民団体がそのペーパーを携えて各野党を回って、党首たちによる調印という形を踏んでいました。これは選挙ごとに一定の効果を発揮し、結果的には大きな結果をもたらしたものでした。
一方、大統領選挙を終えたフランスでは、6月の国民議会選挙(下院)に向けて左派政党間で選挙協力のための話し合いが進められています。中心になっているのは大統領選で3位につけ、2位と肉薄したジャン=リュク・メランション党首が率いる「服従しないフランス(LFI)」です。すでにEELV(環境政党と緑の党の連合体)は協力の方向にあると報じられましたが、社会党が、いったんは交渉に入ったものの党内から異議を唱える声が出て、交渉は一度中断、という形になったとルモンドは報じています。
記事によれば、メランション氏の高圧的な姿勢が原因となっているらしく、「選挙協力は多様性を重視するべき」で一方的な押し付けであってはならない、という声が上がっているようです。さらに、選挙協力で党の方針を変えるのであれば、調印前に社会党員の信任投票が必要だ、という声も上がっているのです。
社会党と言えば2017年の大統領選までは巨大政党で、行政府も立法府も支配していた政党ですが、今回の大統領選でアンヌ・イダルゴ候補(パリ市長)の得票率は1.75%と10位に沈み、泡沫政党の候補者よりも低かったのです。これは衝撃的であると同時に、ある程度は予想されていた事でもありました。フランス社会党はわずか5年間で解党の危機にあると言っても過言ではなく、かつての大所帯だった社会党の右派議員や支持者はマクロン氏の政党に転じ、左派の議員や支持者はメランションの支持に分裂していきました。こうした中で社会党は独自性を失ってしまったばかりではなく、イダルゴ氏は負けが見えていながら選挙から降りることをしませんでした。結果的にその1.75%だけでもメランション候補に積まれていれば左派候補が決戦に進めたのです。
イダルゴ候補は「2回目の決戦で極右候補への歯止めを作ろう」と呼びかけていて、つまりフランス人にとっては決戦でマクロン対ルペンの対決になることを想定しており、決戦でマクロン候補に投票してください、ということを意味していました。しかし、実際にはEELVの4.63%と社会党の1・75%がメランション候補の21.95%と加算されていればマリーヌ・ルペン候補の23.15%に勝てたのです。いや、イダルゴ候補の得票だけでも1回目の投票で極右候補を落とすことは可能だったのですし、有権者たちの中にはそう信じていた人がたくさんいました。ですから、イダルゴ候補はメランション候補を勝たせたくなかったのだ、と解釈している人が多いのです。
社会党と服従しないフランスとの確執は2017年の選挙戦でも致命傷になり、メランション候補はあと一歩で決戦に進めませんでした。しかし、この時はメランション候補は社会党との選挙協力に応じず、単独で臨む構えだったのです。協力を拒んだのはメランション候補自身でした。メランション氏自身は社会党議員でしたが、社会党が新自由主義に傾斜していくのを見て、本来の左派路線を維持する左翼党を結成し、現在の「服従しないフランス」はその系譜にあると同時に、そこに様々な市民運動の人々が加わって急速に大きくなってきたのです。マクロン大統領もかつては社会党員でしたし、離党後もオランド大統領のもと、社会党政権の経済大臣でした。
今回の国民議会選挙は従来と違うパターンになるとの予測を伝えられています。それは通常はこのようなW選挙では大統領を生んだ党が国民議会選挙でも勝利する傾向が強く、そのことが行政府の政策を推進することにつながっています。しかし、今回は6割ほどの人が国会議員選挙ではマクロン政党以外の党を第一党にしたいと考えているらしいのです。そうした場合、極右政党の国民連合の躍進が考えられます。577議席中、前回8議席しか取れなかった国民連合は、会派を形成するのに必要な15議席は最低でも確保すると思われていますし、そうなれば議員グループを結成して質問などでも嫌でも応でも大衆の目につく政党になります。その意味では1回目の選挙でルペン氏に左派候補者が勝利していれば、違ったトレンドができていたのです。何よりも2回連続でルペン候補が決戦に勝ち残ったことは極右政党が二大政党に昇格したという印象を多くの人に刻んでしまいました。
■2017 年国民議会選挙の結果 (国会図書館)
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10404458_po_02720204.pdf?contentNo=1
■フランスの議会制度(国会図書館)
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11252030_po_1047.pdf?contentNo=1
今回の選挙でも結局、社会党支持者の多くが1回目の投票でイダルゴ候補ではなく、ある人はマクロン候補に、ある人はメランション候補に投票したと思われます。すでにイダルゴ候補は最初から大統領に当選する勝ち目はないと思っていたのは確かです。このイダルゴ候補の曖昧な姿勢は、急激な衰退の中にある社会党にとっては致命的ですらありました。社会党はこのままでは日本の社会党や社民党と同じ道をたどっていく可能性があります。
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