NHKが7月9日、安倍首相暗殺の翌日に不思議な情熱をこめて突貫工事で放送したNHKスペシャルを見て、昔学習したある英語の表現を思い出した。red herringである。直訳すると、燻製のニシンだ。ウィキペディアには次の説明がある。
「燻製ニシンの虚偽(くんせいニシンのきょぎ)、またはレッド・ヘリング(英語: red herring)は、重要な事柄から受け手(聴き手、読み手、観客)の注意を逸らそうとする修辞上、文学上の技法を指す慣用表現」
重要な事実から受け手の注意を逸らそうとする技法を示す慣用表現。まさに言い得ている。筆者がそう思う理由は、9日のNスぺでは犯人の動機については〜すなわち旧統一教会とのトラブルや安倍元首相との関係〜ほとんど触れず、統一教会の名前すら出さず、民主主義に対する脅威として、犯人が自家製で作った銃について多くのリソースを割いていたということだ。そこには、銃社会米国では…というような取材も入っていた。
NHKはわざわざ選挙の前夜に拙速でNスぺを作って放送し、ある特定の宗教団体とだけ報じつつ、最も重要な犯人の動機や背後関係についてはほとんど触れず、銃の恐ろしさを喚起した。視聴者の中には銃によるテロ時代の開幕か、内戦の予感か、という印象を抱いた人が多かったのではなかろうか。実際、銃の専門家2人へのインタビューが交えられていて、一連の文脈は政治家を選挙の時に銃で殺す危険性が指摘されていたのだ。
「特定の宗教団体」への恨みと報じられれば、旧統一教会だとピンときた人は報道業界には少なくなかっただろう。筆者の知人も第二次安倍政権以前に霊感商法の特集を日本テレビで取材放送していたくらいだ。しかし、一般の人々の場合は、在日のユダヤ教の団体と思った人がいたかもしれない。あるいは、アメリカのキリスト教徒かと思った人がいるかもしれないし、イスラム原理主義勢力と思った人がいたかもしれなかった。創価学会と思った人もいただろう。いずれにせよ、もし犯人が外国の宗教団体に関係していると受け取られれば日本の統治機構への重大な挑戦、あるいは戦争というミスリードの可能性もあった。世界で宗教対立、宗教紛争は戦争の源になっている。中国政府の場合は宗教団体や宗教組織を弾圧してきた。安倍元首相は国家神道を信奉する神道政治連盟(※)や日本会議と関係が深い。そこから、有事法制あるいは存立危機事態への回路が開けてくる。7月9日のNスぺは、核心は語らないまま、国家体制への危機感を増幅した番組だった。私がred herringと指摘するのは、この意味においてである。
※安倍内閣の閣僚20人中19人がメンバー 神道政治連盟とは? (NEWSポストセブン :2016年)
https://www.news-postseven.com/archives/20161014_454987.html?DETAIL
※「小川淳也議員による根本大臣不信任決議案趣旨弁明を悪意ある切り取り編集で貶めたNHK」(ハーバービジネスオンライン)
https://hbol.jp/187300
■国会パブリックビューイングを見に行く
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201902062355103
■上西充子著 「呪いの言葉の解きかた」(晶文社)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201905261630370
■安倍首相 「税は議会制民主主義の基礎である」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201411182309112
■連戦連勝を支えた首相のメディア対策チーム この危機を乗り切ったら現代史に名を残すだろう
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201703110229556
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