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2023年03月19日11時11分掲載
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アジア
ミャンマー「夜明け」への闘い(22)「わが子を学校に通わせるべきか否か」 西方浩実
「うちの子は、小学校には通わせない」。もしそう言う親がいたら、どう思うだろうか?子どもがかわいそう?親の身勝手?ミャンマー全土では今、多くの親が頭を抱えている。我が子のために、学校に通わせるべきか、否か。
5月25日。昨日からミャンマー全土で、公立学校に通う生徒たちの登録が始まった。毎年この入学登録のためにたくさんの親子が学校を訪れるらしいのだが、報道で見る限り、今年はどこも閑散としていたようだ。
私の友人も「息子は学校にはやらない」と決意の表情。なるほど、「軍の奴隷教育には反対!」という意思表示だな、と早合点した私に、彼女は切実な顔でこういった。「息子の命が心配なの」。えっ、いや、そんな大げさな。軍政下の小学校に通ったところで、兵士にされて戦場に連れて行かれるわけじゃあるまいし。
そう思ったが、彼女の説明を聞いて、合点がいった。「私の夫は、CDM(市民不服従運動)に参加している公務員なの。子どもが公立学校に通い始めたら『CDMをやめて職場に戻らないと、子どもを自宅に帰さないぞ』と人質にとられてしまうかもしれない」
あぁ、それは・・・ありえる。残念ながら。軍はいつもそうなのだ。ターゲットの人物だけではなく、その人の周囲の大切な人たちを使って、追い込んでいく。今までそうやって、ターゲットの配偶者や子どもたち・・・まだ生後数ヶ月の赤ん坊までが、軍にさらわれていったのだ。
「でも、学校に通う登録をしなかったら、それはそれでブラックリストに載るかもしれない。だから・・・登録の名前だけ書いて、通わせないようにしようかと思っているの」。そんなことできるの?と聞くと「たぶんね」と頼りない返事がかえってくる。みんな、何が起きるかわからない中で、少しでも安全そうな選択肢を探りながら生活しているのだ。
子どもを学校に通わせることへの心配は、ほかにもある。ひとつは治安。最近、ヤンゴン市内ではどこかで爆発や銃撃が毎日のように起きている。(ただしヤンゴン市内、といっても、ヤンゴンはかなり広大なので、そこらじゅうでバンバン爆発しているわけではない。)
学校の周囲でも爆弾が爆発することもある。新学期からの開校に反対する市民によるものか、そう見せかけたい軍によるものか、私にはよくわからない。確実に言えるのは、学校でさえ安全ではないということ。
さらにもうひとつの心配は、新型コロナだ。実はミャンマーの学校は、昨年も1年間閉校していた。つまり、公立学校の生徒たちはみんなすでに1年留年している。これは医療体制が脆弱なミャンマーで、コロナの感染爆発を防ぐための政策で、当時のNLD(国民民主連盟)政権は「生徒みんながワクチンを打ったら再開します」と宣言。ワクチンが開発されるや、日本とは比較にならないスピードで承認・輸入し、色々な「不要不急」をあざやかに後回しにして、2021年1月には接種をスタートしていた。えっ、もう?と、その速さに驚いたものだ。
2022年6月(ミャンマーの新学期)までに、すべての子どもにコロナワクチンをうつ。そして、みんなが安心して登校できるようになってから、学校を再開する。そんなアウンサンスーチー政権下のプランは、2月1日に終わった。クーデター前は1日1〜2万件あった検査数も、クーデター後は1日約1000件程度になり、最近はもはや公表もしなくなった。
友達は自嘲気味にこんなことを言っていた。「周りの国でこれだけ流行っているんだから、ミャンマーにも感染者は絶対いるよね。でもね、もし感染爆発しても、軍は隠すと思うよ」。
軍は公立病院でワクチンを提供しているようだが、少なくとも私の周囲では、軍の提供するワクチンを打った人は見たことがない。さらに今月追加でワクチンが届いたというが、中国からの支援とあっては、市民たちが喜んで受けたがるとは思えない。結局、コロナに関しては無策な状態で、学校は再開されようとしている。
子どもたちは、もし学校に通わなければ、留年2年目になってしまう。もちろん、それはどうにかして避けたい。冒頭の彼女も「なんとか学校に行かせてあげたい」と、学費の安い私立のインターナショナルスクールを探す。夫はCDMで給与を受け取ることができず、家計は心もとない。それでも「民主政権が戻るまでだから」と、その復活を心から信じ、子どもの命を守ろうと奮闘している。
▽NUGがオンラインスクールを開校 6月、ミャンマーの小中高校が再開した。昨年1年間、コロナで閉校していたミャンマー。今年出席しなければ、子どもたちの教育は、2年も遅れてしまう。にもかかわらず、地元メディアによれば、ヤンゴンの生徒たちの出席率は、わずか1割程度だという。軍政への不服従を貫く市民たち。その意志の強さと団結力には、本当に舌を巻く。
6月12日、2児の母親である知人は、明るい口調でこう話してくれた。「ママ友とのメッセンジャーグループで、確かめ合ったの。みんな、絶対に子どもを学校には行かせないようにしようね、って」。
それでも1割の生徒は学校に通っている。そういう生徒や親たちは、市民からの批判の対象にならないのだろうか?友人に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。「先生も生徒も、通学するときには制服を着ないように、って軍がアナウンスしたんだ。だから誰が学校に通っているのか、外からはわからないんだよ。みんな制服持参で登校して、学校についてから着替えてる。学校だけじゃないよ。他の公務員も省庁職員も、今は制服を着ていない」。
もちろん、通学する生徒や公務員が誰かに襲われたりしてるわけではない。おそらく軍は「子どもを通学させたいけど、周囲に批判されるのでは」と心配する親たちに、安心して軍に従ってもらうため、こんな通達を出したのだろう。いずれにせよ、学校に行くことや、公務員であることを、隠さなければならなくなってしまったのだ。静かな異常事態。
一方、民主派の亡命政府NUG(国民統一政府)は、市民の不服従への頑張りに呼応するように、オンラインスクールの開校を発表した。もちろん無料で、NUGが政権を取り戻した暁には、正式な通学期間としてカウントされる。
オンラインスクールに参加したい生徒たちは、決められた日にGoogle Formを使って登録し、Zoomで授業を受ける予定だという。講師を務めるのは、主にCDMに参加中の教師たちだ。2月からCDMを続けている学校教師の知人は「オンラインで教えるのは初めて。どうやって進めたらいいかな」と準備にそわそわ。もう先生として登録したの?と聞くと、「うぅん、今度NUGの教育省がオンラインミーティングを開くから、それに参加するの」と言う。
民主派は、政府もバーチャルなら、学校もバーチャル。教師の給与はモバイルマネーで送金される予定だというから、世界中のどこよりも先進的な政府が誕生したのでは、と思ってしまう。ただ、NUGが4月にCDM公務員に約束した給与の支払は、まだ実現していない。あらゆることが軍の監視下に置かれたミャンマーで、送金者も受取人もバレることなく、数十万人に給与を支払うのは、想像を絶する難題なのだろう。
友人の学校教師も、もちろん給与は受け取っていない。それでも彼女はこう言い切る。「私は給与がもらえるからCDMを続けているわけじゃない。これは私たち自身の問題なの。」
オンラインスクールが始まるにあたって、個人的に心配なのは、軍によってインターネットが遮断されやしないか、ということ。実は先週の夕方、約2ヶ月ぶりに全国で一斉にインターネットが止まったのだ。
私自身、大事なオンラインミーティングの予定が入っていたので、え〜っ、今日に限ってどうして!と困り果てたのだが、そこには何ともアホらしい事情があった。実はその日の夕方5時から、NUGが国民向けに今後の方針などをアナウンスする予定だったのだ。軍は、ミャンマー人がそれを観るのを阻止するため、全国のインターネットを切った。
その日、電話をかけてきた友人は「本当に軍はアホだよね」と鼻で笑った。「インターネットが繋がったら、また何回だってできちゃうのに」。そして、約1時間後にインターネットが復活すると、外国を拠点にしている(=ネット遮断の影響を受けない)ローカルメディアなどが録画を配信し、NUGからのアナウンスは、すぐに国民に知れ渡った。
「結局軍は、自分たちはNUGが怖い、というのをみんなに晒しただけ」と、友人は愉快そうに笑い飛ばした。
オンラインスクールも、もしかしたら軍に邪魔されるかもしれない。だけどこの調子なら、ミャンマー人たちは、軍の嫌がらせさえ弾みにして、さらに元気に高みを目指すだろう。軍政をひっくり返し、民主的な国をつくり、子どもたちが学校に通って自由な教育を受けられるようになるまで、まだまだ市民の抵抗は続く。
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クーデター直後の2月、ヤンゴンで撮影された写真。軍政下の教育は「奴隷教育システム」と揶揄され、現役教師たちも猛反対している(TheIrrawaddyより)
5月中旬、ミャンマー中部で行われた、教師による軍政への抗議デモ。教師も生徒も、白いシャツと緑のロンジーの制服を着て、堂々と歩く(The Irrawaddyより)
国営紙には連日「全国の子どもたちは学校に通えてハッピー」と題された写真が大きな紙面を割いて掲載された(Global New Light of Myanmarより)





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