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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2023年03月23日12時07分掲載
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アジア
ミャンマー「夜明け」への闘い(23)迫りくる新型コロナの悪夢 西方浩実
6月6日。ミャンマーに、コロナが戻ってきた。クーデター後も毎日、数人〜20人くらいの感染者が確認されていたのだけれど、5月末、それが突然90人台に跳ね上がった。そして、6月3日は122人(陽性率 8.4%)、6月4日は212人(陽性率 12%)と、一気に増えつつある。
今のところ、その多くがチン州の辺境の街(インドとの国境近く)で見つかっているとのことだが、すでに3日前には、ヤンゴンでも19人の感染者が出たらしく、今後、都市部でも広がっていくのは時間の問題だ。
▽クーデターでコロナ対応システムが機能停止 いつかくると、誰もがわかっていた。クーデター後も、時々思い出したように「今コロナきたらヤバイね」という会話を繰り返してきたのだ。でもこの現状で、打つ手がない。どうする、ミャンマー。
2月1日以降、ミャンマーはコロナを忘れた。ウィルスとクーデターでは、危機感のレベルは桁違いだったのだ。クーデター前、コロナ感染を恐れるあまりノイローゼのようになっていた同僚ですら、デモが始まると、迷うことなく群衆の中に飛び込んでいった。
クーデター前日まで1日2万件ほどあったコロナの検査件数は、クーデター後、1日1000件程度にまで減った。ざっと20分の1だ。というのも、コロナの検体を取り扱うラボの検査技師ももれなくCDM(市民不服従運動)に参加したし、コロナの検査をしていた公立病院は軍に占領され、人々が近づかなくなったからだ。軍は、陽性者数が減ったのをみて「コロナは抑えた」とアナウンスし、規制を緩めたが、もちろん、それがただの『軍政下のミャンマーはうまくいっている』というアピールだということは、誰もがわかっている。
コロナの感染拡大における最大の問題は、医療CDMの影響で、病院が機能していないことだ。友人に「もし今コロナの症状が出たらどうする?」と聞くと、彼女はキッパリと「検査は受けない」と言った。そりゃそうだろうな、と思った。もし検査で陽性が出て、そのまま軍占領下の病院に入院、なんてことになったら嫌だからだろう。
しかし、彼女が話してくれた理由は、私の想像とは違っていた。彼女はこう言った。「CDMを続けている医療者に迷惑をかけるから。もし陽性になって入院することになったら、きっとCDMのお医者さんたちには、職場に戻るようにさらにプレッシャーがかかってしまう。みんなのためにCDMをやっているのに、それは申し訳ないよ」。彼女の言葉にハッとした。市民はこんな形でもCDMを支えていたのだ。
現在の感染増加に対して、軍には何か対策があるのだろうか。これまでのところ、軍は感染者の多い地域にだけロックダウン令を出し、感染者が確認された地方の空港を閉鎖した。その他の地域にもすでに感染は広がっているはずだが、特にこれといった対策は出されていない。
クーデター前、NLD(国民民主連盟)政権下では、コロナ対応システムはかなりシステマチックだった。まず、コロナの症状が出た人は、街や区ごとにつくられた発熱外来を受診する。ここで症状をスクリーニングし、コロナ検査が必要と判断されれば、地域のチャリティ団体などが運営する救急車に乗って公立病院へ直行する。病院での検査で陽性が出れば、重症度によって病院や隔離センターなどに振り分けられる(注)。
しかしこうしたコロナ対応のシステムは、クーデター後、まったく機能していない。6月4日には、国際赤十字委員会の代表者がミンアウンフライン国軍総司令官と面会し、医療体制などについて話し合ったそうだが、国営新聞には「国軍総司令官が赤十字の訪問を受けた」という華々しい写真が載っただけで、何の中身も書かれていなかった。
軍の医療政策が頼りにならないのなら、民間の医療者はどうだろう。知り合いの医療者たち数名に聞いてみたが、残念ながらみんな「どうすることもできない」と首を振る。なぜなら、医療者たちが自主的に発熱外来を立ち上げたりすれば、軍からの攻撃を受けることが目に見えているからだ。
実は、ヤンゴン市内ではクーデター後、公立病院にかかれなくなった住民のための無料クリニックが10施設ほど立ち上がっていた。そこでは地域の医師たちが日替わりで、高血圧や糖尿病など慢性疾患の住民たちを、ボランティア診療していた。しかしこれらの無料クリニックは、ほぼ全て軍からの襲撃を受けた。そこで働く医療者たちは、CDM医療者でなかったにもかかわらず、次々に逮捕され、無料クリニックは全て閉鎖となった。
CDM参加者でもないのに、なぜ襲撃されるの?と医師たちに聞くと、彼らはこう答えた。「僕らにも理由はわからない。でもおそらく、本来、公立病院を受診するはずの患者が無料クリニックに流れてしまうから、きちんと医療システムが機能していることをアピールしたい軍としては、無料クリニックを潰したいんじゃないかな」
・・・なんてこった。本当に、国民のことは何も考えていない。(わかっていたけど再確認)。
では医療者たちは、CDMをやめて病院に戻り、コロナに備えるべきだろうか?実際、日本人の中には医療CDMに対して「自分たちの首を絞めている」と批判する人もいる。でも、少なくとも私の周囲のミャンマー人たちは、口を揃えて「病院に戻ってほしいとは思わない」と断言する。
ある友人は「戻れるはずないじゃない!逮捕されるもの」と笑い飛ばした。「同じことが1988年の民主化運動のときに起きているんだよ。当時公務員だった僕の叔父は、仕事をボイコットしてデモに参加していた。でも結局デモは鎮圧され、叔父も職場に戻ったんだ。その数カ月後だよ、彼が突然逮捕されたのは。1〜2年服役したと思う。そういう人は他にもいっぱいいた。今CDMに参加している人も、もし職場に戻ればきっと同じ目に遭うだろう。国のために闘っている彼らに、病院に戻ってほしいだなんて、誰も思わないよ」
また、別の友人はこう話した。「昨年コロナが流行したとき、病院でこんな物品が必要だ、とか、こういう対策が必要だ、と保健省に言うと、政府はすぐに対応してくれたの。そんなこと、軍政下では絶対にありえなかった。医療者たちは、あぁこれが民主主義なんだ、現場の声が政策を変えることがあるんだ、と初めて知って、これから医療は変わる、と希望を持ったの。軍政に戻るということは、そういう医療の状況もまた後戻りするということ。医療CDMには、ミャンマーの医療の未来がかかってるんだよ」
これからくるコロナの波に、どう対応するのか。軍は、本当の感染者数をきちんと発表してくれるのか。刻一刻と増え続ける感染者数に漠然と不安を抱えながら、日常は続く。
(注)こうしたシステムの構築と維持を可能にしたのは、多くの住民ボランティアの働きや、篤志家・財団などからの数億円単位の寄付だ。残念ながらそうした人々の一部も、クーデター後に拘束された。
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チン州で亡くなった、コロナ感染患者。棺を包むのは、チン族伝統の織物。チン族にはクリスチャンが多く、棺にも十字架が添えられている(The Irrawaddyより)





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